「農民」記事データベース20230515-1552-02

G7は、世界の食料安全保障や
農業開発に悪影響を与えている

小農民、農業ジャーナリストAMネット代表理事
松平尚也さん
寄稿

関連/食と農の危機打開はアグロエコロジーで!
  /G7は、世界の食料安全保障や農業開発に悪影響を与えている


画像  G7の問題は、世界の食料安全保障政策や農業開発に悪影響を与えている点です。

 21世紀に入り繰り返し起こる食料危機に対して、G7や国際機関は、食料生産の危機を強調し巨額の資金投入により工業的な大規模農業をトップダウンで推進してきました。そこでは小規模農民を多国籍企業主導のグローバル市場に組み込む動きが加速する一方で、小規模農民の課題に向きあわず逆に飢餓や貧困を拡大させていることが批判されてきました。

 宮崎市で開かれたG7農相会合(以下、農相会合)は、共同声明と行動計画「宮崎アクション」を採択し閉幕しました。しかしその中身は、あくまで自由貿易堅持であり、新自由主義的グローバリズムの負の影響が顧みられることはありませんでした。

 農相会合には、1・4億円の予算が投入され、その多くが広報・PR事業費に充てられました。しかしその注目度は、国内外でとても低く、メディアでもほとんど取り上げられませんでした。その理由の一つには農相会合の開催回数の少なさがあります。直近14回のサミットにおいて農相会合はわずか4回しか開催されておらず、恒常的な取り組みとなっていないのです。

 言葉の“簒奪(さんだつ)”に徹底的な抵抗を

 農相会合のきっかけは、2008年北海道洞爺湖サミットで採択された世界の食料安全保障に関するG8首脳声明でした。翌09年にイタリア・ラクイラサミットの関係閣僚会合として、初めて農業大臣会合を開催。

 また15年のG7エルマウサミットでは、G7食料安全保障声明において「2030年までに5億人を飢餓と栄養不良から救い出す」という大きな目標が設定されました。声明を受けて2回目の農相会合が16年に新潟、3回目が17年にイタリアのベルガモで開催されました。4回目は、ウクライナ危機を契機にドイツのシュツットガルトで昨年開催されています。

 これまでの農相会合声明を読んで疑問に思うのは、その内容が世界の食料安全保障の課題解決を標ぼうする一方で、各国の農業政策の寄せ集めに終始している点です。

 注意が必要なのは、昨年と今年の声明にアグロエコロジーという文言が入っている点です。そこでは、持続可能な農業の推進を、アグロエコロジーを含むあらゆるイノベーションを利用し推進することが表明されています。しかしアグロエコロジーは、農民がその主権を求めてボトムアップで構築してきた実践であり、G7のようなトップダウンの発想とは真逆にある考え方です。こうした言葉の簒奪(さんだつ)に対しては徹底的に抵抗する必要があります。

食料への投機やめ、食料主権の強化を

 一方で国際機関を巻き込み世界の農業開発に影響を与えるG7の食料安全保障政策においては、エルマウサミットで設定した目標達成のために毎年作業部会が開催され、その進ちょくが確認されています。

 同作業部会は、G7サミットの食料安保に関する声明の策定も担当しています。G7広島サミットでも食料安保声明案が出される予定で、2023年に入ってすでに3回の作業部会が外務省主催で開催されましたが、議論の内容は全く公開されていません。

 私たちは改めてG7加盟国の市民・農民として、G7の問題の本質を捉える必要があります。そこについては昨年のG7サミット時に、国際農民組織ビア・カンペシーナが出した「食料危機から食料主権に向かうための提案」が指針となるため、ここでその要点をまとめます。

 (1)食料への投機をやめて公正な取引原則を構築すること

 (2)公正な農産物貿易のための新しい国際機関の創設。新自由主義を推進するWTO(世界貿易機関)の解体

 (3)食料主権に基づいた農民的農業の強化とアグロエコロジーへの抜本的な転換

 G7広島サミットまで数週間を切りました。残された時間は少ないですが、今必要なのは、右記の指針も参照して世界の食料・農業政策に悪影響を与えるG7の食料安保の声明の問題点を明らかにし、具体的な行動を検討していくことと言えるでしょう。

(新聞「農民」2023.5.15付)
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2023年5月

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