千葉やっぱり有事法制反対青年が受け継ぐ侵略戦争体験
「日本はまた戦争の道を進むのか」――海外での武力行使に踏み込む戦争法案、有事法制三法案が、与党・小泉内閣によって、いま国会でゴリ押しされようとしています。こんななか、千葉農民連の青年たちが、第二次世界大戦中、中国・ハルピンで人体実験を行った日本軍の秘密部隊「七三一部隊」の元隊員、篠塚良雄さん(78)の「加害」体験を聞きました。侵略への深い反省を刻んだ石碑(中国帰還者連絡会千葉支部建立)を前に、青年たちは平和への思いを新たにしています。
戦争は正気ではできぬもの農家の長男だった私は、七三一部隊に少年隊員として入隊し、中国撫順の戦犯管理所に戦犯として抑留され、一九五六年に帰国しました。千百九名の戦犯の中には将校や憲兵の他に、ごく普通に徴兵された部隊兵士もいました。戦争になると、農民や労働者だった者も、極悪非道なことを平気でしました。戦争は正気ではとてもできないのです。私たちは「死ぬ」ことを何とも思わない軍事教育を受けて、天皇陛下のために、死んだら靖国神社に奉られると信じて、あの戦争に行ったのです。
炭素菌などを生産して散布ハルピンではまず教育を受け、初歩的な細菌学や生物学のほかに、「軍規保護法」と“敵前逃亡は処刑”という「陸軍刑法」を叩きこまれました。間もなくして実習という名目で、細菌製造に関わりました。最初はノモンハン事件です。七三一部隊の表看板は「関東軍防疫給水部」といって、水を漉して兵隊に飲ませるのですが、それは一部で、細菌の大量生産を始めました。炭疽菌などは一番簡単でした。 作った細菌はブイヨンで薄めて石油缶に入れ、大勢の一般市民が乗る鉄道の客車に乗せて運び、碇(いかり=指揮官の名)挺身隊という別動部隊がハルハ川の上流に大量に投げ込みました。 その水を日本軍も飲んで伝染病がたくさん出ましたが、有望な新兵器を開発したということで、碇挺身隊には金鵄勲章が与えられました。
いまだに残る細菌汚染地帯また三九年からは、高温多湿の部屋でネズミと殻つき小麦を使ってノミを増やすこともしました。一日一回見回って死んだネズミと生きたネズミを交換するのですが、その臭いと暑さは今でも思い出します。ときどき「ノミに食いつかれるな。ペストになるぞ」とおどかされました。このペストノミは、南京から広州に運ばれ、南京では飛行機からバラまいたのです。当時ペストは死亡率一〇〇%でした。まずネズミが死に、多くの人が二次感染、三次感染して肺ペストになって死にました。いま中国の人々百八十名が裁判に訴えており、私も証言をしています。細菌戦というのは、本当に許されない犯罪です。
加害認めて人間関係回復をまた、私がやった極悪な犯罪では、炭疽菌、コレラ菌、ペスト菌といった猛毒細菌を大量生産しました。これらは乾燥させて、水分など条件がそろうと活動し始める芽胞菌にしました。輸送に向き、何年でも生きている。今でも中国では汚染地帯が残って、人々が苦労しているのです。また細菌の毒性を強めるために、生体実験、生体解剖も行いました。生菌数を数えて生きた中国人に注射し、どれくらいで感染するか実験するのです。私たちは殺したことを「倒す」、実験された人を「丸太(マルタ)」と呼んでいました。そういう実験は夜遅くなるため、宿舎に帰って風呂に行くと、「お前のとこ(部署)は今日何本倒した?」「俺のとこは二本だ」「三本だ」と。人の命を……。このような残虐なことを平気でやるようになっていました。 このように被害者の立場で自分たちがやったことを見ると、いかに極悪であったか。私の話は日本軍が行ったことのごく一部です。従軍慰安婦の問題にしても、日本政府は金の問題で片づけようとしていますが、「加害」を認めて、明らかにしなければ、被害者の方々が失った人間関係は回復されません。
「怨み」に「怨み」では平和来ぬ有事法制は廃案にしなければ中国政府は、悪虐の限りを尽くした私たちに、十分な食べ物と手厚い医療、本や映画等を与えてくれました。かつて中国人を捕えては虐殺してきた私たちは、「今度は自分たちが殺される番だ。この待遇は処刑される前の武士の情けだ」と絶望し、暴れた時期もありましたが、中国の人間的な処遇を受けるうちに「自分たちがしてきたことはどういうことだったのか」「本当に国を愛するとはどういうことか」と考え始めました。帰国後、中国から帰還した者たちで「中国帰還者連絡会」をつくって、反戦と平和を求めて「加害」の証言活動に取り組んできました。「加害を語る必要はない。被害だけでいい」という攻撃もありました。でも、それでは侵略を受けた人々はどう思うでしょうか。私たちは歴史の真実を、「加害」を、反省と謝罪をこめて話していかなければ、本当の平和は成り立たないと思っています。
戦争で命落とすのは若者達「怨み」に「怨み」で返していたら、いつまでたっても平和はきません。アメリカはテロにどう対応したでしょうか。だから私たちは、いま進んでいる有事法制の動きに、本当に憤りをもっています。またかつての戦争をする国にするのかと。いま戦争の法律を作っている者は何の責任も負わないのです。実際に戦争に駆り出されたり、命を落としたりするのは、皆、若い人達です。有事法制はどうしても廃案にしなければならないのです。
(新聞「農民」2002.5.27付)
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[2002年5月]
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