「農民」記事データベース20000417-446-10

C 流通の変化に対応した誠意ある多様な共同の探究を――首都圏への出荷を例としたときの展望

【1】上尾市場への出荷の教訓

 埼玉産直協同の野菜がいいものだと認めて、市場出荷をS卸の専務が希望していることを聞いて、埼玉県連事務局長の松本さんが農民連の方針を説明し、出荷について懇談を始めました。

(1)まず、出荷

 「まずは青果物を出荷して」「議論ばかりしていては何も始まらない」というのが、「上尾」の大きな教訓でした。

(2)対話・懇談(農民連の方針の説明)・継続

 最初のうちは、そのつど現物を持って行っては懇談しました。

 継続――年間を通じて、時期によってはわずか二〜三種類しか出荷できませんでしたが、産直協同の協力を得て、市場出荷を始めてから一日も休まずに続けることができました。荷を持っている組織があることがどんなに大きい役割を果たすかを示すものです。

 埼玉県農民連は、県内だけでなく各地の農民連の出荷の事実上の事務局の責任者として、農民連がなぜ市場出荷をするかを、一つ一つの局面で丁寧に説明し、相互に理解を深め合いました。新聞「農民」も読んでもらいました。この点が、農協の出荷や、既存の産直センターの「余り物の出荷」とはまったく違うところでした。

 あるとき、長野県連がプルーンを出荷したところ、前日まで百二十円くらいしていたものが翌日には五十円に大暴落しました。生産者から「これでは生きていけない」と大問題になったことがありました。

 松本事務局長はこのとき市場を訪ねて「なぜ、そうなったのか」をただし、卸の側も誠実に改善し、体制を強化してもらいました。

 栃木の海老原さんは、ホウレンソウが一束二十円に下がったときも出荷は続けながら「市販では八十円で売られていたのに、なぜ私たちは二十円なのですか」と市場に善処を求めました。

 安いときでも出荷をやめなかったところに、並みの取り組みでないことがうかがわれます(安ければ出荷せず、値がよければ出荷するという傾向がありがちですが、これでは市場側とともに流通を守る共同の探究にはなりません)。こういう双方の誠実な努力のなかで、セリで農民の「希望価格」が一定程度まで実現するようになったのです。

(3)「共同の探究」とは

 私たちは「農民連を通じて市場へ出せばいい値になるから出荷しないか」と市場出荷を呼びかけているのではありません。流通が大きく変化して、このままでは大商社や大量販店のえじきにされるから、農民同士で、また農民と市場が力を合わせて、生産から消費まで新しい流通をつくるために、誠実に、ともに探究しようというのが農民連の方針です。

 「さんざん市場で苦労して産直センターをつくったのに……。なにをいまさら市場出荷を!?」と思う人はもう一度この方針をよく検討してください。

(4)店頭販売も重要な役割を果たした

 「上尾」での取り組みのなかで、O店で店頭販売をして大きな反響を呼びました。消費者とのつながりを考えると、その後の市場出荷にはずみをつけたようです。

(5)「上尾」だけでなく、「築地」でも、「大宮」でも誠意ある共同の探究こそ

 「上尾」での取り組みが始まって、農民連はT市場の仲卸の専務を勤めた「この道四十年」の佐藤さんを迎えて体制を強化しました。佐藤さんが農民連の方針を市場に話して理解を広げ、また全国各地からの野菜を市場につなぐなど、言葉だけでなく実際に運動が進むなかで、市場と農民連の間に信頼が芽生えつつあります。

【2】「上尾」をはじめとする運動は、どんな展望をもたらしたか

(1)大消費地の市場に出荷する場合

 「減反を受け入れて作った転作作物をどこへ売るのか」とか、「北海道のような大生産地では産直のようにチマチマした販売では対応はできない」という意見がありました。そういう問題を考えるとき、大消費地を考えなければなりません。

 大消費地の典型である首都圏の場合、七〜九月は暑くて多くの野菜ができず、いまの段階では、東北北部と北海道に頼るしかありません。その場合、これまで(1)少しばかりの荷を送るのでは運賃が高くつくのではないか、(2)たくさん出荷すれば一市場に集中して暴落するのではないかという二点が心配されました。

 しかし、北海道から五トンコンテナで運んでも、いまは首都圏には農民連とつながりができた市場があります。また、茨城県西産直センターにはコンテナ二十台分が入る倉庫(夏には空いている)がありますから、ここで各市場に分荷し、幾つかのルートで配送することは十分に可能です。

(2)受け入れ体制

 首都圏の場合を想定すると、基本的には関東のネットワークが責任をもって圏内の市場に供給しなければなりません。市場に対する入荷や分荷、価格の状況など細大もらさず責任ある対応する体制――たとえば前述の上尾・大宮・浦和市場における埼玉農民連の松本事務局長のような役割を果たす体制が必要でしょう。

 もちろん、この例が一番いいとか、すべての地域で、いつでも、同じ体制がいいというのではありません。市場との意見交換、作物の品質、包装、価格の問題、出荷量や品目の調整、全国各地との連絡など、市場出荷がスムーズに果たせる機能と体制が必要になるでしょう。

 それらの調整の場合、市場(買い手)の意見をよく聞くことも大事ですが、同時に、市場の側に農業に無理解な点があれば、農民の目線を反映した率直な意見交換も求められるでしょう。

 そういう場合、専務や常務に話すとともに、直接の現場の担当者にまで意見が届くことが大事です。「上尾」はその点、いくつかの経験を積みました。それぞれの実態に適した体制や運営が探究されるべきでしょう。

(3)求められる県連の対応――単組・産直センターにまかせきりにしない

 (1)地域・地方の市場を訪問し対話するうえで、県連がイニシアチブを発揮し、ブロックや全国のネットワークにつなげることが大事です。

 (2)その場合、地域や県だけでは季節的に出荷・供給できない時期があるのは避けがたいことです。したがって、他のネットワークとの協調が欠かせません。

 また、県連・県ネットワークは、どの単組、どの地方で、何が、どのくらい作付けされ、いつ収穫できるかをつかむよう、単組・支部・班にいたるまでちゃんと調べて掌握することが決定的に重要です。

 この場合、欠かせないのは県農民連の役割であり、県産直協議会(県ネットワーク)でしょう。産直センターまかせにしないで、県内の市場出荷や産直について、意思統一したり、荷を調整したり、共同・協力すべき課題が少なくありません。

 (3)これが産直組織としてだけでなく、運動体としても機能しないと「地域で作り、それを市場出荷する」という最も大事なことが抜けてしまうでしょう。そして、ブロックの事務局は市場のために走り回る――いわば集荷業者のようになりかねません。そして、現地の農民に集荷業者のように見られたら、何べん「流通の変化に対応した多様な探究を」と言っても理解されにくいでしょう。生産者は作って売ってもらうだけでは“お客さん”になってしまいます。あくまで市場と共同で「流通の変化に対応した探究」をするのです。

 (4)そして、地域で生産量を増やし、市場出荷を推進するには、単組・班にいたるまでの討議(話し合い)と実際に作付けされる努力が必要です。これを徹底して追求するのは運動体であり、県連の責任は重大です。

【3】地方・地域の市場も重視を

 大消費地を重視するからといって、地方を軽視することはできません。

(1)地方卸売市場の重要性

 地方市場に荷が集まらなく、経営が困難になって、市場の存廃にかかわるほどの問題になっているばかりでなく、地域の八百屋(小売、個人スーパーなど)や食堂などにとっても、商店街のにぎわいにとっても、地方・地域の市場を重視することが大切です。

(1)地方の市場の良さと地域づくり
 生活圏を守る運動と提携する課題は、大都会だけのことではなく、全国の地方都市で可能なばかりでなく、シャッター通りが増えている田舎の街ですら(具体的な対処の仕方は違っても)共通した問題です。

 地方卸売市場は規模が小さいこともあって、季節の山菜・キノコや自家用の余りのような野菜や筍などを適当な空き箱に入れて農家が持ち込んだものを、地域の八百屋や個人スーパーなどがセリで買って行くというような小口の出荷や、地場流通が温かく扱われるケースが見受けられます。さびれている地域の商店街のためにも、地域の小さな市場出荷を重視しましょう。

(2)地域の生活圏を守る運動の一環
 これは、地域の生産者と生活者が街や村をよみがえらせる一環となるものでもあり、小範囲で地方にあるからこそ、運動いかんではみんなの声(要求)が伝わりやすく、実現しやすい側面があります。

(2)地方の市場は、全国ネットワークの重要な一環

 どんなに地方にある小さな市場といっても、市場が成り立って行くためには、多品目の生産物を年間を通して全国から供給しなければなりません。ですから、小さい市場に対応する場合にも全国ネットワークが必要です。

 一方、いつ、どこで作ろうとしても、販売先がなければ農民は作るのに不安です。これまで「減反田を荒らさないで何でも作ろう」と呼びかけても、しばしば「どこへ売るんだ?」という声が返ってきました。

 全国ネットワークが必要です。全国で市場出荷しようということは、それぞれの地域の市場が全国ネットワークの一つになるわけです。いま、農民連がそのことに手を着けようというところにたどり着いたのです。全国で地域の地方卸売市場を訪問して、農民連のこの考え方を紹介して対話し、市場の考えに耳を傾けましょう。

(3)日本列島は南北三千キロ――いつでも何でも間に合う国――

 日本列島は亜寒帯から亜熱帯まで南北に三千キロもあります。多くの野菜がいつもどこかで作られています。真冬でも、沖縄ではカボチャができます。外国から輸入しなくてもいいのです(運賃が高いというなら、下げさせましょう。人間の航空運賃があんなに値下げできるのですから)。

 現に沖縄では、冬にはいろいろな野菜が無農薬ででき、築地市場には農民連シールのインゲンが出荷されています。

 北海道では、夏でもブロッコリーやホウレンソウなど、関東地方以南で七〜九月にはできないものも作れます。

 これまでは、「作ってもどこに売るのか」と見当もつかなかったところでも、いまは絶対量が足りないだけでなく、全国的なネットワークによって出荷する道が開け、現に、農民連本部に問い合わせて市場を紹介して喜ばれている例がいくつも生まれています。

 豊かな日本列島をつなぐ「全国ふるさとネットワーク」は、僻地でも山間地でも、全国で作ってこそ可能なのです。

 このように、地域の市場と結びつく意義は大変大きな意味があります。

【4】市場も農民連に期待

(1)農民連マークの反響

 茨城県産直ネットワークが作った「農民連シール」を市場出荷する農産物に貼って出荷を始めました。築地市場では、農民連の佐藤さんの努力もあって、農民連が市場のことも考えて取り組んでいることや、いいものを出荷しようとしている気持ちが伝わって「もっと固定客を増やしたいから、農民連シールをぜひ貼ってくれ」とか、「生産者カードを入れてほしい」と大変な評判です。

 双方の誠意が通じ合うことがどんなに大事かを示しています。

(2)「大宮」では農民連担当のセリ人が

 大宮市場では、農民連の方針と誠意に応えて、農民連担当常務をおき、また、農民連の荷は先取りさせず、農民連担当のセリ人をおき、朝、まず「ただいまから“日本”農民連の荷のセリを始めます」と場内放送をしてからセリを始めるという熱の入れようです。

(3)市場関係者の期待

 こういう状況のなかで、『食品流通経済』という雑誌が「食べる口を外国に――食料の外国依存は危険・自給率を高める運動を」という記事をのせたり(二〇〇〇年三月号)、農民連について「安全な国産食品を増やし…経済のみでなく、理想に裏打ちされた団体」などと紹介しています(同一月号)。この三〜四年来の探究と実践は、このように現在の流通業界が同じ問題意識をもち、共同の探究の可能性があることを物語っています。米や製粉の業界でも、酒・味噌・醤油などの業界でも、食品関連産業に広く共通する問題です。

【5】市場出荷だけでは価格問題は解決しない

 新しい市場出荷について農民連と市場の間とで新しい共同の探究が始まったことは素晴らしいことですし、市場側もそれなりの対応をしていることは農民を励ますものです。しかし、新婦人産直でも、生協産直でも言えることですが、新しい市場出荷でも、これだけで価格や過不足の問題を全部解決することを求めるのは無理です。長引く不況、リストラ・首切り・失業などのどん底にあえぐ人々に対する理解と懇切丁寧な説明も欠かせません。

 ことの根源は、政府の価格政策の放棄、輸入自由化最優先の政治、そして、大商社・大企業・多国籍企業のルールなき傍若無人の開発輸入にあり、これをやめさせる運動と世論が必要であることをしっかり見ておきましょう。

【6】直売と地場消費

(1)作ったものはすべて売り尽くす課題――「規格」からはずれたものをどうするか、直売所、朝市、日曜市で売れないか――

 たとえば、「ここのニンジンは日本一だ」と言われる産地の場合、しばしば規格外のものが大量に畑に放って置かれる光景が見られます。農家にとっては作ったものは全部売り尽くすことが一番うれしいことなのに……。

 さりとて、これを規格品に混ぜるようなことをすれば、評判を落とし、仲間全体に迷惑をかけることになります。そんな場合、まったくのクズなどは自家用や家畜のエサにするとして、一定以上のものは地場消費に回す――たとえば、直売所で安く売るとか、詰め放題○○円(和歌山県・紀ノ川農協)という売り方もあるでしょう。

(2)地域の農畜産物を学校・保育園の給食に――食文化を取り戻す運動と結んで――

(1)子どもの成人病
 九九年、茨城県猿島郡三和町小学校の四年生百五十人を対象に小児生活習慣病の予防検査を行ったところ、二七・八%が肥満とコレステロールで引っ掛かったということです(新聞「農民」二月二十一日号)。食文化が壊され、食生活を変えさせられ、子どもの体がこのように異常になったのは、MSA協定(一九五六年)以来のアメリカの食糧戦略にあったことはいうまでもありません(雑誌『農民』49号参照)。

(2)学校給食に県内産の米と麦を
 埼玉県では、県下全部の学校給食に県内産のお米を給食に使うことにしていますが、今年二〇〇〇年には県内産の小麦も同じように全校の給食に使うことになりました。

(3)産地から東京へ。米の学校給食産直
 また、北海道S産直センターは東京の学校給食に米を供給し、年々広がっています。「最初はこんなに安くては……」という思いもありましたが、今はルートをつける(販路を確保する)ことが大事だということで、あえて踏み切りました。

 これまで、どんなにまずくても学校給食会(体育・学校健康センター)の米を給食に使っていたのは、ひとえに給食への補助金にしばられていたからでした。ですから「米飯給食への補助金が削減され、しかも、古米や外米が混じっていることを否定できないまずい米を、なぜ使わなければならないのか」という声も出ています。「いままでよりおいしいお米を産直にのせる」という脱「体育・学校健康センター」の方向は今後も広がるでしょう。

 地元の米を学校給食に使うことは、輸送コストや中間経費を省くこともできるので、価格の点でも今後広がると思われます。

(4)病院給食
 「安全・新鮮」が最も要求される病院給食に地域の米や野菜を産直で届けることは、望まれる割合には、価格が安いので乗り気でなかった節が見られます。民医連だけでなく保険医協会などとも広く懇談すべき分野でしょう。

 その際、新婦人産直のケースでもありましたが、民医連への甘えがないか、自己点検が求められます。また、組合員自身が参加した販路拡大の運動も、産直運動の初心にかえって検討してみましょう。

【7】大豆・小麦・ナタネなどの作目でも、関連産業との共同の探究を

 遺伝子組み換え作物に対する関心が非常に高いいま、自分たちでやる農産加工とともに、大豆・小麦・ナタネなどの分野でも、酒・醤油など関連産業との共同に挑戦し、探究しましょう。

(新聞「農民」2000.4.17付)
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