「農民」記事データベース20240304-1591-06

日本の種子の未来を考える

農民連、FFPJなどが
オンライン学習会


農民と消費者の権利を守れ

 農民連とOKシードプロジェクト、家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)、日本消費者連盟は2月13日、オンライン学習会「日本のタネの未来を考える〜種苗法改正の背後にあるUPOV(ユポフ)の実態〜」を開き、約180人が参加しました。

 昨年10月4、5の両日、マレーシア・クアラルンプールで「東南アジア地域ワークショップ―植物品種保護、農民の権利&種子セクターの発展―」が開催され、日本から農民連国際部長の岡崎衆史さん、日本消費者連盟国際委員会の廣内かおりさん、OKシードプロジェクト事務局長の印鑰智哉さんが参加しました。

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(左上から時計回りに)印鑰さん、司会の原野好正さん、岡崎さん、マーティンさん、纐纈さん、廣内さん

 育成者権保護か農民の権利か

 日本消費者連盟共同代表のマーティン・フリッドさんが「日本の種子の問題点を一緒に学ぼう」と主催者あいさつ。

 マレーシアの会議に参加した3人が報告。日消連の廣内さんは、マレーシア・ワークショップの概要について話し、3つの市民団体の共催で開催され、農民グループ、消費者グループ、環境団体、青年団体などのほか、東南アジア各国政府の農業・育種関連担当者ら約70人が参加したことを紹介しました。

 ワークショップでは、農民によるタネの保全と利用の循環が人々の生活や環境にとって極めて重要であり、それは国連による条約や宣言文でも認められていることを再確認しました。

 UPOV(植物新品種保護国際同盟)とは、新品種を作った人(または組織)がその種苗を独占する権利である「育成者権」を知的財産権として、世界的に保護・強化するために作られた組織であり、そこでは「育成者権」が「農民の権利」よりも重要視され、種苗の保護を強化した国々の同盟です。1978年に制定され、91年に適用対象が全植物に拡大されました。

 廣内さんは、加盟国は各国の種苗法をUPOVの規定に合うように改定することが要求され、農民や市民の参画、加盟国間の公平性の欠如、各国・地域の事情を考えない画一的なルールを定めていることを批判。

 日本政府主導でUPOV加盟を促進する枠組みである東アジア植物品種保護フォーラムがつくられ、UPOVに加盟していない東南アジア諸国の加盟を促進している実態を告発しました。

 種子の権利保護は世界の流れ

 農民連の岡崎さんは、「農民の種子の権利が世界の流れ!」のテーマで報告。国際法のなかで農民の種子の権利が人権や環境(生物多様性)保護の宣言・条約が合流することによって発展してきたことを強調。生物多様性条約は、生物多様性に富む南の国が多国籍企業による搾取に対抗して遺伝資源(種苗など)を守る取り決めであり、遺伝資源は国・コミュニティーに属するものだという背景があると述べました。

 また、食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGR)のなかでも「食料及び農業のための植物遺伝資源の保全、改良及び提供について世界の全ての地域の農民、特に、起原の中心にいる農民及び多様性の中心にいる農民が過去、現在及び将来において行う貢献が、農民の権利の基礎であることを確認」すると定められていると紹介。「締約国は、地域社会及び原住民の社会並びに世界の全ての地域の農民が世界各地における食料生産及び農業生産の基礎となる植物遺伝資源の保全及び開発のために極めて大きな貢献を行って」いることをうたっていると述べました。

 さらに、先住民族の権利宣言をはじめ、女性差別撤廃条約でも「土地、水、種子、森林を含む天然資源及び漁業に対する農山漁村女性の権利は基本的人権であると考える」としていることを説明。こうした流れのなかで、「小農の権利宣言」が定められ、賛同国も広がっていることを強調しました。

 国連事務総長は「UPOV1991の条項から小規模農家にもたらされる圧力がある。種子管理システムへの制限は、生物多様性の喪失につながり、さらには小規模農家の生活を損ない、将来の食料供給のためにわれわれすべてが依拠する遺伝的基盤を弱体化させうる」と警告していると述べました。

 さらに国連食料への権利特別報告者のマイケル・ファクリ氏は人権理事会への報告で、農民の種子システムについて「遺伝子と文化の多様性にとって不可分であり、すべての食料システムの基礎をなす」と述べていることを示し、一方で、商業種子システムについては、「所有権と契約法に囲まれ、化学物質の使用に依拠し、均質的な品種の再生産に専念する」と規定していることを訴えました。

 最後に、ファクリ氏が「加盟国は、国内法が次のことを保障するようにしなければならない」と述べ、そのために、「(1)農民の権利が人権であることを認めること、(2)農民の権利を、その国の種子システムの最も重要な側面とすること、(3)加盟国は、食料・農業遺伝資源条約及び、社会権規約、女性差別撤廃条約、先住民族の権利宣言、小農の権利宣言などの法律に明示されている人権法を、国内種子制度の基盤にしなければならない」と報告していることを紹介しました。

 戦時食料安保法許さず廃案に

 OKシードの印鑰さんは、「UPOVと種子法廃止・種苗法改正、日本とアジアの食料危機」と題して報告。

 種苗企業の新品種の独占権を定めた育成者権と、種苗を生んだ立役者であり主役の農民の権利との両立は世界で必要とされていると指摘。一方で、日本の農水省は、日本の農産物を世界に輸出する一方で、パートナー国以外からの日本への輸出はストップするなど「ブレーキとアクセルを一緒に踏む政策をとっている」と批判。

 日本が1998年にUPOV91を批准して以降、年々外国企業による品種登録が増え、外国勢による種苗登録は公的機関(国・地方自治体)による品種登録をすでに上回る勢いであること、種子法廃止、種苗法改定は公的種苗事業民営化の最終局面だと力説しました。

 こうして新品種の国内登録出願数が減り続けた(図)結果、「タネが採れない国」になり、日本国内での野菜のタネ採りの畑の面積は著しく減少。日本種子企業のタネの海外生産、タネの海外依存が決定的になり、「海外からのタネが止まれば米とイモなどを除けば生産困難、食料危機に陥る。このままでは飢餓社会になる」と警鐘を鳴らしました。

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 さらに今通常国会で、不測時(=戦時)に生産者に生産を強制する法案、戦時食料安保法案が「食料・農業・農村基本法」改定案などとセットで上程される予定であり、国内での種苗・食料自給率を上げることは放棄して、海外依存を優先させるものだと批判。「種子主権・食料主権を奪う食料安保法案は廃案にしよう」と呼びかけました。

 最後に、日本消費者連盟事務局長の纐纈美千世さんが「アジアの仲間たちとつながって農民と消費者の権利を守り、地域でもっと問題点を知らせよう」と結びました。


 訂正 2月26日付2面「ヤバイ! 岸田政権の新農業基本法案」の表で「小麦・大豆・飼料の国産供給熱量」とあるのを「小麦・大豆・飼料などの国産供給熱量」に訂正します。

(新聞「農民」2024.3.4付)
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2024年3月

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