「再生プラン」と農地制度「改革」―(2)――なにが問題なのか―
二つの構造「改革」加速化・株式会社の農地取得構想駒沢大学名誉教授 石井 啓雄前回、「再生プラン」のなかで「構造『改革』の加速化」案として三つの農地制度「改革」構想が提起されたことと、そのうちの一つの「特区」案について述べました。今回は残りの二つの案を批判的に紹介します。
市町村条例のよる土地の取得と利用の自由化案まず第一の構想は、市町村の条例によって、その圏域の中に農地法や農業振興地域整備法(農振法)の適用を除外する区域をつくるという案です。 そして、その区域内では、第一に、里山などを含めて土地の権利者が参加する協定とか契約の手法によって、開発を進める部分と、農地を転用する権利を自治体などが買い取って農村景観を保全する部分などを色分けしようというのです。また第二には、株式会社や農地付き別荘取得希望者の、農地の権利取得と利用の自由を拡げようというのです。 この案を具体化するため、農水省(農村振興局)は六月に、「農山村地域の新たな土地利用の枠組み構築に係る有識者懇談会」を組織し、そこでの四回の検討を経て、八月に「論点整理」なる文書をまとめました。この懇談会に参加した「有識者」には御用学者のような人が多かったのですが、それでも市町村の条例で国家の法律の適用を除外できるのか、“転用権”という権利があるのかなど、いくつかの批判もあったようで、「論点整理」は非常に分かりにくいものになっています。 しかし、一国二制度の問題があるほか、優良農地まで含む一定の区域では、株式会社などの農地取得や農地転用を現行制度より大幅に自由化しようとしているなど、「特区」構想と同様、あるいはそれ以上に重大な問題を含んだままです。そして農水省は、とにかく法案をまとめて、通常国会に提出するとしているのです。
さらなる農業生産法人要件の緩和案第二は、二〇〇〇年の農地法「改正」で大幅に緩和された農業生産法人の要件を、さらに緩和することを検討するという問題です。 農業生産法人とはどういうものなのか。制度化の経緯とその変遷については次回以降でより詳しくのべますが、一言でいえば、もともとは自ら耕す者だけが農地に関する権利(所有権のほか賃借権その他すべての権利)を持てるとした農地改革以来の日本の農地制度の原則と抵触しない範囲内で、農地に関する権利を持って農業経営ができる特別な法人のことです。 最初の制度化は一九六二年の農地法改正の時に、農民の共同経営を可能にするためになされたのでした。したがって法人格的には、協同組合の一種として一九六二年の改正農協法で制度ができた農事組合法人であるか、人格結合的な合資・合名・有限会社に限るとされ、資本結合体である株式会社は不可とされました。そして当初法では営める事業、構成員、役員、農地提供、労働提供、出資配当などについてもいろいろときびしい条件が課されていました。 ところが農地法「改正」のたびにこの要件が緩和され、二〇〇〇年には財界の圧力によって、ほとんどこの要件の緩和のためだけに法「改正」がなされ、定款によって株式の譲渡制限があり、業務執行役員の四分の一以上が農作業に常時従事さえすれば、株式会社でもよいことになってしまったのです。 それを財界の意を体した武部前農水相のイニシアティブで、「再生プラン」でさらに要件緩和を検討するとしたのです。 そこで農水省(経営局)は六月以来「経営の法人化で拓く構造改革に係る有識者懇談会」を五回開催し、現在「論点整理」中です。十一月六日付の「日本農業新聞」は、農業生産法人要件のさらなる緩和ないし株式会社一般の農地取得容認問題は有識者の賛否が割れて、そのまとめは両論併記になることが固まったと報じましたが、しかし事態はなお流動的です。財界の圧力は根強く、農水省内にもかつてとは違って、これに呼応するような考え方もあり、なによりも農地制度の「改正」をすることだけは、すでに先に定まってしまっているようだからです。 農業生産法人の出資要件の緩和、認定農家と集落営農の法人化推進などの措置がなされる可能性もあります。
構造問題を考える立場日本農業がおかれている今日の危機的な状況は構造「改革」とか、その加速化とか、ましてや法人化とか、さらには株式会社の参入と農地取得の自由化とか、そういうことによって打開できるものなのでしょうか。そうではないことは事態を冷静に広く正しくみれば、誰にもわかります。 農業構造あるいは経営形態の問題も、WTO農業協定の受け入れによって決定的になった市場開放と、市場原理にもとづく価格政策の放棄との関連抜きには考えられません。また農業の将来展望は、いま現に農業で生きている多数の農民の力によって切り開かれるはずのものです。その問題は最後にさらに触れたいと思います。 (つづく)
(新聞「農民」2002.11.25付)
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[2002年11月]
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