「米改革」マッピラ地域で助け合い米作り続けよう(1)
「地域の農業を守ろう」と、各地で様々なとりくみが行われています。助け合い、機械を共同利用して経営を守る集落営農や農民組合、それをバックアップする自治体や、農地を荒らすまいと生産に励む若い後継者……。しかし、それらをすべて台無しにしかねない「米改革」が急です。これとのたたかいがこの秋、待ったなしの課題です。
長野県栄村は、信越県境の山あいの村。夏の日差しを受け、稲穂が風にそよぐ大小の棚田が、千曲川をはさむ谷に幾重にも重なっています。栄村では今、家族経営を基礎にした集落営農が七集落に広がっています。「村民の知恵と技を引き出すこと」をモットーに掲げる高橋彦芳村政のもと、とりくまれている集落営農の実践を取材しました。 長野県栄村みんなが米づくりに加わって家族経営を守る集落営農「担い手に農地を集めるとか、法人を作るとかとは違う」。村役場に勤める樋口正幸さん(44)は、村の集落営農と「米改革」との違いを口にします。それは何よりも「みんなが米作りに参加しよう」という姿勢です。樋口さんの小滝集落が集落営農を始めたのは、十二年前。「きっかけは自分自身、足の骨を折って、その年の田植えができなくて。その時、もっと楽に、もっと楽しくやれないだろうかと思ったんです」。樋口さんは気の合う先輩に相談しました。
兼業化進んで集落は危機感当時、小型の歩行式田植機を各戸が持っていました。二十戸の集落の水田は全部で七ヘクタール、大型機械なら一台で足ります。村も「田直し」事業で大きくした田んぼの共同化を奨励しており、田植機などの購入費に対する補助を始めていました。 樋口さんらは経費を試算し、集落のみんなにアンケートをとります。返ってきた回答には、兼業化が進んで集落がバラバラになりつつある危機感や「もう一度まとまりたい」といった思いもありました。それらを集落の話し合いにかけ、全員の賛同を得て始まった最初の年の共同作業は、「それはもうお祭り騒ぎ」。 小滝の集落営農は、田起こし、代かき、田植えはオペレーターがやりますが、苗作りはできるだけ大勢出てきてもらい、お年寄りにも水見などを頼みます。「みんなが仕事を受け持つことが、集落の輝きを失わないために大事なんです」と樋口さん。それらの作業はすべてプールされ、時間給が支払われます。 そうして毎年続けている樋口さんの一番うれしいことは、「最初は自分の田んぼがどこかも分からなかった集落の兼業の若い二人が、いま立派なオペレーターに育っていること」です。
営農スタイルは集落の自主性に栄村の集落営農は、田植えまで共同でやる小滝のようなやり方や、稲刈りもオペレーターがやるところ、米の販売まで手がけるところなど様々。村も画一的なスタイルを押し付けず、集落の自主性を尊重しています。 つづら折りの山道の先にある泉平集落。ここは稲刈りも共同化しています。オペレーターは、きのこを専業でやっている農業青年。「若い人は、やる気になると本当にがんばるよ。だからここは、田んぼの借り手はいるけど貸し手はいないんだ」と、保坂長司さん(55)。 妻の幸子さん(53)は「女性もオペレーターに」と思っています。「外から嫁いだお嫁さんが仲間に入るには、一緒に作業するのが一番。それにお母ちゃんが農業を好きだと後継者も育つ」。三十年前に沖縄から嫁いできた幸子さんの実感です。幸子さんは昨年、農業委員になりました。
米づくりの輪に加われば…広瀬進村議(65)=日本共産党=の横倉集落は、集落営農で作った「あきたこまち」を一昨年から農民連の準産直米に出荷しています。このお米は、標高一一〇〇メートルにある野々海のため池の水で育てたもの。ため池の建設は戦後、村民総出の大事業でした。 「それまで、ここらは米を自給できなかった。子どもらも遠足で、鉄筋をかついで山を登ったんだよ。完成して九十ヘクタールの開田をし、やっと自給できた。ところがその三年後に減反さ。みんな理屈抜きで『ふざけんな』っていう思いだった」。栄村はこれまで減反を割り当てたことがありません。広瀬さんは、その時の思いが今も生きていると言います。 「『米改革』を中止して、中山間地の直接所得補償制度を拡充すべきだ」と要求する広瀬さん。栄村の集落営農もこの中山間地への補助金を農機具の更新費用などに当てています。「マラソンは、どんなに遅くても走った人が一番楽しい。それと同じで、年寄りでも誰でも米づくりの輪に加わることが一番楽しいんだよ」。こうした思いが、栄村の集落営農にはしっかり根づいています。
村民に知恵・技を出してもらう“農業守るため” 高橋彦芳村長に聞く栄村は、家族経営に基礎を置いた集落単位の共同化=集落営農を進めています。それは、離農者を出さないことが、稲作を続けていくうえでも、地域の活力維持にとっても重要だからです。地域の立場から農政を見ると、画一的であると強く感じます。しかし、農業はもともと風土産業ですから、地域の自然や社会的条件に制約され、画一的な政策はなじみません。地域農政は、国の農政に追随しているだけのものから脱却し、農民と協働しながら独自の政策を確立することによって、その活性化が図れると考えています。 栄村は、事業費を低く抑える村単独の「田直し」事業(ほ場整備事業)を行い、そのうえに集落営農を進め、さらに農産物の価格維持と消費者との提携を展開してきました。何といっても栄村は、大規模農業地帯ではありません。小規模な農家がお互いに連帯し、そして農家と自治体が一緒になって生産を守っていくことを基本にして、今までずっとやってきましたし、これからもそうしていこうと思っています。 米改革大綱というのは言ってみれば、米市場を国際化していくということです。つまり政府は価格政策から手を引き、米価を国際市場にまかせると。そのためには、大きな経営で合理的な生産を行い、生産費を安くしなければいけないと、国や官僚は考えているようですが、実際にはそうはならないでしょう。 米市場を国際化すると大規模なところが成立しなくなると思います。栄村のようなところは、外国の米とは違う市場性を持っていて、なかなか強みがあるのじゃないかと思っています。 日本の稲作は、家族経営が消えることによって崩壊します。米には水が不可欠ですが、灌漑用水というのは一部の大規模農家だけでは守れません。これは広範な農家が農業に従事することで守られており、だから家族経営に基礎を置いた共同化をやっています。共同が法人になって農地を提供した農家が農業をやめていったら、その法人もだめになります。 私は、村民が輝くことのできる環境を整えることが、むらづくりの精神だと考えています。住民の持っている知恵と技を引き出すこと、そうして我々なりきに日本の米を守っていく役割を果たしていくつもりです。
(新聞「農民」2003.9.8付)
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[2003年9月]
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