政府は主食“米”に責任を持て 米価の回復こそ対策の柱(2/2)
さらに政府は、価格保障の影も形もなくすることをねらっています。 その一つは、備蓄米の政府買入価格を「入札」によって決めること。食糧法にある「再生産の確保を旨」として米価を決めるという規定を抹殺しようというのです。 もう一つは、農民の拠出金などを原資にして、豊作などによって出る「過剰米」を担保に一年限りの無利子融資を行う「過剰米短期融資制度」。農家は融資期間中に米が売れるメドが立てば買い戻し、売れる見込みがなければ”質流れ”にします。 問題は、その”質流れ”価格です。農水省が十一月に示した案は、なんと一俵三千円! 農家は最悪の場合、外米の輸入原価並みの三千円で米をとりあげられるのです。「大綱」には「三千円」を明記することを避けましたが、そのねらいは変わっていません。 しかも「備蓄米入札」に移行すれば、この三千円だけが、米に関する「公定価格」になります。つまり三千円までは、いくらでも買いたたけるということ。生産調整研究会で、大手米卸「神明」社長の藤尾益也委員が「一俵三千円ならすべて売れる」と言ったのはそういうことを念頭においてのことです。 アメリカでも、アジアでも、価格暴落から農民の経営を守るため、価格保障の充実・復活と予算の増額が行われています。例えばアメリカは今年、七〇%も農業予算を増やして、価格保障(不足払い)制度を復活させました。また、タイやインド、フィリピン、パキスタン、イラン、スリランカなど財源が乏しいアジアの国々も価格保障を充実させており、これが世界の流れです。 WTOルールを金科玉条にし、財界の要求にそって価格保障制度を次々に廃止する日本の政治の逆立ちぶりこそ異常です。 (1)私たちは「稲作経営安定対策」を抜本的に改善し、生産費をつぐなう米価を実現することを要求します。 (2)備蓄米買入価格の入札制度への移行を中止すること。たった一年の「備蓄」で米を売り払うという「回転備蓄」をやめ、数年間政府が保管する「棚上げ備蓄」に切りかえること。役割を終えた古米は、加工用、海外援助、飼料用にまわすべきです。 いま稲作農家の大多数を占める兼業農家は、兼業収入を農業経営にそそいで、農地と集落を維持しています。 ところが農水省は、「一ヘクタール程度の稲作はガーデニングだ」(武部・前農相)などとヤユして、こうした農家を農政の対象外にしようとしています。 「大綱」がねらうのは、現在百七十四万戸の稲作農家(販売農家)を、八万戸・一万事業体が水田耕作の六〇%を担う「構造」にリストラすること。そのために、一定規模以上の農家(北海道で十ヘクタール以上、都府県で四ヘクタール以上)と一部の集落型経営体だけに対象をしぼって、新たな「担い手経営安定対策」を措置しています。 しかし、「担い手経営安定対策」は、水に浮かべる前から沈没するのがはっきりしている”ドロ船”対策です。 同対策は、農民と政府が五割ずつ拠出して仕組む「保険制度」ですが、米価の暴落を促進する政策のもとでは、「保険制度」そのものがすぐに破たんすることは目に見えています。 また当初案に対する反発から、直近三年平均の稲作収入(基準収入)の六四%補てんから八割補てんに変えたとはいえ、これが「担い手」の経営を安定させるなどとはいえないことも明白です。 今でも、米価の暴落によって、もっともひどい痛手を受けているのが「担い手」農家です。「担い手」も、「担い手」とは認定されない大多数の稲作農家も、生産意欲が持てるのは価格保障が実現してこそ。この基本からかけ離れた「米改革」では絶対に米危機の打開はできません。 (1)農業は家族経営を基本に営まれるべきです。高齢者、兼業農家、大規模農家がそれぞれの役割を果たしながら地域・集落の農業を維持し、環境や国土を守ることこそ合理的です。 (2)大資本の農地支配のための農地法改悪が検討されていますが、ただちに中止すべきです。 「大綱」は、計画流通米制度を廃止し、主食・米の需給と価格の安定に対する政府の責任を全面的に放棄し、大企業に米の流通を明け渡すことをねらっています。 「自主流通米価格形成センター」を本格的な「米市場」に再編して、大商社・大スーパーの買いたたきと投機の場にし、集荷業者(単位農協や経済連)と販売業者(卸・小売業者)の垣根を取り払い、登録制をやめて届出制にして、農家の囲い込みや米の買い占めもやりたい放題にしようとしています。 これは、農民に対する買いたたきをさらに野放しにし、中小米卸・小売業者の淘汰をいっそう進め、消費者にとっては、ますます正体不明の米の横行を野放しにします。 (1)私たちは、「計画流通制度」の廃止に反対します。米の需給や価格の安定に国が責任をもち、大企業の米流通支配をおさえ、農協や中小米卸・小売業者の役割を尊重したシステムに改善すべきです。 (2)国の責任で「インチキ表示」や外米の残留農薬のチェックを強化し、米検査の民営化は中止すべきです。 政府がねらう方向では、日本の米を守ることも、自給率を向上させることもできません。これは、安全・安心できる国産の農産物を求める国民の願いとも絶対に相いれません。 いまこそ政策の転換を求めて、農民が団結して、国民と共同してたたかうときです。 同時に、打ち出されたのは、基本的な方向だけです。食糧法など関連法の「改正」内容も、予算措置もすべてはこれから。年内、年明け、来年のいっせい地方選挙、夏の予算概算要求の時期を展望して、ねばり強くたたかうことが重要です。 決して生産から撤退せず、助け合い、支えあって、安全で安心できる国産の農産物を求める国民の願いに応えた”ものづくり”に全力をあげることを呼びかけます。
生産者、米屋、消費者が一体となって日本米穀小売商業組合連合会(日米連) 長谷部喜通理事長米政策改革大綱に示された流通改革は、「米の売り買いはすべて自由」という発想だ。そうなると小売は卸とも競争しなければならない。商社が介入する危険も多分にある。資本力で目をつける商社も出てきて、投機的な買占めもなきにしもあらずだ。米屋は、食糧法になってから痛めつけられ、四〇%は転廃業に追い込まれている。残っている人はなんとかがんばっているが、商社や大スーパーと競争していくには、小売の唯一の優位性を一〇〇%生かさなければ勝てない。その優位性というのは、対面販売だ。 地域の米屋が、お客さんと対話しながら売っていく。そのためには売り手はお米に関することは何でも知っていなければならない。そんなお米の専門家を認定する「お米のマイスター」制度を立ち上げ、今年はすでに三千人が受験している。 農民連が作っているような安全・安心の米作りの姿を、対話のなかで知らせて買ってもらう。生産者と米屋と消費者が一体となって、交流を深めながら切り開いていくことが大切だと考えている。 (談)
(新聞「農民」2002.12.23・30付)
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[2002年12月]
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