「農民」記事データベース20020701-545-05

安全・安心 国産の食材を学校給食に(1)

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「先生、おいしいよ」

  自分で作ったものを食べる喜びが子どもの心の糧に

    埼玉・毛呂山養護学校

 「先生、おいしいよ!」――埼玉県立毛呂山養護学校は、生徒が農作業で作った野菜を学校給食に取り入れています。そうすることが、これから社会に巣立っていく子どもたちの心の糧になっているのです。

 六月十三日、梅雨の合間に、農業班の生徒十人が、歩いて五分ほどの畑にジャガイモ掘りに出かけました。生まれつき両手に障害がある愛ちゃんが手首をくの字に曲げて一輪車を上手に押します。雑木林に囲まれた十坪くらいの畑には、ジャガイモのほかに、ネギ、サトイモ、キュウリ、トマト、ナス。堆肥場もあります。

 開校から12年間生徒と一緒に

 土を掘り起こすとゴロゴロ出てくるジャガイモが、たちまちコンテナいっぱいに。体の小さい舞ちゃんが、その重たいコンテナを持ち上げると、「わぁー」「すごーい」と歓声があがりました。二日前に、そのジャガイモを給食の豚汁で食べた生徒たちの顔は、収穫の喜びをたたえています。

 「初めは汚れるのをイヤがって土に触れない子も、一年たつと農業班でよかったと言ってくれます。その子の個性に合わせて、成長を助けていくことが大事なんです」

 子どもたちにいつも温かい視線を注いでいる神山久美子先生は、こう話します。開校から十二年間、生徒と一緒に畑を耕してきた先生たちを、まわりの農家も農作業のアドバイスをするなど助けてきました。

 知的障害をもつ児童をあずかる毛呂山養護学校には、農業のほかに、木工、陶芸、リサイクル、紙工の作業班があります。生徒たちはそれぞれの作業学習を通して、働くとはどういうことかを学びます。「生徒はみんな、社会の一員として働けるようになることに強く憧れています。生徒の働く姿勢に、実習に来た大学生が逆に学ばされることも多いのです」と、本田重次郎校長は言います。

 子どもたちの成長に毎日感動

 毛呂山養護学校の生徒には、何よりも楽しみにしている給食があります。それは、煮こぼしながら二時間じっくり煮込んだ豚バラと、秋に収穫したダイコンで作った「ダイコンと豚バラのベッコウ煮」。ある時、それまでまったく心を開かなかった子が「ベッコウ煮」を食べながらつぶやきました。

 「私も人に喜ばれることをしたい。そのために農業班に入って、おいしいダイコンをたくさん作る」と。

 その言葉を聞いて、栄養士の中原圭子さんは涙が止まりませんでした。「こっちも、まともな仕事をしたか試されている気分」という中原さんは、給食の時間に生徒と先生の間をまわって聞いた声を、毎日の「給食おたより」に書いています。

 にぎやかな給食が終わると、布きんで食器をぬぐい、イスを机の上にあげて雑巾がけをする生徒。手の不自由な愛ちゃんも、手の甲で雑巾がけをします。「『やらなくていいよ』と言われるより、みんなと同じことをしたがる子なんです」と、神山先生。

 中学部、高等部の生徒が一緒に食べる給食室の壁には、神山先生が中心になり、生徒たちと一緒に作った四季折々の大きな壁画。絵や押し花、オブジェが飾ってあると、子どもの気持ちが安定するのだそうです。

 中原さんは言います。

 「この学校では、先生も、調理員さんも、用務員さんも、みんなこれ以上ないくらい生徒に思いを寄せています。そうしたなかで、子どもたちの成長に毎日感動しながら仕事をできることは、本当に幸せなことです」。

(新聞「農民」2002.7.1付)
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2002年7月

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