準産直米を飛躍させるために農民連米対策部事務局長 横山昭三氏の報告
規制緩和が進む米の流通業界の実態と、準産直米の飛躍をかちとる課題について報告します。
今年も不作なら大パニック、国民無視した備蓄政策まず政府米の備蓄状況です。今年十月末、政府は八十五万トンの備蓄米を見込んでいます。しかし、このうち九六、九七年産の四十八万トンは、変質がはなはだしく主食に耐えないもので、これを除くとたったの三十七万トンしかありません。 しかも政府は、〇三年産の政府米を十万トン集める計画でしたが、昨年十二月末で千五百トンしか集まっていません。そうすると二十七万トン、国民の消費量の十二〜十三日分しかないことになります。もし今年も不作だったり、作柄が遅れれば大パニックになります。 それでも、「心配ご無用」と言う政府の腹の内は、百二十八万トンも積み上がっているミニマム・アクセス米――「足りなくなれば輸入米をどうぞ」という考えです。これが政府の言う「消費者に視点を置いた農政」の正体です。
流通は規制緩和、買い占め・買いたたきは自由米の流通は、今年四月からいっさい規制がなくなります。登録制から届出制に変わり、誰でもできるようになり、卸・小売・集荷業者の垣根もなくなります。農協から県経済連、全農、卸、小売という米のルートはなくなり、どこからでも売り買いできるようになります。
価格の乱高下を演出する大手卸昨年は、作況指数が九〇で一割の減収でした。ところが価格は一時、五割高まで高騰しました。これは自然な価格形成ではなく、大手業者による買い占めや価格つり上げが行われました。これが規制緩和を見込んだ「米ビジネス」です。 ある大手卸は、政府が需給と価格の安定を目的に放出した備蓄米を十トン単位で、運賃コストもかけない置き場渡しで中小の卸に転売し一俵当たり一五%以上の利益を乗せ荒稼ぎをしています。 自主流通米入札でも、相場をつり上げ、価格操作で大もうけをしています。今の入札制度は、値幅制限がありません。足りない時はいくらでも高く、余ってくればいくらでも安く買いたたけます。しかも一社で三割まで買い占めが可能で、三社で組めばほぼ全部買い占めることができる仕組みです。 こうした大手卸は、自主米や政府米を手当てできなかった中小の卸を相手に、利ざやを稼ぎ、その一方で、自分が納入する業者には価格を上げず、競合する他の業者を駆逐していっています。
買い占め放置し、 政府自らも「米ビジネス」農民連は、農水省との交渉で再三、こうした実態を明らかにして、しっかり監視と規制を行えと要求していますが、農水省は「通常の商行為」だと言って放置しています。 なぜ放置するのか。その理由は「米ビジネスの発展で、売れる米づくりを流通面から促進する」というのが、「米改革」の精神だからです。 さらに政府米の買い入れも売り渡しも、四月以降は入札になります。安いものから買っていき、高いものから売っていく、政府自ら胴元になり、「米ビジネス」をやろうとしているのです。
進む「米離れ」と米屋つぶしこうした状況のなかで、米の消費も相当落ち込むことが懸念されます。まともな米を買おうと思えば、とんでもない高値、普段の価格の米を買おうと思えばブレンド米。中に何が入っているかわかりません。十二月も一月も、米の販売に急ブレーキがかかっています。 福島の安達町では週五日の米飯給食を、米価の値上がりで四回に減らしました。これで米の消費は二割減です。こういうことが各地で起こるのではと懸念しています。 また、中小の卸・小売の淘汰も起きています。昨年秋、小売店に対して「スーパーの米を確保するのに手いっぱいだから、以後、米屋には卸せない」という通告をした大手卸もありました。米屋さんは、今年はもうけを考えない、一年間なんとかしのいでいこうと必死です。「米改革は米屋つぶしだ」という声があがっています。 そうした中で、全農は、大手量販店、大手の外食産業、大手卸とどうつながっていくかしか念頭になく、中小の卸や小売店は眼中にありません。
もう一つの流れ――「準産直米」への期待米を一部の大手卸や商社の金もうけの道具にするのか、それとも、米を対面で販売し、私たち生産者の思いを消費者につないでくれる業者とネットワークを広げて、日本人の主食である米を守っていくのかが問われています。大手中心の米流通に対して、農民連と業者が共同して生産者と消費者をつなぐもう一つの流れ、準産直米に対して、各方面から大きな期待が寄せられています。 昨年は、東京と大阪で米屋さんとの大規模な交流会を開きました。その中で、「従来の卸は当てにならない。産地とつながらないとやっていけない」という声が共通して出されました。 生産者の中でも「大手中心、市場原理だけの流れでいいのか」という声が広がっています。農民連のホームページを見て加入を申し込んでくる農家、新聞「農民」を見て、自分の米をそういうところに出したいと言ってくる農家が出てきています。また、農民連の呼びかけに応えて、今、二つの農協が私たちと共同して準産直米にとりくんでいます。いずれも、大手中心・市場原理だけで米流通が占められていいのかという思いから参加してきているのが特徴です。
二〇〇三年産のとりくみの教訓から学んでそういう中で、準産直米のとりくみですが、〇二年産に対して、〇三年産は約八割にとどまりました。収量が減ったということが大きな要因ですが、高騰した米価に流されたという要素も少なくないと思います。いま進められている「米改革」との関係で、準産直米の意義の徹底はどうだったのか、また、本当に業者を通じた顔の見える流れになっていたのかというのが反省材料です。 しかし、各地で農協や他の業者に出すのをやめて、農民連一本にした農家もたくさんいます。組織的に大きく前進させた長野の「佐久楽農倶楽部」や九州の各県などの貴重な経験もあります。 教訓は、(1)「米改革」の学習と準産直の意義の徹底、(2)目先の利益にとらわれず価格に左右されない、将来を見すえた対応、(3)幹部の請け負いにしないで、生産者自らが運動に加わるということがあげられます。
今年産のとりくみの飛躍をめざして
(1)業界と向かい合える量を確保しよう今年のとりくみですが、業界と向かい合える数量を確保するというのが目標です。各道府県から二倍、三倍、力ある組織からは五倍、十倍、共同している農協も「二倍に増やしたい」と言ってくるなど、各地から意欲的な計画が出されています。長野県のある集落では、農協と業者、農民連に三等分して出荷することを決めたそうです。全国で真剣にとりくんで、文字通り業界と向かい合える量にしたいと思います。
(2)どんな米を作るのか組織で討議を次にどんな米を作っていくかという問題です。昨年産は米不足でしたが、今年が平年作になれば一転して販売競争になっていくと思います。米屋さんからは一様に、「農民連の米は非常にいい。安全性に気をつけてくれている」と言われています。その一方で、「それがどこにも書かれていない。もっと特色を出してほしい」とも言われています。そういうとりくみもしてほしいと思います。 農水省は、今年産米から特別栽培米のガイドラインを変え、化学肥料も農薬も半分以上減らした米のみを「特別栽培米」にします。全体に「特別栽培米」が減ることが予想されます。 私たちは、可能なところは「特別栽培米」に挑戦しながら、たとえ半分以下にならなくても、減らす努力を評価したいと思います。土づくりを前提に、安全な米づくりに努力し、それを何らかの形で表現していく方法を考えてはどうでしょうか。組織で大いに議論し、知恵を働かせてください。 その前提として、栽培履歴の記帳は、当たり前のこととしてやっていきましょう。また、農民連食品分析センターも大いに活用しましょう。 日本中がコシヒカリ一色になるなかで、様々な銘柄・栽培方法の米も積極的にとりくむ必要があります。また、米以外の農産物、加工品も提案していきます。
(3)情報の発信と顔の見える交流を産地と消費地をつなぐ情報の発信や、顔が見える交流も大事です。情報の発信は田植えのときから始めてください。福島県農民連は、「安心ナビ」というトレーサビリティシステムを導入しています。生産者を登録し、栽培面積や銘柄、肥料、農薬、栽培記録、生産者の顔写真などをインターネット上で見ることができる仕組みです。今年から福島だけでなく、山形・庄内などいくつかの産地も加わります。積極的に参加してほしいと思います。 また、写真がとても大事です。青々とした田んぼ、黄金色の田んぼをバックにして、一人でも、家族一緒でも、グループでも撮ってください。 福島では、交流会のためにバケツ稲の栽培を消費者に広げたらどうかという話が出ています。こういった工夫も大事です。いろいろ知恵を働かせましょう。
(4)価格問題価格の問題ですが、市場価格を参考にしながらお互いに納得できる決め方が必要です。同時に将来的には、生産費を償える価格を前提にした「播種前契約」的なものを探求していきます。 今のような価格の乱高下は、私たちと同様、業者も迷惑しています。東京の若手の米屋さんグループから「いくらなら作り続けてくれるのか、それを示してくれ。私たちも消費者がいくらなら買ってくれるか、業者としていくら利益を確保すれば商売が続けられるか計算してみる」と提案されています。いっぺんでまとまる話ではありませんが、お互いにこれ以上は上げない、これ以下には下げないという基準を設けて、市場価格の変動に対応していくのも、一つの方法だと思います。
(5)年間供給できる体制作り米を年間供給するためには、保管やモミすり、乾燥などの施設も手当てする必要があります。 また、食糧事務所の米の検査は〇五年産で終了します。自ら検査機関を立ち上げるか、他の業者に委託する必要があります。早めに本部に相談してください。 資金の問題では、それぞれの農家で支払いの事情もあり、年末にはお金がほしいという気持ちはわかります。 ただ、「売れる米づくり」という「米改革」の流れの中で、農協も今後、どんな米にも仮渡しを続けていくとは考えられません。業者も、価格がどうなるか分からないのに前金で買うということもありえないと思います。「農家が共同して売り切って支払い」していくことを基本にし、そのうえで組織として資金の手当てを考える必要があると思います。
(6)春から目標と計画を明確にして米は、とれてから集めようと思っても集まりません。目標と計画をしっかりもってとりくむことが大事です。三月には産直・準産直の登録運動を進め、四〜五月には、県ごとに目標と計画を立て、業者との話し合いを進めます。超早場米については四月中にそれをやっていきます。 六〜七月は農閑期も利用して情報発信や業者訪問をやります。八月下旬〜九月上旬には、お米屋さんとの交流会を昨年と同様、東京と大阪で開き、十一〜十二月は、米屋さんとの収穫祭、ワラ細工教室などにとりくみたいと思います。
(7)新ルート開拓と米流通対策の強化新たなルートの開拓と米流通対策の強化も重要です。引き続き、大消費地の卸や小売団体、あるいは地元や隣接する都市の業者とのとりくみを強化していきます。小売団体にも、仕入部門作りや共同購入の声があります。こうした小売グループ、団体と大いにとりくみを強めていく必要があります。 また、新婦人産直の対策も重要です。消費地や産地での大規模な交流会、定期的な話し合いによって実績を上げているところがあります。東京では、業者を通じた新婦人産直も一部で始まっており、こうした教訓を全国のものにしていく必要があります。 生協に対しても積極的に協力を呼びかけ、流通の可能性を模索していきます。
経験と実績、全国ネットの強みを生かそう今年が平年作であれば、単位農協や生産者グループによる激しい売り込みが始まるでしょう。しかし私たちには、米の業界と付き合ってきた五年の蓄積があります。どの農協も産地も、売り込むのは自分たちの米だけですが、農民連は全国ネットの力を生かして、共同して局面を切り開くことができる唯一の団体です。 また、今夏までに、農民連と産直協が共同して「全国ふるさとネットワーク」を立ち上げます。 当面、米を中心にとりくもうと話し合っており、体制も強化していく方針です。文字通り、今年を準産直米の飛躍の年にするために一緒にがんばっていきましょう。
(新聞「農民」2004.3.1付)
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[2004年3月]
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