農民連第十三回大会決議案
21世紀!国民諸階層と団結して
WTO協定改定を農業・農山村の復権を
二〇〇〇年十二月五日農民運動全国連合会常任委員会
III 二十一世紀初年度に ふさわしい運動を
――今年度の運動方針
農業崩壊の危機にどんな展望でたたかうか、どんな要求、政策で運動するか、決議案では包括的な方向について提案します。
1 農産物の暴落・流通問題について
(1)セーフガードの発動、外米輸入の削減、自主米値幅制限の復活を実現する運動
セーフガードの発動、外米輸入(ミニマムアクセス米)の削減を求める運動は、WTO協定改定に連動するもので、この実現は日本農業に大きな展望を与えるものです。
セーフガードの発動を参院選挙のための「見せ金」に終わらせず実現するには、WTO協定の枠内でも政府がその気になればできることを徹底して宣伝することです。WTOセーフガード協定は「国内生産者に重大な損害を与え、または与える恐れ」があれば発動できることを明記しており、実質的には輸入・価格・国内生産の統計資料さえ整備すれば発動できます。
勝負は地域にあります。埼玉県では意見書を上げるだけでなく、実態を調査して、政府に実行を迫ろうとしています。全自治体での決議をめざし、全国知事会、市長会、町村長会の問題に押し上げること、単位農協や農業委員会、関係団体すべてに当たりきることです。集落全体の声にすることが要です。
外米輸入の削減、自主米値幅制限の復活は、稲作と国民の主食を守る根幹であり、実質的には減反政策を根本から変えていくたたかいです。引き続き署名・請願運動を強め、たたかいを広げましょう。
(2)生産・流通問題
価格の暴落で意欲を失っている仲間が全国にはたくさんいます。情勢の厳しさをどんなに強調してもそれは解釈しただけです。げんに、中国の農業を視察して落胆し「生産計画を縮小する」という結論を出した人たちもいるほどです。
原因を明確にし、どういう展望でたたかうかが重要です。輸入農産物に不安を抱き、国産農産物がほしいという圧倒的な世論と、実際に輸入農産物が増えているというギャップをどう埋めるかが問題です。
その基本は(1)大いにものを作る運動を進めること、(2)流通関係者との共同をさらに進め、安全で新鮮な国産農産物を消費者に届ける運動を強めること、(3)消費者が国産農産物を選ぶ自主的な運動の発展や、小売と消費者の結びつきを強めるうえで必要なことには、農民連・産直協が全力で取り組むことです。
もし、これらの取り組みが広がれば、私たちは決して輸入農産物に負けないでしょう。
これらの実践については、米卸と小売業者とを結んだ「ほくほくネット」の経験があります。野菜の市場へのリレー出荷や卸と小売業者を結んだ運動、市場に毎日欠かさず出荷する運動、小売業者と新婦人の会が結んだ運動などが関東にあります。生協産直では、今日の情勢に見合った運動が九州にあります。中小スーパーと提携した運動や地道な朝市、直売所の運動が中国地方にあります。
減反拡大だけが価格暴落対策だという政治に対して、減反をする人もしない人も、あくまでも田畑を荒らさず、「作ってこそ農民」と農業生産を守り、危険な輸入農産物と対決する立場の人もたくさんいますし、この立場から農民連に加入してきています。
(1)「一支部一直売所」をめざして、本気になって取り組もう
直売所や朝市は、生産を掘り起こし、多様な産直や市場出荷の基礎になりうるものです。消費者の要求をつかみ、生産技術を高め、産直の実務を学び、生産意欲をどんどんかき立てる場になります。多い人は実に七十品目を超える作物を作るようになりました。農民の自主性をはぐくむ場であることが最も貴重な教訓です。
実践のうえでは、女性会員の力がものをいいます。女性会員の力が発揮できるように、組織としても家族としても配慮し、女性部はその先頭に立ちましょう。
(2)いま作っているものを出し合うとともに、今年は何に挑戦し何を作るのか、具体的に決めよう
全国連・生産流通部会は産直協と協力して、市場や生協、新婦人、直売所などで求められているものを全国に発信します。県連は単組・支部・班に、この情報を伝え、会員誰もがこれに応えられるよう配慮しましょう。
(3)新婦人産直を発展させよう
食べてくれる新婦人会員の要求を大切にし、生活圏を守る運動と結合して、新婦人産直を発展させましょう。
(4)生協産直に積極的に取り組もう
生協は食の安全を求める最も組織された消費者団体の一つです。地域の生協に働きかけましょう。
(5)卸売市場との共同を全国で発展させよう
卸売市場を必ず訪問しましょう。その際、事務局や役員だけでなく必ず生産者・会員が一緒に参加しましょう。農民連の立場、方針を伝えるとともに、相手の声に耳を傾け、一品目だけでも実現できるよう誠実に対応しましょう。
(6)ブロックネット、都道府県ネットの確立を
これらの運動を進めるうえで決定的に重要なブロックネット、都道府県ネットを確立しましょう。
(3)食品の安全問題についての新ビデオを活用しよう
輸入農産物とたたかう運動を進めるうえで、宣伝が決定的です。情勢と運動の発展を反映して、食品の安全問題をアピールする新ビデオを作ります。すべての班や関係団体に普及し、積極的に活用しましょう。また、加工食品や外食産業などのごまかしや大企業の流通支配などを鋭く告発し、「食と農を守る共同」を進める新聞「農民」を消費者にも普及しましょう。
2 地域を守る多様な運動の発展を
(1)生産の助け合いで地域を守ろう
政府の暴政によって、耕作放棄地が増え続け、請け負い耕作も限界にきています。高齢化も進んでいます。
生産と流通の課題にとりくみながら、畦道講習会でみんなの意欲を引き出し、生産の助け合いをしている支部・班があります。自治体がお年寄りから若者まで、農家を残し、生産を維持することを主眼にして集落営農を援助している事例もあります。
農業と村を守るために助け合いや集落営農、協業化などを探究し、それに必要な簡単な土地改良(「田直し」「狭地直し」)や機械の共同利用、販路の確保などを自治体に働きかけましょう。革新、民主の自治体で典型が大いに広がるよう取り組みます。
(2)中山間地域の農業を守る
中山間地域に対する直接所得補償が実現したものの、実態に合わない条件が押しつけられているため、申請件数は予定の七割にすぎません。交渉によって、補償額の半分は集団の収入にしなければならないという条件を改めさせ、個人の所得が半分以上でもよいことを認めさせました。さらに中山間地域の農業を守る制度に変えさせる取り組みが必要です。
(3)農業者年金の改悪に反対する
給付の一割削減など農業者年金の改悪に反対し、改善を要求します。福島県では、政府の削減方針に対して怒りを燃やしている年金加入者・受給者の組織化が始まっていますが、こういう経験に学び、農業を守るたたかいと合わせて運動を強化します。
3 大きな役割を果たしている分析センターのいっそうの発展を
未承認の遺伝子組み換えトウモロコシ「スターリンク」が食品と飼料に混入していた事実や、農薬が基準以上に残留している農産物を輸入している事実は、いかに安全チェックがされていないかを示しています。
こういう安全無視と検査の手抜きに対して、SPS協定(衛生植物検疫協定)にしばられることなく、堂々と輸入農産物の危険性を分析し、公表する農民連分析センターの検査データが大きな力を発揮し、国民の世論を喚起してきました。多くのマスコミにも取り上げられ、社会的権威を高めています。
また、農民連の仲間は検査結果を見て、ものを作る意欲と誇りを高めています。分析センターが発足できたのは、食健連や消費者団体、民主勢力の援助によるものであり、共同の財産です。
分析センターは、今後さらに残留農薬や添加物、遺伝子組み換え農産物、ニセ表示などを国民の前に明らかにしていきます。そのために二千万カンパ達成のために最後まで努力します。
同時に、SPS協定の改定、SPS協定に沿って改悪された食品衛生法の改正、水際での検査体制の抜本的な強化、加工品を含むすべての食品の表示の義務づけなどを求めていきます。
4 重税から暮らしと経営を守る運動
(1)ますます強まる増税路線とのたたかい
七月に打ち出された「政府税調中期答申」は、大企業や大金持ちへの優遇税制を温存したまま消費税増税をうたい、基礎控除・専従者控除など各種控除の縮減・廃止、損益通算(還付請求)の制限、農地の相続税納税猶予の廃止など、国民・農民にむき出しの重税を押しつけるねらいを強めています。
また、多くの税務署が二〇〇〇年度の申告から「農業所得標準表」の作成をやめ、記帳のできない農家には「経費目安」による推計課税を押しつけて多額の税金をとろうとしています。まさに税金問題は、すべての農家にとって避けて通ることのできない、かつてない重大問題となっています。人権を無視した強権的な税務行政もいっそう強められています。
こういうなかで、農家の税金に対する不安が高まり、助け合いながら自主計算・集団申告を進めている農民連への期待は、飛躍的に高まっています。
(1)消費税増税を許さない国民的運動を、地域の各界連とともに進めましょう。
(2)すべての都道府県連が重税から暮らし・経営を守る運動を全農民を対象に進め、「農民連に入って重税をはねかえそう」のよびかけを強めましょう。税金ノートを活用し助け合いながら記帳運動を進めましょう。
(2)固定資産税・相続税を軽減させる運動
自治省は、私たちの長年のたたかいによって、農業用施設用地への農地課税を原則とする方向を打ち出さざるをえなくなったものの、あれこれの条件を設けているため、依然として多数の農業用施設用地は宅地課税扱いされています。
固定資産税の評価替えの年であった二〇〇〇年は「農業への課税は収益にもとづいて評価課税すべき」の要求をかかげ、審査請求
や照会問いただし運動、標準小作料より高い固定資産税を軽減させるなど、各地でたたかいが大きく盛り上がった一年でした。
また、農用地区域除外を
理由に農地としての評価を拒む自治体に対して粘り強いたたかいを進め、農用地区域への再編入による減税や、造成費を軽減させる展望を勝ち取ったことは、今後のたたかいに生かせる貴重な成果です。
(1)引き続きすべての組織が固定資産税を軽減させる課題に取り組みましょう。
(2)すべての会員が自分の土地や家屋への課税状況をつかみ、軽減を要求しましょう。
(3)標準小作料を上回る固定資産税の減免を要求しましょう。
(4)農地の相続税の納税猶予制度の廃止に反対する運動を、広範な団体と共同して進めましょう。
5 WTO協定改定の展望を開く国際交流をいっそう前進させよう
昨年二月に開催した国際シンポジウムやその前後の国際交流は、農民はもとより消費者・業者にも限りない激励をあたえました。アメリカでもヨーロッパでも韓国などアジア諸国でも、家族経営が危機に瀕しており、WTO協定を改定し、各国の食糧主権を認めさせることが緊急の課題であることで一致しました。
また、多国籍企業やWTOの横暴に抗議し、抜本改定を求めるNGOや農民組織などのたたかう仲間との共同は全世界的な規模で広がっています。こういう運動と国連加盟国の三分の二を占める非同盟諸国の力がアメリカの横車にストップをかけています。WTO協定は改定できる私たちが日本政府の姿勢を変えることが世界の民衆のたたかいに対する貢献であることが明確になりました。
今年から本格的に始まるWTO交渉などに積極的に対応します。世界の農民組織やNGOとの交流、国内にある非同盟諸国の大使館訪問、外国の視察をするなど誰もが参加できる交流を進めます。
6 国民的課題を大運動実行委員会などとともにたたかおう
平和・核廃絶の問題、消費税の引き上げ、福祉・医療の改悪など、どれをとっても農民に直接関わる重大事です。文字通り「軍事費を削って、暮らしと福祉、教育の充実を求める」国民大運動の出番です。
また、労働者の解雇規制、労働時間の短縮、さらには、全国一律最賃制の運動も兼業農家や婦人のパート労働者に直接関わる課題であり、農産物の消費拡大と価格の回復に関わる問題でもあります。積極的に参加しましょう。
7 歴史的な転換が勝ち取れる時代、明日の農村のために政治革新を
(1)創立二十周年を迎えた全国革新懇が新たな前進を開始しています。革新懇の運動を地域から高揚させるためにがんばりましょう。
(2)今年は七月に参院選、東京都議選があります。総選挙もいつ行われてもおかしくない情勢です。すべての会員が自分の要求を実現するとともに、二十一世紀のできるだけ早い時期に、胸を張って農業ができる世の中にするために、政治革新をめざして奮闘しましょう。
(新聞「農民」2000.12.25付)
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