「農民」記事データベース20000417-446-08

農業と関連産業の危機にあたって

多様な流通を共同で探求しよう

二〇〇〇年三月三十日 農民運動全国連合会/産直運動全国協議会


A 財界農政とWTO協定がもたらした生産と流通の激変

【1】ルールなき傍若無人の輸入自由化、開発輸入を許せるか

(1)大資本・多国籍企業の戦略のなかで

 工業製品の輸出のために日本農業を犠牲にする自民党政治は、WTO協定以後、農協を抱き込んで言葉巧みに農民をごまかし、コメ関税化、価格保障の全廃などの政策をいっそう激しく進めています。

(2)大企業・多国籍企業のための貿易自由化――われわれは糾弾する

 世界に例を見ないほど食料自給率が低く、農業で生きたいと思っても、あまりの価格の低さに後継者がどこまで減るか分からないというのに、なぜ、国民の健康や命を脅かしてまで、輸入自由化を進めるのか!

 すべて大企業・多国籍企業のための自由化ではないか! 輸入のためには食品の安全性はことごとく踏みにじった!

 農民の労働を、農民という人間の尊厳を虫けらのようにふみにじる政治を許せるか!

(3)大企業・多国籍企業が農業・食料の分野に進出

 大企業は、四十兆円の食品市場をにらんで、現在の農産物・食材の流通を自分に都合のよいように変えようと、いろいろな作戦を考えています。

(1)市場を量販店の中継基地に
 大規模店舗規制法がなくなり、大型店の進出が自由になったため、大量販店は「せり」でなく相対で卸や仲卸を買いたたくことができるようにすることや、市場を中継基地あるいは集散地化することを要求し、ついに市場法を大改悪してしまいました。

(2)輸入農産物は港と税関を素通り
 厚生省の調べでも、アメリカや日本で使用禁止になっている女性ホルモンがアメリカ産牛肉に含まれていたり、アメリカ産牛肉の半分はO―一五七に汚染されていると伝えられています。日本に輸入される牛肉の四八・三%(九九年、金額では五七・四%)はアメリカ産だというのに、厚生省はたった一・五%しか牛肉の検査をやっていません。

 一方、コーデックス委員会は「三年間無農薬・無化学肥料」を有機農産物の認証の条件にしました。しかし、実際には「有機」と認証されたアメリカ産大豆から有機燐剤が検出されています(雑誌『農民』44・45合併号)。

 こういう輸入農畜産物の危険性があるにもかかわらず、大蔵省・関税局は関税法を改悪して「特例申告制度」を導入して、事実上無検査にしてしまいました。

(3)遺伝子組み換え作物の表示をなぜ拒むのか
 日本政府の遺伝子組み換え(GM)作物に対する態度は、国際的に見ても異常に甘いのが特徴です。GMバレイショを食べさせてラットに発ガン症状が出たとか、GMトウモロコシの花粉を食べた蝶の幼虫が死んだというような実験があっても、GMの表示には極めて消極的な対応で、GM大豆にいたっては、醤油に使えばたんぱく質の形が変わるから検出できないという理由で表示しなくてもよいことにしました。

 三月十日、農水省は日本モンサントの「除草剤ラウンドアップの影響を受けない組み換え稲六系統」のGM稲の「食用・加工用及び飼料用としての輸入並びに日本国内での栽培」を認めることを許可しました。

 すでにアメリカでは、日本の主要な稲を全部集め、遺伝子組み換え技術を使って日本人の好む食味の品種を開発しています。このなかには除草剤「耐性」のコシヒカリや、不耕起栽培・直播栽培用の組み換え稲などがあると言われます。日本モンサント社は今後厚生省に安全確認を申請し、アメリカがミニマム・アクセス米の一部として輸出してくる情勢にあります。

 輸入のためには何でもOKという日本政府の姿勢は明白です。

(4)日本の農業後継者を「社員農家」として取り込み
 大企業は消費者の本物志向に目をつけて、技術のいい農家を「社員農家」として取り込み、国産農産物の安定的な供給をするための全国的なネットワーク化を狙っています。

 また、こういう農家の規格外の野菜も買い上げて、それをカット野菜の材料にするなど農家の希望をかなえるかっこうで取り込む大商社もあります。

【2】農産物の輸入は明らかに新たな段階に

(1)WTO協定以来、急増

 農畜産物の輸入の最大の変化は何といってもコメ輸入自由化です。それは量にすれば生産の一割になろうとし、米の市場を著しく圧迫していることはいうまでもありません。

 また目立つのは、輸入規制のない野菜の輸入の増加ぶりです。明らかに新しい段階に入ったということができるでしょう。

 野菜の輸入は生鮮・冷凍・乾燥などを総計すると約二百七十万トンで、三百万トン時代もすぐだといわれ、国内生産の二〇%近くにのぼり、自給率は八〇%そこそこです。

 五%の豊作で暴落するといわれる野菜の分野で、二〇%近い輸入が価格にどんなに大きな影響を与えるか言うまでもないでしょう。

(2)原因は、大商社・多国籍企業の開発輸入――豊作だから暴落したのではない

(1)生鮮野菜の輸入量
 生鮮野菜の輸入量は、一九九五年にはアメリカからの輸入が第一位で、中国はその半分くらいでしたが、九九年には中国産野菜は三倍に増え、アメリカを抜いて一位になりました(三位はニュージーランド)。冷凍野菜では依然としてアメリカがトップで輸入量の四五・九%を占め、中国が三四・一%で二位です。

(2)低賃金で作らせた農産物の開発輸入が急増
 とくに低賃金の国へ日本人向けの野菜の種子を持ち込んで作らせて輸入するという開発輸入に、大商社や多国籍企業が乗り出しているのも一つの特徴です。

 たとえば、KIFA(ケーアイ・フレッシュ・アクセス)という会社がその一例です。ドール(アメリカの青果物多国籍企業)、協和、伊藤忠商事が株主の会社です(持ち株各二〇%、四〇%、四〇%)。

 国内の事務所・関連会社は札幌・仙台・飯田(長野県)・川崎・大田区(東京)・九州KIFA(福岡市)、海外事務所は中国(淅江省・山東省・福建省・上海)です。

 注目すべきことは、KIFAの海外事務所が中国だということです。このことは生産地が中国であることを示しています。

【3】農業危機は関連産業の危機 危機が生んだ共同の探究の条件

(1)関連産業の危機

 農業の危機はそのまま関連産業の危機につながっています。たとえば、輸入が増えて野菜価格が暴落・低迷すると、農家は作らなくなります。当然、荷は集まりません。

 そのうえ「農協の大型合併が進んで、大ロットでないと地方卸売市場には荷を卸ろしてくれず、集荷は困難で、転送荷に期待するしかないが、そうなると高くなるし、鮮度は落ちる。これでは量販店に押されて卸も小売もやって行けない」という事態も進んでいます。

 地方卸売市場ばかりでなく、青果物の暴落・低迷は市場全体の問題で、卸の四割が赤字状況、仲卸の七割が赤字状況です。

 青果物だけでなく、農業機械や、製粉・製油・醸造など農産加工の分野でも中小の企業は全く深刻です。

(2)共同して探究する可能性

 農協は全国二段階制をめざした大合併を進めていますが、それは必然的に“大量にまとまった荷(大ロット)を大口(量販店)に卸ろす”ということになります。それは地域の八百屋さんや個人スーパーには新鮮な野菜が届かないという結果になります。ここにも八百屋や個人スーパーを締め出す要因が進んでいます。

 米の分野でも、大手の卸M産業がN県経済連と独占契約するとか、M物産が北陸のある経済連と契約するなどの事態が全国的に進んでいます。

 全国米穀協会の委託調査によれば、量販店のコメ特売などによって卸の七割がコスト割れだといいます。また、大型量販店の一方的な都合で小口で何回も配送させられたり、独禁法にふれる返品が横行し、卸の経営は非常にきびしい状況です(「商経アドバイス」九九年八月二十九日)。

(3)市場・流通関係者との対話と模索

 農業と流通関係者は明らかに、運命を共にしているのが現状です。

 その一方で、国民の八三・四%が「高くても国産の農畜産物を」と望んでいるわけですから、この二つを考え合わせると、明らかに流通の変化に対応した新しい関係を共同して構築する基礎的な条件があります。

 こうした考えから、この数年来、農民連は市場・流通関係者との対話と模索を始めました。

 二年前の「流通の変化に対応した産直運動の多様な探究を」という農民連・産直協の呼びかけは、こうした模索のなかで出されたものでした。

(4)対話を通じた新しい市場出荷の始まり(埼玉・上尾市場)

 この「流通の変化に対応した産直運動の多様な探究を」の実践は、埼玉農民連のイニシアチブで地方卸売市場・上尾市場のA卸売会社との対話・出荷から始まりました。

 九八年五月の連休明けから、価格や品ぞろえなど様々な問題を対話・懇談を通じて一緒に改善しながら、ともかくも定休日以外は一日も休まずに出荷を続けることができました。埼玉産直協同という産直センターが全面的に出荷をバックアップできたことが大きな支えでした。上尾市場出荷は多くの経験と教訓を残し、また、全国の組織を励ましました(詳しくは[C章])。

 上尾市場につづいて、名古屋市中央卸売市場・北部市場でも東海ブロックが中心になってM社と前向きの懇談会がもたれました。静岡の県連や産直組織の協力・援助もあって担当者が決まり、長野県や、遠くは鹿児島県からも出荷が始められ、ようやく点から線へと広がりました。

(5)地元の農産物が中心にあってこそ

 市場が期待しているのは地元の新鮮な野菜です。季節的に合わなければやむを得ませんが、市場の地元の農産物が中心に座るのが魅力なわけです。また、その出荷量がどれだけあるかがカギになるようです。

(6)大きな広がり――現段階での到達点

 市場出荷が取り組まれてまだ二年足らずですが、ブロックの取り組みとして、東北ブロックと北海道では「東北・北海道ネットワーク」(略称・ほくほくネットワーク)を九九年秋に立ち上げ、中堅米卸への出荷が始まりました。

 また、九州ではF生協に“Qネット”として対応することが話し合われ、いくつかの前進がありました。

 首都圏では、埼玉の大宮、浦和などの地方卸売市場や東京都中央卸売市場の五市場に、また東北では福島、郡山の地方卸売市場、仙台市中央卸売市場に出荷が始まりました。名古屋には愛知・静岡・鹿児島から出荷するなど、系統的・継続的な出荷も始まりました。

(新聞「農民」2000.4.17付)
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