「農民」記事データベース20050801-694-04

悪政を打ち破り、地域の生産を担える組織へ前進しよう

全国委員会への報告(1/3)

二〇〇五年七月十三日 農民連常任委員会

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A 今日の情勢と農民連の役割について

(1)改憲、暮らし破壊の政治と国民の激しい攻防

 自民党、公明党、民主党が憲法改悪を競い、次期国会で「国民投票法案」の成立をたくらむなど、緊迫した状況となっています。

 一方、「九条の会」の呼びかけによって、「農林水産九条の会」を含め、地方・階層の「九条の会」が全国で二千五百以上に広がるなど改憲を阻止する世論と運動が高揚しています。

 また、小泉首相は、国内で三百万人、アジアで二千万人を超える命を奪った侵略戦争を美化し、戦争に国民を動員した精神的支柱であり、戦犯を英霊としてまつっている靖国神社への参拝を繰り返しています。アジア諸国をはじめ、国の内外から厳しい批判が沸き起こり、小泉内閣は重大な行き詰まりに直面しています。戦争美化勢力が改憲勢力の中心であり、改憲のねらいが戦争する国づくりにあることを浮き彫りにしています。

 年金改悪に加えて介護制度の骨抜き、障害者福祉の切り捨てなど、国民の暮らし破壊を進める小泉内閣は、六月に政府税調報告で、大企業減税はそのままにして、〇七年から消費税率を引き上げる方向とともに、所得税・住民税の定率減税廃止、配偶者控除、扶養控除、給与所得控除など各種控除を廃止・縮小するという大増税計画を打ち出しました。消費税二ケタ増税と合わせて増税額は二十四兆円にも及びます。

 各種控除は衣食住など最低生活費非課税を建前につくられたもので、これを取り払うことは生存権を破壊するものです。

 「郵政民営化法案」は、国民の財産を日米の大企業に売り渡し、国民サービスを切り捨てるもので、もうからないという理由で農山村から郵便局が撤退し、農村の疲弊に拍車をかけることになりかねません。

 こうした小泉内閣の悪政は、国の内外からの厳しい批判にさらされ、自らの支持基盤さえも掘り崩しています。

 「郵政民営化法案」が衆院本会議で可決されたものの、自民党から大量の造反者が出て、小泉内閣が窮地に追い込まれ、緊迫した「政局」の様相となっていることは、国民の批判の現れです。平和と民主主義、暮らし、農業破壊の小泉内閣の基盤が急速に弱体化し、退陣に追い込む絶好のチャンスとなっています。

(2)農業・食糧をめぐって

1、外圧でゆがめられるBSE安全基準と、アメリカ産牛肉輸入問題

 政府は国民の多数の声よりもアメリカの要求を優先して国内のBSE検査から二十カ月以下の牛の除外を決めました。また、アメリカのズサンな対策に目をつむり、二頭目のBSE感染牛の発生という事態を無視してアメリカ産牛肉を輸入する動きを強めています。

 しかし、農民連・食健連の粘り強い運動や訪米調査団の告発、二頭目のBSE感染牛の発生は、アメリカのズサンな検査体制と全頭検査の必要性を浮き彫りにし、「政府はアメリカ言いなりになるな」「アメリカ産牛肉ノー」の世論をさらに高め、政府を包囲しています。

2、WTO交渉、FTA(二国間自由貿易交渉)による自由化と「農業構造改革」

 (1)矛盾を深めながら危険なねらいを強めるWTO交渉
 シアトル(アメリカ)、カンクン(メキシコ)での決裂を経て、混迷しているWTO交渉は、十二月の香港閣僚会議での決着をめざしています。

 交渉は、超大国・多国籍企業ブロックと、WTOの弊害に苦しむ途上国や世界の民衆がぶつかりあい、WTOの存在そのものが問われるほど混迷を深めています。

 同時にアメリカなど超大国は、インド、ブラジルを取り込んで途上国を分断し、五カ国グループを結成して関税の引き下げ方法をめぐって密室協議を行うなど、予断を許さない状況にあることもまた事実です。

 今回の交渉で日本の米(関税四九〇%)をはじめ、主要品目の関税を大幅に引き下げるねらいであることは明りょうです。日本政府がミニマム・アクセス米の削減・廃止の主張を放棄していることに加え、関税引き下げを前提にひとにぎりの「担い手」を対象にした「経営安定対策」を打ち出したことは、WTO交渉に白旗をあげて挑むに等しいもので、こうした点でも事態は緊迫しています。

(2)FTAをめぐって
 政府は、昨年のメキシコとの妥結に続いて、マレーシアやフィリピン、タイ、韓国など、アジアやアセアン諸国とのFTA交渉を進めています。

 農民連がビア・カンペシーナ東南・東アジア地域会議で交流した農民組織の代表はFTAを次のように告発しています。

 「日・タイFTAは、日本の農民に被害を与えるとともに、タイ農民にさらに輸出型農業と企業支配を押しつける」(タイの農民組織「貧民者連合」APO)、「日本がバナナの輸入を自由化し、多国籍企業のプランテーションで日本向けバナナを生産するようになってから、ミンダナオ島では自給用生産(コメ、トウモロコシ)が縮小し、飢餓が増えた……日本政府が小型バナナの関税を引き下げるという話は初めて聞いたが、まったくぎまんだ。その小型バナナをドールなど多国籍企業が支配するだろう。自給用のバナナまで輸出用に奪い取るつもりなのか」(フィリピンの農民組織「フィリピン農民運動」KMP)。

 FTAは、日本農業を犠牲にするだけでなく、相手国の農民と国民をますます日本の多国籍企業の支配下において苦しめ、飢餓を拡大することにほかなりません。

 タイ国民の強い抵抗で交渉が難航している日・タイFTA交渉をめぐり日本の自動車企業は、「タイ側がこれ以上、自動車・鉄鋼市場開放に抵抗するのであれば、タイにある日本企業の子会社を中国に移転する」とどう喝しました。これは、多国籍企業化した日本の大企業が、FTAを通じてアジア諸国を日本の経済的属国にするという本質をあからさまに示したものです。

3、新「農業・食料・農村基本計画」のねらい

 三月に打ち出された新「農業・食料・農村基本計画」は、WTO交渉やFTA・EPA交渉で農産物の関税を撤廃・引き下げることを前提に、輸入農産物との競争を日本の農業に迫り、これに耐えられる農業構造にするとして多数の農家を生産から排除しようというものです。その誘導策として直接支払いによる「経営安定対策」をバラ色に描いて推進されようとしています。

 しかし、生産を担う農家を減らすことは、今ある生産力さえ失うことにほかなりません。また、価格を市場原理にゆだねたままでの「経営安定対策」が「担い手」の経営に役立つのか、財界が制度のスタート前から打ち切りを主張する「経営安定対策」がいつまで続けられるのか――こうしたねらいや問題点が覆い隠されたまま、「構造改革」が農村の現場で推進されています。

 一方、担い手を絞り込むことに対し、地域農業の振興とのはざまで対応に苦慮する自治体、農業委員会、農協も少なくありません。

 グローバリズムを「世界の流れ」として、市場主義、競争主義を唯一のものさしとする「構造改革」は、農協をはじめあらゆる協同組合への攻撃でもあります。「構造改革」に協同組合が原点を忘れて無批判に迎合することは自らの存立の基盤を掘り崩しかねません。

 今、協同組合を担っている人たちのなかに協同組合の原点を模索する動きが広がっており、こうした人たちとの共同を広げることが重要になっています。

(3)たたかい、連帯して運動を広げた農民連の活動

 農民連は「九条の会」の呼びかけに応えた「農林水産九条の会」を広範な方々と共同して立ちあげるなど、憲法改悪に反対する運動に全力をあげてきました。

 BSE問題で食健連と共同し、地方での運動とも結んで農水省、厚労省、食品安全委員会に対する波状的な要請行動、アメリカと国内の専門家を招いた緊急フォーラムの開催、訪米調査団の派遣など、BSE問題での共同と国民世論を広げる中心的役割を果たしてきました。

 また、新「基本計画」のねらいの暴露と、自給率向上を軸にした農政への転換を要求し、共同と世論を広げるために力を尽くしてきました。

 「米改革」のもとで米価や流通が異常事態にあるなかで、政府に緊急対策としてゆとりある備蓄を確保するための政府買い入れ、超古米販売の中止、流通に政府が責任を持つことなどを要求するとともに、「米改革」の中止と、稲作を再生する抜本的な政策の確立を要求してきました。

 農民連は、五月に東ティモールで開かれたビア・カンペシーナ東南・東アジア地域会議で、ビア・カンペシーナへの加盟を申請し、承認されました。農民連の加盟は、ビア・カンペシーナに加盟しているアジアの農民諸組織から熱く歓迎されています。これは、WTOとのたたかいや食糧主権の確立をめざすたたかいを、世界の農民と連帯し、国際的に発展させる条件を大きく切り開いたもので、「もうひとつの流れ」を広げるうえでも、また、日本の農民運動としても新たな到達点を築きました。

 また、農民経営が重大な事態となっているとき、地域での生産のよりどころとなって生産を広げ、国民との連帯を広げ、多様な販売ルートを広げる運動を「農民連ふるさとネットワーク」と共同して前進させてきました。

 「構造改革」によって農家が選別され、地域農業が様変わりさせられようとしているなかで、こうした攻撃をはね返し地域の生産する力を高め、国民と連帯して地域の農業を守る拠点としての役割を果たすこと、そのために多数の農家を結集する大志をもって運動と組織を飛躍させることが今ほど求められているときはありません。

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(新聞「農民」2005.8.1付)
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2005年8月

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