「農民」記事データベース20040301-625-06

米つぶしの「米改革」とどうたたかうか

農民連米対策部長 堂前 貢氏の報告

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 「米改革」の中心的ねらいは農民のリストラに

 いま、全国でいっせいに「地域水田農業ビジョン」づくりが進められています。三月末までに作らないと「産地づくり交付金」がもらえないということをテコに、農水省は猛烈に尻を叩いています。

 農民連は、「米改革」のねらいについて、政府が、主食・米に対する責任を放棄し、輸入自由化を前提に、農家をリストラして米の生産を減らし、米の流通を大企業にあけ渡すこと、そして政府の農業予算を大幅に削減することにあるということを繰り返し明らかにしてきました。

 今日の時点で、米を守るたたかいにとって重要ないくつかの点にしぼって報告します。

 まず、「米改革」の中心的なねらいは農民のリストラにあるということです。

 農水省が作った「農業構造の展望」によると、九九年の総農家数は三百二十四万戸ですが、このうち国としての育成対象は「効率的かつ安定的な農業経営」で、家族農業経営で三十三〜三十七万戸、法人・生産組織で三〜四万、合計で約四十万経営体、米では、現在の稲作農家百七十万戸を八万戸程度に減らすことを打ち出しています。「米改革」は、そのテコであるということです。

 「米改革」のもう一つの重要なねらいは、国が減反政策から一切手を引き「農業者・農業者団体が主役となるシステム」にもっていこうということです。

 「新食糧法」には、国が減反目標を配分するのは〇四年から〇六年までの三年間で、最長でも四年間と明記されました。〇八年以降はいっさい手を引くとしています。

 「産地づくり交付金」などの転作助成についても順次削減し、二〇一〇年の「米づくりのあるべき姿」までに廃止するとしています。

 「地域水田農業ビジョン」は、こうした流れのスタートラインをつくるためのものですが、先に進もうとすればするほど、農民との矛盾が深化するという事態にあります。

 米つぶしに乗り出した財界・大企業の思惑

 最近、財界による農業・食糧政策に介入する発言が相次いでいます。

 メキシコとのFTAが成立しないことに対して財界は「四千億円の損害」などと政府に圧力をかけ、農畜産物の完全自由化を要求するとともに、家族経営は「数千年前の経営スタイル」(奥田日本経団連会長)だとし、自由化に耐えられる農業の「構造改革」を要求しました。

 財界のねらいは、途上国を中心に海外に生産の拠点をさらに移すことや、開発輸入などで自らの利益を確保することにあり、その代償に日本の農業を“いけにえ”にすることです。あわせて、国際的に広がる食料不足に乗じて食料を支配し、ビジネスチャンスにしようとすることです。

 〇三年産米の不作に便乗して、大手卸が市場を独占し、価格をつり上げて暴利をむさぼる姿を私たちは目の当たりにしました。中小卸や米屋を米流通から締めだし、国民の主食・米を大手が独占してビジネスチャンスにする――「米改革」は、こうした財界・大企業の思惑によって進められていることは明らかです。

 こうした財界のねらいを忠実に実行しているのが自民と公明を与党とする小泉内閣ですが、民主党も同じ土俵です。菅代表は小泉首相の「農業鎖国は続けられない」という発言に「同感」だといい、小沢一郎代表代行は「日本は農業で完全に自由化すべきだ。それでダメになった分は国が所得補償すればいい」と言っています。財政難を理由に農業予算をリストラしながら、一方で財政出動するかのようなポーズをとって農民に幻想をもたせ、農業を破壊するという許しがたい態度です。

 強引な「地域水田農業ビジョン」の押しつけ

 「ビジョン」に参加する大前提は減反することです。また国からの交付金をもらうためには、豊作になった場合に米を主食用以外にたたき売りするための「集荷円滑化対策」として十アール当たり千五百円の拠出金が絶対条件とされています。

 各地で示されている交付金の水準は従来の五〜七割程度というのが実態です。あまりにも交付金が減るため、これを補う「地域とも補償」をやろうという市町村が全国的に増えています。岩手県では、県単事業で、水田を畑地化した場合に四万円出すとか、生産数量を市町村間でやりとりした場合に一万円出すなどということをやろうとしています。いずれにせよ、入り口で多少の助成をするが、近い将来、金を出さないで減反だけしっかりやらせようというのがねらいです。

 こういう「米改革」の中身やねらい、行き着く先を広く知らせることが大切ですが、まだまだ宣伝がたりません。「こんな米改革はつぶれる」「どうせうまくいかない」と放置するのではなく、広く農民に呼びかけてたたかいを組織するときです。

 見逃せないJAの米戦略の方向

 二つ目は「地域水田農業ビジョン」の問題です。

 もう一つ見逃すわけにいかないのがJAの米戦略です。その中心は「水田営農実践組合」が「担い手」となって米作りをやっていくことです。

 JAはこれまで全量集荷をめざしてきましたが、今後は売れる米しか扱わない方向です。

 農民連が農水省と交渉して「集落で決めれば、みんなが担い手でもいい」と認めさせましたが、これにもカラクリがあります。岩手県北上市の場合は、担い手加算を二つに分けて、農水省がいう土地集積を果たした「担い手」には三万三千円加算するが、集落で認めただけの「担い手」には一万円だけ加算するという差別をしています。

 生産調整に参加している農家にとって「基本部分はほしい」というのは当然の要求ですから、これはこれでとりあげて、国や県、推進協議会と交渉して実現のために努力しなければなりません。

 「米改革」の意図をしっかりとらえて国民的反撃を

 三つ目の問題として、ビジョンに参加してもしなくても、自分の流通ルートを持っていないと、これからは米作りができなくなるということです。具体的にいうと、豊作でない場合でも、翌年六月までに米が売れ残っていると、翌年の生産数量の配分から売れ残り分が減らされる。豊作になれば、その分を主食用以外に売りきらなければ減らされる。どっちにころんでも減らされる。「売れる米作り」とはこういうことです。

 いま農協も自治体も、米の流通ルート作りに懸命です。農協のなかには、農民連が切り開いた「準産直米」のルートへの参加を希望する動きも生まれています。

 ビジョンに参加するかどうかは別にして、農民連としては、あくまで生産から撤退せず、大いに米を作り、みんなで販売ルートを切り開いて売ろうという選択が国産米つぶしへの有力な対抗軸だ

ということをあらためて強調したいと思います。

 今度の「米改革」を、従来の減反政策と同じようにとらえたり、ねらいを過小評価し、当面の補助金をいかにもらうかというだけの対応をしたのでは、重大な禍根を残します。“今までと違うんだ”ということを腹にすえる必要があります。

 政府は、国内での米の生産量は六百万トンあればいいというのが本音です。「担い手」になろうがなるまいが、重大な国産米つぶしであり、農民のリストラ攻撃であること、そして、国民の主食・米が大企業のビジネスに支配されようとしていることをしっかりつかみ、国民的な反撃で、政策転換を迫るたたかいを展開することが求められています。

 そして「米改革」のねらいを広範な農民に知らせ、安全・安心・信頼できる国内産の米を求めている国民と手を結び、いまこそ農民連と一緒に米をつくり農業を続けようと呼びかけるときです。

(新聞「農民」2004.3.1付)
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2004年3月

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