「農民」記事データベース20011029-514-01

イタリア農村紀行

食を見つめる旅(上)

スローフード運動発祥の地を訪ねて

関連/食を見つめる旅(中)
   食を見つめる旅(下)

 ファーストフードの象徴「マクドナルド」が首都ローマに出店。その反対運動を契機に一九八九年、パリで結成を宣言し、イタリア北部にある町ブラで活動を開始した「スローフード協会」は、イタリア国内を中心に世界五十カ国、六万五千の会員と五百五十の支部を有しています。スローフード協会があるイタリアを訪ね、その活動とイタリアの食文化を体験し、日本での食と農を守る運動に生かそう――そんな思いで九月二十八日からの六日間、千葉県多古町旬の味産直センターが主催した「スローフードを訪ねる旅」に参加してきました。

(森吉秀樹)


 家族で賑わうマックに驚き

 スローフード協会のある町ブラは、イタリア北部のピエモンテ州にあります。私たちは、ブラ近郊の農家民宿に滞在しながら、スローフード協会がブラで開催する「食べ歩き祭り」に参加したほか、スローフード協会や、ネギ農家、稲作農家、ワイン生産農家、肥育農家を訪問し、交流しました。

 イタリア北部の都市、ミラノの空港に到着し、貸切バスで宿舎に向かっていると、通り沿いに住宅が見えはじめました。しかし、明かりがついた家が少ないので「家族で食事に出ているのかな」などと話していたのですが、しばらくすると、マクドナルドなどのファーストフード店が通り沿いに出現。なんと子ども連れの家族が大勢並び、大繁盛しているではありませんか! 参加者一同驚きの声をあげました。私は一瞬「なんてことだ! せっかくイタリアまで来たのに」と思いましたが、こうした事態に危機感を抱いた人たちがスローフード運動を進めているのだろうかとも思いました。

 ゆっくり食べる生活スタイル

 私たちが最初に口にしたのは、一日目に宿泊したファームインの夕食で出されたパンでした。歯ごたえがあり、日本のように柔らかくないが、味があっておいしい。ワインを飲みながらパンをかじるだけでもいけるので、参加者は「国産小麦のパンは硬くてダメと言われるが、この硬さでも、この味が出せれば日本の小麦でいけるはず」と感想を出し合っていました。

 食事は、前菜、リゾットやパスタ、肉や魚という具合に、順番に一皿一皿出てきます。イタリアでは一皿食べ終わってから注文し、料理がなくなってからまた次の一皿を注文することもあるようで、たっぷり時間をかけて食べる生活スタイルが一般的だとか。昼ごはんも、自宅でゆっくり食べるのが習慣だといいます。

 また、食事の最後に必ずケーキやシャーベット、アイスなどの甘いものを食べ、エスプレッソやカプチーノなど、お好みのコーヒーを飲んで締めくくるのが普通だとのことでした。

 食文化違うが課題に共通点

 こうした食文化を持つイタリアも、経済発展にともない、特に北イタリアで、ビジネスライクな人が増えているといいます。エコノミックアニマル、“カロウシ”などの言葉で表されるように、経済優先で劣悪な労働条件がまかり通る日本と比べ、社会環境は雲泥の差だと思いますが、イタリアでも、働く環境と食などをめぐる生活の変化が押し寄せています。

 経済の国際化のもとで、マクドナルドなどのファーストフードが押し寄せ、食文化や、地域に根ざした伝統食が失われつつある。歴史的経過や程度に違いがあるとしても、食生活や伝統食をめぐる問題は、イタリア、日本に共通する課題だと思いました。

 こうした状況のもとでスローフード協会は、(1)消えつつある郷土料理とそれにまつわる文化を守る、(2)子どもたちや、それを教える教員に対する味覚教育を行う、(3)質のよい素材を提供する小生産者を守る、などの活動をしています。私たちが協会を訪れた時、協会の活動について、東洋アジア地域担当のディディア・スメルコーバさんは「前へ前へと発展する中で、食を含む生活全体を立ち止まって考えてみようじゃないか、発展を否定するのではなく、周囲との調和などを大事にした発展を考えようじゃないか、ということです」と説明します。

 消えつつある農産物への支援

 協会では、会員からの推薦や生産者から要請のあった生産物を、おいしいかどうか、土地の条件に合った種かどうか、大規模な工場生産形態に押されて守ることが困難になっているか、生産者にやる気があるか、などの基準によって選択し、消えつつある生産物のリストを作っています。そして、生産への支援とともに、協会が発行する雑誌での紹介や、見本市を開催して小売店やレストランなどとの仲介を行っています。

 また、EUが決めようとする衛生基準によって、生産が困難となる食品のために、こうした基準を撤回するよう、署名を集め、要請する運動もしているといいます。こうした取り組みは大変ですが「協会が支援しているピエモンテ州原産の牛は、自然な飼い方をしていたので、狂牛病の問題で逆に注目され、減少を食い止めるのが楽になってきている」とも話していました。

(新聞「農民」2001.10.29付)
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2001年10月

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