「農民」記事データベース20030127-571-05

「再生プラン」と農地制度「改革」―(8)―最終回

―なにが問題なのか―


制度「改革」の進展と今後の課題

駒沢大学名誉教授 石井 啓雄

 二カ月間の制度「改革」の進展

 本紙編集部の依頼をうけて、この連載を始めてから約二カ月がたちました。そしてこの間に、農地制度「改革」は好ましからざる方向に一定進んでしまいました。

 なによりも臨時国会での特区法(構造改革特別区域法)の成立です(施行は四月一日)。これによって、市町村などが農家から農地を買い、これを借り受けるかたちで、農業を営むと称する株式会社が入りこむことが可能になってしまいました。ほかに市民農園などにかかわる問題もありますが、連載第一回に述べたように、役員の一人が年間百五十日以上農業(農作業ではない)に従事するだけでよく、また相当の不耕作地がある区域に限定するとしながら、その判断は市町村がするというのですから、特区の中では農地法の諸規制、とりわけ賃貸借規制はなくなるのに近くなってしまいます。

 もうひとつは、二つの有識者懇談会(連載第二回参照)の「論点整理」にもとづくというかたちで、経営基盤強化法の「改正」などを準備し、通常国会でその成立をはかるとしていることです。

 その詳細は未確定の点や不確かな点もありますが、各種事業や予算措置とあわせて次のようなものになるだろうと伝えられています。

 (1)農地法や農振法の政省令を「改正」し、市町村の条例にもとづく協定とか契約といった手法で、市町村内の一定の区域で株式会社生産法人の農業や都市住民の別荘農業をやりやすくする。(2)株式会社一般の農地取得自由化や大幅な農業生産法人要件の緩和は、有識者懇談会での異論も強かったので、今後の検討課題とするが、現にある農業生産法人の分社や子会社の設立、相互提携を容易にするため、農業生産法人の要件を一定緩和する。(3)消費者や業務提携関係にある業者の生産法人への出資の制限も同様に一定緩和する。(4)認定農業者への土地利用集積を加速する。(5)一定の要件を満たす集落営農の法人化を加速する――などです。

 これらにより、農地流動化をこれまで以上に強く進めようというわけですが、ここで見落とせないのは、これらの農地制度「改革」が、農水省が強行しようとしている米政策と結びつけられようとしていることです。

 政府の「米政策改革大綱」は、四〜六年後の国の生産調整からの撤退、市場原理の徹底による米価のいっそうの引き下げなどと並んで、一方的に「米づくりの本来あるべき姿」なるものを強調していますが、それは構造問題では、選別を強化して一部の相対的に大きな経営に稲作を集中させようというものです。二〇〇〇年三月に農水省が作成した「農業構造の展望」などでは、二〇一〇年を目標年次として、水田作においては十〜二十ヘクタール規模の個別経営八万と、三十五〜五十ヘクタールの法人経営あるいは生産組織一万に、水田の六割を集積することをめざすとしていました。これをそのまま「あるべき姿」として位置づけ、米の生産構造「改革」を進めようというのですが、この「展望」自体が一方的な机上プランにすぎません。

 九〇年代初めの「新政策」以来、農水省の農地流動化政策は、無理にでも農地を動かすという傾向を強めてきましたが、今後はそれが米づくりのあり方とも関係して、いっそう強引なものとなり、農家の間の軋轢を強めることが心配されます。

 しかし農民みんなの努力でこれを克服することもまた可能です。

 地域での話合いと団結の強化で

 これまで述べたように耕作者主義にたつ農地制度を守るか否かが、いま焦点になっていることは明らかです。

 そこで多くの家族の定住を維持し、農地を守り、地域とその農業を発展させていくために、今まず重要なことは、農外企業とかそのダミーといったよそ者には決して農地を売らないこと、また一本釣りを許さないこと、市町村なども同じ立場に立たせることです。そうすれば、特区も株式会社の農地取得もどうしようもありません。

 そして集落はもちろん、集団的な農地の単位ごととか沢筋ごととか、旧市町村でとか、地域での農民の話し合いを徹底的に深め、地域農業の近未来展望を探求するとともに、地域の農民みんなの力で前回あげたような制度や事業の活用をはかることです。

 現在、最も多い問題は、貸借と作業受委託、そして不耕作、低利用をどう解消するかといった問題でしょうが、それについて第一に重要なのは、現在は耕作できずにいる家を含めて農地改革で生まれた農民の農地所有を大事にすることです。しかも第二に重要なのは、所有権絶対ではなくして、多くの人の力をあわせてその有効利用と耕作者の労賃確保をはかる見地に立つことです。第三には、以上の前提のうえで利用の集団化も基盤整備も考えることです。第四には、賃貸借を法的に正式なものとすべく農業委員会などをかかわらしめることです(作業受委託についても同様です)。

 第五に、小作料あるいは作業料金は、ただ高ければよいとか、逆に安ければよいというものではありません。今の農産物価格低落のもとでは容易なことではありませんが、物財費を償い、耕作者の労賃を確保し、しかも土地所有者の生活も考慮することを重視して適正な額にすることが必要です。またどうしても農地を売らざるをえない農家が出た場合には、たとえば農地保有合理化事業を活用して、地元の農家の間で買うようにするのですが、その場合にも、地価はただ高ければよいとか安ければよいとかいうものではなく、適正であることが必要です。その他のことでも問題は同様です。

 なお新規参入の問題について一言付言しておけば、(1)地域への定住、(2)農作業常時従事、(3)地域との協調性の三つの条件を満たす新規参入者は歓迎したいと私は思っています。その場合、土地はなるべく保有合理化事業を活用して、まずは売買よりも賃貸借を選ぶことが双方のために望ましいと思います。

 今後の課題――農民の土地所有と家族経営を大事にする政治を

 いずれにせよ自主的・民主的・集団的に活用できる制度と事業はまだたくさんあります。それらをお願いとか陳情の対象にするのではなく、またお仕着せに合わせるのではなく、農業委員会、市町村、農協、土地改良区などとも協同して主体的に活用することです。

 そしてそれらをベースに、地域を基礎に、WTO農業協定の改善をめざし、また米政策の改悪に反対し、さらに小泉「改革」に対置して日本の政治と経済政策・農業政策の全体を民主的なものに変えていく運動を強めましょう。耕作者主義に拠って、農民の土地所有と家族経営を大事にするヨーロッパなみの農政の実現をめざすことは、その不可欠な一環です。

(おわり)

(新聞「農民」2003.1.27付)
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2003年1月

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