国際シンポジウムパネリスト五氏の報告(大要) [2/5]
アメリカでも深刻な農業・環境破壊と、高まる反対運動アメリカ・農業・貿易政策研究所代表 マーク・リッチー氏いまヨーロッパ、アジアや韓国、日本で起こっているのと同じような農業危機がアメリカや北米でも起こっています。アメリカの農業危機はあらゆる農産物価格を押し下げ、歴史上最低の価格になっています。 農家の借金は増え、返せない農家は倒産し、自殺者も出て、家庭内暴力や離婚が増え、村が廃村になっている所も出ています。大規模農家もアグリビジネスの契約栽培をさせられ、価格暴落のため昼は町へ出て働き、夕方帰って猛スピードでトラクターを運転して農作業をする。そのために遺伝子組み換えの除草剤耐性作物を使わざるを得なくなり、環境破壊も劇的に進んでいます。 こうした中でアメリカの農家も運動に立ち上がり、いま各地で集会やデモを行い、三月二十一日には、首都ワシントンに集結して議会や一般 国民に訴えることにしています。 農業生産物価格買いたたく多国籍企業現在の農業危機は、ウルグアイラウンド合意の結果、日本と同じように農業法が変えられ、生産者価格が引き下げられたためであり、またアメリカに本社を置く多国籍企業、輸出商社などに大儲けの自由を与え、農家の作った商品を生産コストより安い値段で買いたたき、世界中にダンピング輸出しているからです。 とくに綿花、トウモロコシ、小麦などは、生産コストより二五〜三〇%安くなっています。ところが、スーパーマーケットに並ぶ食料品の価格は逆に値上がりし、アメリカの全人口のうち三千万人は、収入が低いために食べ物も買うこともできないという生活を強いられ、その半分が子どもたちです。 GMO作物に農民、市民、消費者らが反対こうしたことが起こっている理由の一つは、アメリカで食料の加工と流通 をほんの一握りの大企業が独占しているからです。農家が危機に直面し、食料危機が進むなかで、一方、消費者は安全な食べ物をほしいと運動しています。 アメリカの工業化された農業は、農家だけでなく、周りの人達にまで危険な生産物を作ってしまう。その象徴が遺伝子組み換え(GMO)作物なのです。いまアメリカ中で消費者、環境保護団体、農家のグループが運動して、GMO作物の流通 の凍結・中止を要求しています。アメリカの連邦議会には、表示義務化を求める法案が出され、十七の州でも義務表示や新たなGMOの流通 ・栽培の中止を求める決議が出ています。 農家も環境への影響を心配して、GMOの種子を植えなくなり、今年の作付けは大幅に減少する予定です。農家にとってGMOは宣伝とは裏腹に収量 は低く、消費者に嫌われて高く買ってもらえない。 追い風をプラス志向へ、状況を変えよういまアメリカでもヨーロッパ、韓国、日本でも農家や消費者は、多くの危険や困難な問題に直面 していますが、同時にこの状況を変えることができるという新たな動きも始まっています。 昨年末、シアトルでは私たちの運動がWTOで新たな貿易交渉の開始を阻止しました。そしてつい二週間前には、生物多様性条約の「バイオ安全議定書」に反対を続けていたアメリカも同意せざるを得ないところに追い込みました。 いま風は私たちに向かって吹いています。この追い風を私たちにとってさらにプラスの方向にしていこうではありませんか。 グローバリゼーションということがいわれていますが、これは世界中を競争にまきこみ、強いものだけが勝利するという考え方です。 これにたいして「グローバリズム」――みんなが協力して家族や地域、国、地球を良くしていくという考え方が広がっています。シアトルで見たデモ行進はこの二つの理念の衝突でした。先週、バンコクで開かれた国連貿易開発会議でも、二つの考え方の衝突がありました。このシンポジウムがプラスの未来につながる対話になることを願っています。
(新聞「農民」2000.3.6付)
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[2000年3月]
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