「農民」記事データベース20240304-1591-08

農業基本法改定案を斬る

食料自給率向上切り捨て、
日本農業再生の展望なし
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この道は飢餓への道

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(3)日本農業の生き残りは輸出で稼げ

 改定案は、基本理念で「国民に対する食料の安定的な供給に当たっては、国内への食料の供給に加え、海外への輸出を図ることで、農業及び食品産業の発展を通じた食料の供給能力の維持が図られなければならない」とし、新設22条で農産物の輸出の促進に血道をあげることを表明。

 財政制度審議会は2022年11月、「農林水産業の国際競争力を強化し、輸出拡大を図ることは、『稼ぐ農業』の実現につながるとともに、食料の安定供給の確保にも資する」と宣言。

 いざという時は、輸出農産物を食べればいいという考えです。

 政府は「農林水産物輸出1兆円突破」と騒いでいますが、輸入農産物の総額は13兆円とケタ違い。いざという時に対応できるはずがありません。

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(4)農家の姿がないロボット農業

 今後20年間で、農業の担い手は約4分の1(120万人→30万人)に減少し、食料の安定供給を確保できないと言いながら、これには全く危機感なし。代わりにロボットやドローン、AI(人工知能)を使って「生産性」を上げる「スマート農業」(ロボット農業)で解決できるとして、改定案では新たな条項を3条も追加し(30条=先端的技術の活用による生産性向上、20条、29条)、まるで「魔法のつえ」のように持ち上げています。

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 さらに、6条にわたって、「みどりの食料システム戦略」推進を事細かに盛り込んでいます。ゲノム編集技術やRNA農薬など有機農業の本質を損ない、多国籍企業とその先端技術で食料を確保しようというのです。

 新設31条は「農産物の付加価値向上」の名の下に、「高い品質を有する品種の導入」や「植物の新品種」「家畜の遺伝資源」「知的財産権の保護」など、遺伝子組み換え・ゲノム編集などフードテックやアグリビジネスへの全面支援のオンパレードです。まるでアグリビジネス推進法です。


(5)価格保障・所得補償・価格転嫁もない

 現行法は旧農業基本法の価格保障(価格政策)を廃止し、市場原理主義にもとづく「合理的な価格」を押しつけたため、米をはじめ農産物価格は低迷してきました。

 改定案では「食料の持続的な供給に要する合理的な費用が考慮される」(2条、23条)ようにするため、消費者・業界の「理解促進」のPR、「合理的な費用の明確化」に努めるだけ。「所得補償」「価格転嫁」については一言も触れていません。


(6)食料支援も民間のフードバンクまかせ

 子ども食堂が9131カ所に激増し、国連が日本を貧困による飢餓・食料不安国に認定しています。一方、東京では23区すべてが学校給食無償化するなど国や自治体が関与する食料支援の波が高まっています。

 ところが、改定案の食料支援は新設19条で「食料の寄附が円滑に行われるための環境整備」だけ。国が支援する気は全くありません。

 農民連は「食べたくても食べられない」人々の増加、物価高騰を直視し、価格保障+価格転嫁+直接所得補償+公共調達の4点セットを提起しています。公共調達・政府買入でフードバンク・学校給食などに食料支援を実施しているアメリカやEU、韓国などに比べてまるで時代遅れの寝ぼけた対策です。

(新聞「農民」2024.3.4付)
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2024年3月

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