「農民」記事データベース20240304-1591-07

農業基本法改定案を斬る

食料自給率向上切り捨て、
日本農業再生の展望なし
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この道は飢餓への道

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 政府が国会に提出する食料・農業・農村基本法の改正案が明らかになりました。岸田首相が施政方針で「農政を抜本的に見直す」と表明した通り、現行基本法を事実上廃止して、国民が望む食料自給率の向上を切り捨て、アグリビジネス推進のための新法に置き換える内容です。


(1)食料自給率向上の放棄

 政府の基本法改定の最大のねらいは、政府の責任で食料自給率を向上させるという概念を消し去ることです。

 現行法が制定された23年前は、WTO(世界貿易機関)協定の強行や米の完全自由化反対、国内農業を守れの大きな世論が盛り上がり、そのたたかいが国会論戦に反映し「食料自給率の目標」を基本計画に定め、さらに「自給率目標の向上を図ること」が条文に追加されました。

 改定案では、食料自給率目標を食料安保目標に変質させ、自給率向上の放棄・骨抜きをねらっています。

 「食料自給率目標」を「食料安保目標」(自給率その他の食料安全保障確保に関する事項の目標)に変え、自給率を他の指標の一つに格下げして副次的な扱いにしています。国民の大きな不安である異常な低自給率をうやむやにし、隠してしまう意図が見え見えです。

 そのうえ、「国内の農業生産及び食料消費に関する指針」の「指針」を削除することで規範性を弱め、自給率向上を有名無実化するものです。

 さらに自給率向上のために政府がとるべき施策の国会への提出を廃止し、インターネットなどで公表するだけに。

 農民連は、自給率目標の達成度の検証、その結果にもとづく政策の見直しを国会に報告・審議することを義務づけるなど政府の法的義務にすることを要求していますが、改定案は真逆です。


食料自給率に関する条文比較

現行法

第15条2

 基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針

 二 食料自給率の目標

 三 (略)

3 前項第二号に掲げる食料自給率の目標は、その向上を図ることを旨とし、国内の農業生産及び食料消費に関する指針として、農業者その他の関係者が取り組むべき課題を明らかにして定めるものとする。

改定案

第17条2

 基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針

 二 食料安全保障の動向に関する事項【新設】

 三 食料自給率その他の食料安全保障の確保に関する事項の目標

 四 (略)

3 前項第三号の目標は、食料自給率の向上その他の食料安全保障の確保に関する事項の改善が図られるよう農業者その他の関係者が取り組むべき課題を明らかにして定めるものとする。


食料安全保障は自己責任

 改定案が使用する「食料安全保障」は、FAO(国連食糧農業機関)のフードセキュリティー(食料保障)概念を意図的に言い換えています。

 FAOは「食料保障」を(1)すべての人が、(2)いかなる時にも、(3)十分で安全かつ栄養ある食料を、(4)物理的、社会的及び経済的にも権利として入手可能であるときに達成できる状況と定義。

 ところが、政府の「食料安全保障」は、「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、一人一人がこれを入手できる状態をいう」と定義し、食料確保(食料安全保障)は国民すべての権利ではなく、一人一人の自己責任としています。


(2)さらに輸入を拡大、相手国の農業輸出を支援

 現行法は、「国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせて」としながら、国内農産物の増産をさぼり輸入拡大を続けてきました。

 改定案は「輸入」を「安定的な輸入」に変更し、新設21条では輸入をさらに増やすため、輸入相手国への投資を促進し、輸出を支援することまで明記しました。さらに24条では有事の輸入拡大を宣言――こんな戦略で未来の農と食の展望が切り開かれるでしょうか。

         □ >>〔次ページ〕

(新聞「農民」2024.3.4付)
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2024年3月

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