佐々木健三会長のあいさつ
大会参加の代議員、評議員のみなさん、いま農村と農業の現場では、農業つぶしの政策、洪水のような輸入による価格破壊によって、農業経営と農民の生活が塗炭の苦しみに直面しています。その中にあって、生産点にしっかり立ち、仲間を励まし、地域の共同を広げる活動をすすめるみなさんに、心から敬意を表します。
憲法守るたたかいに全力あげて大会の目的は、この間の運動の成果を確信に、今日の激動の情勢を踏まえた今後の方針と体制を確立することにあります。特に(1)草の根から「WTO(世界貿易機関)、FTA(自由貿易協定)から食糧主権へ」「憲法を生かしてこそ農業が守れる」の国民的たたかいを広げること(2)農業構造改革に対峙(たいじ)し、安全・安心な生産を拡大し、国民的なネットワークを広げ、農山村を元気にすること(3)地域の生産と運動を担える組織づくりと、新聞「農民」読者を飛躍させること―です。前大会からの二年間は、まさに激動の二年間でした。小泉内閣を継承すると言って登場した安倍内閣は、たいへん危険な内閣です。昨年末の国会では、教育基本法改悪を強行し、防衛庁を防衛省に昇格しました。ブッシュ米大統領のイラク政策に、だれよりも早く賛成しています。そして構造改革と称して、庶民いじめの悪政を強行しています。安倍首相は、在任中に憲法を変えると公言しました。平和憲法を守るたたかいが正念場になってきました。農民連もこのたたかいに全力を上げ、運動に取り組んでいこうではありませんか。
FTAは農業に大打撃を与えるいま、日本・オーストラリアFTAが大きな問題になっています。日本農業に壊滅的な打撃を与える最悪のシナリオは、農産物で七千九百億円、関連産業を含めると一兆三千億円の被害です。しかもオーストラリアと合意すれば、アメリカなどが同じ内容の合意を要求する状況になることは明らかです。財界いいなりの安倍内閣は、農民の声を無視して交渉に乗り出そうとしています。これに反対するたたかいに全力を上げ、運動に取り組んでいきます。この間、ASEANやアジア諸国とFTA、EPA(経済連携協定)交渉がすすめられ、合意もされています。その中でも日本・フィリピンEPAは両国の農民、労働者にさまざまな苦難を及ぼすことが明らかになっています。特に問題なのは、有害で危険な産業廃棄物を日本からフィリピンへ輸出することです。ビア・カンペシーナ女性研修がフィリピンで開かれ、農民連も参加しました。現地の人たちから「日本は危険な産廃を持ってくる」と強い抗議を受け、何が何だか分からず、しかし農民連の立場を訴え、「あなた方は良い日本人だ」と認めてもらったとのことでした。
弱国を力でねじふせる日本政府十月にローマで開かれたFAO(国連食糧農業機関)の食糧安全保障委員会では、ビア・カンペシーナ代表のヘンリー・サラギ氏が発言し、日本について二回ふれています。なぜ日本について発言したのかとの問いに、彼は「日本は国際舞台でアメリカに隠れて姿を見せない。しかし日本の大企業の行状は、もっと明らかにしなければならない。それは、新自由主義そのものだ」と答えました。フィリピンの例は、経済で相手を屈服させるということです。まさにヘンリー氏の指摘どおりです。そのことを裏付けるように、フィリピン政府の担当者は、「一万千三百件の中の一、二件に同意しなければ、他の事案全部を失うことになると告げられた」と告白しています。 力の強い日本が弱い国を力でねじ伏せるこのやり方は、新自由主義、グローバリゼーションの本質をむきだしにしたものです。農民連は、この弱肉強食のWTO、FTAの流れを食糧主権の流れに変えることを、「食糧主権宣言」(案)で提案しています。ビア・カンペシーナはじめ、世界の民衆とともに歩んでこそ、自らの発展も切り開かれると確信します。
大きく発展した農民連の国際活動以上の点を踏まえて、特に強調したいことは、国際活動の発展です。日本の農民運動の歴史の中で、国際活動がここまで発展したことは、大きな意味を持つものです。農民連は、二〇〇五年五月にビア・カンペシーナに正式加入しました。また〇六年五月には、ビア・カンペシーナ東南・東アジア地域会議が日本で開かれ、受け入れを準備し、会議にも参加しました。そしてこの会議に参加した海外代表が、日本農業の実態と農民連の活動を知る機会になり、とりわけ以下の活動がたいへん注目されました。それは、(1)高度に発達した工業国の日本で、農業を守り発展させる組織があったこと(2)機関紙を発行し、財政的にも独立していること(3)生産点での活動を重視し、産直や直売所、学校給食への供給、ふるさとネットワーク、食健連運動など、国民的視野で活動していること(4)食品分析センターの活動―です。世界の農民運動で、自前の分析センターを持っているのは農民連だけという声も聞かれました。農民連の結成以来培ってきたさまざまな活動が、実は国際活動の発展にも大きく貢献していることになっているのです。私は改めて農民連のこの道に確信を持つものです。
絶対納得できない品目横断対策WTO体制のもとで、輸入自由化をいっそう推し進めることを前提にした品目横断的経営安定対策がスタートしました。同対策は、とても私たち農家が納得できるものではありません。第一にその対象農家を経営規模で制限するという前代未聞のやり方です。およそ現場や現実を知らないものの発想であり、その矛盾は極めて深刻です。この本質を見ながら、どうすれば生産農家の実利にかなうか、どうたたかっていくか、しっかりと見極めて、取り組んでいこうではありませんか。大きい農家も小さい農家も、専業や兼業もみんなで一緒になり、力を合わせて生産を発展させることこそ大事です。この分野でも、私たち農民連の役割と力の発揮が求められています。
困っている時に助け合う精神で私は、昨年末に小さな出来事でしたが、大変感動的な経験をしました。私の親せきで農民連会員でもあるりんご生産農家が、秋口に体調を崩して入院し、手術をしました。当然のことながら、作業は滞ってしまいました。それでも親せきや近所の手を借りて少しずつ片付けましたが、肝心のりんごの収穫が残っていました。本人はすっかりあきらめていました。実のところ私も「大変だなあ」ぐらいに思っていたのですが、妻から何気なく「農民連は困った時に助け合うこともできますよね」と言われ、ハッと気づきました。こういう時こそ全力でやらなければならないはずだと思い、その場で福島県北農民連事務局長に電話を入れました。 それからの彼の行動はテキパキとしていて、二日後に農民連の仲間で作業する段取りになりました。朝九時に、軽トラックに脚立とかごを持参した仲間十人が集まりました。その仕事ぶりは見事なもので、みんな黙々と作業し、コンテナ百個分を午前中で採り終え、三十五個を即販売し、年末三十日に代金を届けることができました。 人をけ落としても自分たちは勝ち残るという風潮がはびこる中で、困った時はお互い様と、決して気負うことなく仕事をする仲間の姿を見て、私は深い感動をおぼえました。今こそ、地域や農村の中でこうした助け合い運動、仲間を通して連帯することがたいへん重要だと感じました。
会員・読者ふやし強大な農民連を私たちをめぐる情勢は確かに厳しいものがあります。しかし、国際連帯の活動で切り開いてきた新たな展望と同時に、国内的には、国産の食料を増やし、自給率向上をはかってほしいという国民的多数の要求があります。内閣府が十二月二十一日に発表した「食料の供給に関する特別世論調査」によると、食料自給率四〇%は「低い」と思っている人が七割を超え、四人に三人は将来の食料需給への不安を感じています。六年前より一七ポイントも増えています。「外国産のほうが安い食料は輸入するほうがよい」と答えた人は七・八%で、調査を始めた一九八七年の二〇%から大きく減りました。逆に「高くても国内で作るほうがよい」という人は八六・八%で過去最高です。私たちは、自らの要求を実現する組織ですが、その願いは国民の願いと一致しているのです。 今後とも、農民連の方針に確信を持って前進しようではありませんか。そのためにも、新聞「農民」を広げ、仲間を増やし、強大な農民連を建設しようではありませんか。
(新聞「農民」2007.1.29付)
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[2007年1月]
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