米の需給と価格に国が責任を持ち、農家の工夫や努力が生かされる米政策を米「改革」に対する見解と私たちの提案(3/5)二〇〇二年七月農民運動全国連合会/米「改革」に対する見解と私たちの提案(2/5) /米「改革」に対する見解と私たちの提案(3/5) /米「改革」に対する見解と私たちの提案(4/5) /米「改革」に対する見解と私たちの提案(5/5)
私たちは提案します価格保障は農民の生きる権利 充実は世界の流れ(1)米価暴落によって、稲作農民の手取りは一日三千八百二円。生活保護をはるかに下回ります。「赤字」生産を押しつけることは、企業であれば「倒産」を押しつけるのと同じことです。これは「産業政策」の名に値しません。当面、自主流通米の暴落をおさえるため、入札の「値幅制限」を復活し、大企業の買いたたきをおさえることを要求します。 (2)アメリカでもアジアでも、価格暴落から農民の経営を守るため価格保障の充実・復活と予算の増額が行われています。 たとえばアメリカでは「一九九六年農業法」で廃止した「不足払制度」(生産費をもとに決める基準価格と市場価格の差額を全額国費で補てんする)を、ことし五月に成立した「二〇〇二年農業法」で復活させました(図2、3〈図はありません〉)。これは今後、少なくとも六年間継続し、農業予算も七〇%増額されます。 タイでは、昨年十一月、政府系金融機関による 「米担保融資制度」が動き出しました。従来は、収穫期の出荷集中による値崩れを防ぐために農家が米を持ちこたえるようにする短期的な融資でしたが、今度の措置は、融資の基準価格を市場価格の三〇%高に設定し、最終的には政府が米を買い支えるものです。 このほか、インドやフィリピン、パキスタン、イランなどでも支持価格の引き上げが行われています(図4〈図はありません〉)。 WTOの農業つぶしのルールよりも、農産物価格の暴落による農民の苦境を救うことを優先する――これが世界の流れです。WTOルールを金科玉条にし、財界の要求にそって価格保障制度を次々に廃止する日本の政治の逆立ちぶりこそ異常です。 (3)私たちは「稲作経営安定対策」を次のように抜本的に改善し、生産費をつぐなう米価を実現することを要求します。 (1)生産費(過去三年間の平均は一万八千九百四十円)をもとに「基準価格」を決め、実際の米価との差額を補てんする(現在は、過去三年間の自主流通米平均価格との差額を補てん)。 (2)補てんする割合は、八割などとケチなことを言わずに、十割に。 (3)補てんの財源は全額政府が負担し、農家負担をやめる。 (4)減反目標の未達成や計画外流通米出荷などを理由にした排除はしない。 (5)これには一定の財源が必要です。国民の主食を国内で生産するために財政負担をすることは国の当然の責務です。自分の不始末で赤字を出した銀行や生命保険会社には七十兆円も国民の税金をつぎこんでいるのと比べれば、微々たるものです。 (4)「稲経廃止」を明記した「中間取りまとめ」と違って、いま農協系統が行っている組織討議の資料では「稲作経営安定対策の見直し」を主張しています。私たちは、これに注目し、意見の違いは横に置いて、米価の回復のための共同を呼びかけます。
(3)輸入自由化をあてこんだ米つぶしのための減反拡大はやめよ
(1)輸入自由化と「米ビジネス」のための減反これまで、減反は「食管を守るため」「米の輸入を防ぐため」と言われてきました。しかし、食管制度がつぶれ、米輸入が自由化された九五年以降は「米価を維持するため」の減反ということになりました。 しかし、減反をいくら拡大しても、米価は下がるばかり。自民党政府の政策の破たんは誰の目にも明らかです。 そこで研究会が言い出したのは「誰のため、何のための減反か?」です。 「誰のため」か? 政府と研究会が、やたらに力を入れている「米ビジネス」のためです。 「何のため」か? 加工用やエサ用を含む超安値の米作りを迫り、それができないのを見越して米輸入を完全に自由化するためです。 減反強化で農民の生産意欲をますます失わせるとともに、米の生産基盤そのものをこわして、いやおうなく輸入に依存せざるをえなくする――こういうねらいが透けて見えます。
(2)転作奨励金を廃止し一俵八千円以下に暴落させて米不足に政府や研究会がえがく青写真は「将来」と「経過期間」の二段階です。 「将来」の姿は、(1)国は減反目標を設定せず、せいぜい米市場の情報を提供するだけ、(2)転作奨励金などの支援も一切しない、(3)農家は、政府の「情報」にもとづき、暴落を覚悟のうえで減反するかしないか、どんな米をどれくらい作るかを決める――というものです(食糧庁が研究会に提出した「生産数量調整手法の考え方」による)。 一見「自主減反」のように見えますが、そんな甘いものではありません。 覚悟を迫られる「暴落」の水準は驚くべき低さになることは間違いありません。食糧庁が昨年試算した主食用米の暴落水準は、現在の半値の一俵八千円。これで米生産が激減し、不足になって一万二千円まで回復するという想定でした。 しかし、研究会で検討されているのは、一俵千円以下という飼料米を含めてのことで、暴落の水準は八千円どころではありません。 そのうえ、水田の「畑地化」や「構造改革特区」構想などによる農地転用によって水田面積自体を大幅に減らすことも計算ずみです。 これらを通じて日本の米生産が壊滅的な打撃を受け、米不足の事態になれば「減反配分」の必要などない――これが、研究会がえがく「あるべき米作りの姿」です。 これでは、アメリカとWTO、財界のための“あるべき米つぶしの姿”ではありませんか。
(3)「経過期間」中は減反百五十万ヘクタール?当面の「経過期間」は“あるべき米つぶしの姿”に移るための「移行期間」です。 その中身は (1)減反面積の配分ではなく、農民に対し「これ以上絶対に作るな」という数量を、しかも銘柄別に配分する (2)数量配分は政府・都道府県以外の「第三者機関」が行う (3)現在の減反配分は「リセット」(御破算に)し、県・地域間の生産数量目標の調整も「第三者機関」が行う (4)減反をやったうえで出る余り米は農民の「自己責任」で処理する――というものです。 しかし、米の銘柄別の需要を都道府県別・全国ベースで予測するなどということを「第三者機関」が本当にできるのか、大いに疑問です。 そして、農民にはいいかげんな予測にもとづいて生産統制的な数量配分を行って、少しでも余り米が出ればペナルティ的に超安値処理を行わせる――。しかも次に見るように、流通は完全自由化する一方で、農民には戦時中のような生産統制を強要する――こんなやり方が通用するとでも思っているのでしょうか! 加えて食糧庁は、米の需要減退によって「今後毎年、生産調整を五万ヘクタールずつ拡大しなければならない」と予測し(針原企画課長、「中間取りまとめ」説明会で)、加倉井弘・研究会流通部会長(前NHK解説委員)は「減反は百五十万ヘクタール必要だ」と脅しています。これでは、米作付面積よりも減反面積がはるかに多い「減反国家」になってしまうでしょう。 さらに、政府と研究会がまったく念頭に置いていない米の不作・凶作が襲ったら、米パニックさえ再来しかねません。
「減反百五十ヘクタールだ」前NHK解説委員の加倉井弘氏(流通部会長)。「生産者は、もうこれが限界だと言うが、量のコントロールで価格を支持するとなると、減反面積は百二十万ヘクタール、百五十万ヘクタールになる。これをやる覚悟があるのか、うかがいたい」(第六回生産調整研究会五月三十日)
大手米卸「神明」社長の藤尾益也氏(流通部会長代理)。「食糧安保の問題で言ったら、国は二百万トンとか百五十万トン持って、それがなくなったら食べるなという話にしたほうが分かりやすい。十年か二十年に一回起きることのために、蓄えなければいけないのか」 政府に対し、主食・米の供給に万全の対策を求めるのは当然のこと。それを「食べるな」とは、いったいなにごとでしょうか! それとも、不足状態になれば値をつり上げやすいことを見越し、備蓄を減らし、不足感をあおりたてる予行演習なのでしょうか?
(新聞「農民」2002.8.5付)
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[2002年8月]
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