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農民連第14回定期大会への報告(1)

二〇〇二年一月十五日農民連常任委員会

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 はじめに

 国民生活のあらゆる分野で、弱肉強食の競争原理が吹き荒れ、農業の分野では、輸入の激増による経営破綻、離農、中小企業の倒産やリストラによる兼業農民の失業や福祉の負担増など、国民全体にとっても、農民にとっても事態は容易ならざる状況にあります。

 こういう悪政とたたかい、どう農民経営を守り、国民と連帯して日本農業・農山村を再生・復権させるのか、農民の多数をどう結集するのかについて議論すること、ますます重要になっている農民連の役割を発揮するうえで、組織の土台である財政の抜本的強化をはかる方針を確立することが第十四回大会の中心的な課題です。報告は、決議案発表後の情勢の進展をふまえ、決議案の中心点や補強点について行います。

I 情勢について

 1 国民を困難に追い込む政治に未来はない

 輸入の激増による米、野菜、果実などの価格暴落、BSEによる経営の困難、セーフガード問題での小泉内閣の裏切り、「改革」の名による未曾有の国民犠牲、憲法まで踏みにじる悪政が横行しているもとで、農民のなかに失望や無気力感が広がっています。こうした状況は、放置すれば農業再建のたたかいをあきらめることにつながりかねません。今、情勢の本質を深く検討し大きな流れをしっかり見ることが大事です。

 (1)根深いアメリカ追随政治と財界・大企業中心の政治
 今の農民の困難の原因は、一九九五年にスタートしたWTO農業協定と、これを絶対化して次々に農業破壊を進めてきた自民党政治にあることは、もはや議論の余地がありません。

 国権の最高機関である国会が三度も「米輸入を自由化しない」と決議し、同様の意見書を決議した地方議会は九五%を超えました。これほどまでの反対世論や国民の抵抗を無視して、自民党政治はWTO農業協定の批准を強行しましたが、当時の国会(日本共産党以外の党)は、これをまったくとがめませんでした。また、今日、これほどWTO協定の弊害が明らかになり、このままでは日本から農業が消えてしまいかねない事態に立ち至り、多くの農民が要求しているにもかかわらず、政府はもとより、与野党問わず日本の主要政党(日本共産党以外)はWTO協定の改定を口にしようとしません。

 また、WTO協定が、唯一の自由化の歯止めとして認めているセーフガードについて、農民のたたかいが政府を動かし、三品目(長ねぎ、生しいたけ、畳表)の暫定発動に追い込みました。しかし、小泉首相自身の手によって本格発動を中止してしまいました。

 これほどまでに、自国の利益を明確に犠牲にする政治は、世界広しといえども日本以外には見当たりません。こうした暴政の背景には、世界に例を見ない二つの問題があります。

 一つは、日米安保条約を背景にしたアメリカいいなりの外交です。そもそも、農産物を輸出して他国に迷惑をかけたことが一度もなく、自給率が世界でも最低レベルにある日本が、農産物の輸入自由化を受け入れる理由はなく、これに応じたのは、アメリカの横暴に屈伏した自民党政治が、主権を放棄し、進んで受け入れたというものでした。

 しかも、「義務」ではないミニマムアクセス米の輸入を「義務」だと言い張って輸入したり、ブッシュ大統領から圧力を受けると、日本政府として最も基本的な要求である「農業の多面的機能を尊重した貿易ルール作り」を事実上取り下げたりというぶざまなやり方をつづけています。

 セーフガード問題にしても、被害の甚大な玉ネギなど、アメリカから輸入されている産品を避け、中国を「狙い打ち」したことに、腰砕けに終わったそもそもの原因があります。

 こうした他国には例をみない譲歩に次ぐ譲歩を重ね、自国の利益を放棄する大元に日米安保条約があるということをしっかり見ておくことが重要です。

 もう一つは、大企業中心主義です。労働者への低賃金・長時間労働を背景に国際競争力を高めた財界・大企業は、工業製品の輸出によってつくった膨大な「貿易黒字」を減らすために、農業を犠牲にしてWTO協定を批准することを政府に迫りました。農業つぶしに熱心な政党のほとんどが、「政治資金」の多くを企業献金に頼り、財界に支配された代弁者、利益の守り手となっているのが戦後、一貫した日本の政治の特徴です。

 銀行の経営が苦しくなれば国民の血税をつぎ込んで救済し、国の財政が破綻しているにもかかわらずゼネコンのための大型公共事業は減らさず、「連結納税」などによって税金をまけてやるなど、目に余る財界・大企業中心の政治が進められています。

 三品目のセーフガードの発動を中止した最大の背景も、日本の輸出大企業が中国から受けた不当な報復(高関税)を解決するために農業を犠牲にしたことにほかなりません。

 これほどの大企業中心の政治も、大企業の横暴から国民の暮らしや農業を守るルールを確立していない国も世界に例がありません。

 (2)ゆきづまり、当事者能力を失った自民党政治
 今、苦しいのは農民だけではありません。失業率が五・五%を記録し、中小企業の倒産、深刻な不況、医療制度改悪と国民負担増など、悪政は国民のあらゆる階層・分野に向けられています。

 同時多発テロ対策を口実に憲法を踏みにじって自衛隊の派兵を強行し、戦時体制づくりをめざす「有事法制」への道を突き進み、「戦争しない国」から「戦争する国」に大きく踏み込もうとしているのが小泉政治です。国民の暮らしでも、国の経済、平和でも、アメリカいいなり、大企業中心の政治を続け、六百六十六兆円(国・地方あわせて)にも借金がふくらんで、国の財政を破綻させてきた自民党政治の行き詰まりであり、もはや、問題を解決する能力を喪失しているのが自民党政治です。

 国民との矛盾を広げ、自らの支持基盤を掘り崩してきた自民党が、欺瞞とはいえ、「日本を変える」「自民党を変える」といわざるをえない状況に追い込まれているのであり、小泉内閣そのものが、あとのない延命策です。

 自民党政治のゆきづまりと、そのもとで暮らしと営業、平和や民主主義など、国民生活全般への攻撃がかけられているもとで、「農業を守れ」というたたかいだけで農業が守れるわけではありません。悪政に苦しんでいる国民諸階層との共同を広げ、政治を変えるたたかいを大きく広げてこそ農業も守れるということをしっかり確認しましょう。

 2 人間を荒廃させ、社会を破綻させる剥き出しの効率至上主義に未来はない

 (1)効率至上主義がもたらすもの
 「新自由主義」とは弱肉強食の市場主義に立脚し、世界中の民衆を食い物にしながら利益を追いつづける巨大企業(多国籍企業)に奉仕する「経済理論」です。

 小泉「改革」の中小企業の倒産と失業を増大させる「不良債券処理」、大企業のリストラ応援、健保の自己負担の二割から三割への引き上げや老人健保の適用の七十五歳への引き上げなども、こうした立場を剥き出しにしたものです。

 乱暴な「効率至上主義」がもたらすものはなにか。今年中には六%を超えると経済界が予測するほどの失業の増大であり、中小企業の倒産、不況の悪化です。また、安い賃金を当て込んだ企業が工場を海外に移転させることに拍車をかけ、その結果生まれる日本経済の空洞化であり、日本が「生産しない国」になることにほかなりません。

 農業でも、日本の三十分の一の労賃である中国との競争を農民に迫り、競争に勝てないなら、「非効率」と決めつけてなりふり構わずに切り捨て、“競争に耐えられる”ごく一握りの「経営体」(法人経営)だけを農政の対象にするというのが「農業版構造改革」の本質です。

 こうした「効率至上主義」は、社会や経済のルールと人間の尊厳をどれほど蹂躪するか。このまま許すなら、社会を破壊しつくすことは明らかであり、早晩、破綻せざるをえません。

 (2)家族経営農業にこそ、日本農業の展望がある
 農民連行動綱領は、「家族労働を基本とし、今日の進歩した科学や技術を生かした農民経営の安定を基礎に、日本農業の自主的発展をめざす」と述べています。いま、農業を効率主義を物差しに評価し、家族経営を全面的に否定して法人経営、それも株式会社の農業への参入を推し進めようとするねらいが急です。

 日本の農業は、家族経営が中心です。“家族で頑張れば経営が成り立ち、展望も開ける”という状況をつくることこそが農政の中心であるはずです。

 この役割は放棄し、経営がなりたたない、後継者もいなくなるような困難を作ったのが自民党農政です。農業は自然に左右される生命現象の営みです。“百姓は毎年一年生”といわれるように、一年として同じ気象条件はなく、これに対応して安定した生産をあげることは簡単なことではありません。一年中、天候を憂い、昼夜を問わず作物や家畜に思いをめぐらし、いいものをつくるためには労をいとわない自分の経営であり、生涯の仕事と認識するからこそ、進んで労働もすれば、長続きもする、生産もあがるのではないでしょうか。現に、経営規模では日本と比べようもないアメリカでもヨーロッパでも家族経営農業が多数です。

 「家族経営はムリ」というのは、農業を知らない“効率主義”に冒されたもののいう空論にすぎません。行動綱領の立場に立ち、家族経営農業こそ日本農業を発展させる道であることに確信をもって生産を守り、運動を進めましょう。

 3 農業をめぐって

 (1)セーフガード問題
  (1)許しがたいセーフガードの発動中止の暴挙
 政府は、十二月二十一日、中国との二国間交渉で、三品目のセーフガードの発動を中止する態度を決めました(詳細は「声明」参照)。農民連は、圧倒的多数の農民の声を踏みにじった政府の裏切りに対して、万感の怒りを込めて抗議するものです。

 セーフガードの発動を、正面から妨害したのが小泉首相自身であったことは、小泉内閣の本性を示すものとして重大です。

 政府は、日中両国の生産者団体などで「協議会」を設置するという中国との「合意」を、あたかも輸入の歯止めになりうるかのように宣伝していますが、政府当局者自身が、「協議会は数値目標などを決める場ではない」という始末です。

 セーフガード発動の権利を放棄したに等しい今回の政府の態度は、今後、他国から輸入が増えて国内の農業が被害を受けても「前例」にされかねない重大な内容をもっています。

 中国の「報復」は重大なルール違反です。しかし、これに屈伏した背景は、大企業が受けた高関税を解消することであり、そのために農業を犠牲にしたという、大企業中心政治の乱暴な現れです。

  (2)政府を暫定発動に追い込んだたたかいを確信に、新たなたたかいを前進させよう
 ガットの時代を含めて日本政府はセーフガードを一度も発動して来ませんでした。セーフガードを要求するたたかいは、WTO協定がスタートした直後からの農民連、食健連のたたかいが、多くの農民や国民の要求に発展し、自民党政府を動かした成果であったことを確認しあいましょう。

 農民連のたたかいが農協や農業委員会を激励し、十二月には全中が農水省前での座り込みやデモを行いました。地方議会の意見書は、高知県で百%をはじめ、九割、八割の決議をあげた県がいくつも生まれ、全国では二千自治体近くに広がりました。

 セーフガードを要求するたたかいは、輸入自由化一辺倒のWTO協定の本質的矛盾に対するたたかいであり、このたたかいは、今後のWTO協定改定を求めるたたかいと連動せざるをえない問題です。

 三品目はもとより、タマネギ、トマト、ピーマン、ミカンなど、輸入の激増による被害は深刻で、産地が崩壊しかねない事態にあります。セーフガード発動の要求は、農民の叫びであり、同じく輸入によって危機的状況にある水産物や地場産品関係者にとっても切実な要求です。この声に背を向ける政治は、新たな矛盾を引き起し、必ず崩壊の道をたどらざるをえません。

 中国がWTOに加盟するにあたって、中国からの輸出が一定の水準に達した際にはセーフガードを特別発動する特例的取り決めが交わされました。この制度も生かし、輸入によって日本の産地に打撃を与えているすべての品目について、セーフガードを発動するたたかいを大きく前進させることが求められています。

 (2)BSE(狂牛病)問題
 日本で初めて発生したBSEは、国民を震撼させ、牛肉価格が五分の一、十分の一に下落し、乳廃牛に至っては引き取り手がないなど、日本の畜産を崩壊させかねない事態となっています。こうしたなか、肥育農家や牛肉関連業者の自殺など、痛ましい事件が引き起こされています。

 BSE問題で明らかなことは、

(1)WHOやEUの警告を無視して平然と肉骨粉の輸入を続けるなど、薬害エイズやヤコブ病と同質の、国民の命と健康より商社など輸入企業の利益を最優先した政府の無責任な対応によって引き起こされたこと。また、発生後の国民感情を無視した小手先の官僚的対応が、国民の信頼を失墜させ、政府自身が“風評被害”を拡大させたこと。

(2)牛肉の自由化や乳価の買いたたきのもとで、肥育効率や高乳量・高泌乳を奨励するために、自給飼料から輸入による購入飼料に誘導し、草食動物の生理を無視して「牛に牛を食わせる」というゆがんだ飼養管理技術が事実上、畜産農民に強要されたこと。

(3)政府は、事態を引き起こした責任を認めようとせず、若干の「対策」のみで農民や肉小売店など流通業者が被った損害を補償せず、無責任な態度を取り続けているということなどです。

 農民連は、九月十日の第一頭目の感畜牛発生以来、十数回に渡って政府の責任追及と損害の補償などの対策を要求してきました。十二月には「BSE一一〇番」を設置し、畜産農民の要求を聞き、激励してきました。北海道、群馬、茨城、徳島などで緊急集会が開かれ、こうした運動がマスコミでも紹介されるなど、農民連への期待が大きく広がっています。いま、まさに「農民の苦悩あるところ、農民連あり」という農民連の出番の情勢です。

 (3)「米改革」、農業版「構造改革」をめぐって
 農業版「構造改革」は、効率主義や市場原理に立ち、家族経営農業を全面的に否定しています。圧倒的多数を占める家族経営農業を否定して、どうして日本農業が成り立つのか。この行き着く先は、日本農業の破壊であり、まさに“亡国農政の極み”とでもいうべき攻撃です。

 「構造改革」の先駆けと位置づけられている「米政

策の見直し」に、その本質が象徴的に現れています。

 農水省は、稲作の現状について、米価の暴落と稲作所得の激減、大手商社やスーパーの価格支配、減反の限界などをあげ、食管廃止以来の自民党農政の破綻を事実上、認めています。

 しかし、失政への反省もなく、米の輸入を聖域化して、より強暴な兼業農民の稲作からの締め出しや減反政策の再編、大企業の流通支配をより強めるために農協や中小米卸・小売を流通から締め出すとともに、計画流通制度を廃止して、米の自給と安定供給、価格の安定などに対する政府の責任を全面的に放棄しようとしています。

 農水省は、三月にも減反再編や計画流通制度を改悪する「新食糧法改正案」などを国会に提出するねらいです。

 農協や自治体関係者から厳しい批判が出され、結論を一年間先送りせざるをえなかったように、無謀・強暴な政策の強行は許されません。

(新聞「農民」2002.1.21・28付)
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2002年1月

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