「農民」記事データベース20230213-1540-09

農民連のアグロエコロジー宣言(案)
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2023年1月
農民運動全国連合会

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2 輸出志向と「工業」的有機農業の大規模化、「みどりの食料システム戦略」

 22年4月に「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」(通称、みどりの食料システム戦略法)が成立しました。内容は、国が「みどり戦略」の推進基本方針を策定し、県・市町村が基本計画を策定する、基本計画に基づき農家や地域を認定し、認定した農家・地域を金融・税制、補助金で支援するという新たな「担い手の差別・選別」政策です。

 「みどりの食料システム戦略」は、2050年までに農林水産業でのCO2排出ゼロを実現するため、「化学農薬の50%削減、化学肥料の30%削減、有機農業面積を100万ヘクタール(全農地の25%)に拡大」を掲げています。

 しかし、中身は遺伝子組み換え技術やゲノム編集を使ったRNA農薬(遺伝子操作によって害虫や病原菌の遺伝子に変化を引き起こす農薬)、スーパー品種の開発、巨大デジタル産業を軸とする無人操舵(そうだ)のトラクターやコンバイン、ドローン駆使など農民不在の工業的スマート農業です。世界で使用禁止が広がるネオニコチノイド系農薬を2040年までは使い続ける宣言とも言えます。有機農業の面積目標も低く、耕地面積の4分の1をめざすにすぎません(図4)。

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 「みどりの食料システム戦略」は、有機農産物の輸出で生き残る担い手だけに重点投資し、30年先に有機栽培が100万ヘクタールもあれば十分、あとの農地は「野となれ山となれ」、国民の食料は輸入で賄えばよいというのが本音だといわざるをえません。

 いま求められているのは、国内外の有機農業の豊富な実践を検証・普及し、家族農業経営や新規就農者に手厚い支援を行うことです。そうすれば、有機農業の面積も、その担い手も飛躍的に広がるでしょう。

3 農村・地域の生活・経営基盤を再建する道、アグロエコロジー

 有機農業とは、有機物をしっかり土壌に入れて土づくりをし、土の力と生態系の力を生かして、化学肥料や農薬にあまり頼らなくてもよい育て方をし、食料を生産することです。アグロエコロジーは、農民がそのような農畜産業を営むための社会経済体制や政治を作り出す運動であり実践です。

 農民連は結成以来「ものを作ってこそ農民」というスローガンを掲げてきました。全国の多くの仲間の数多くのものづくりの実践を尊重し、学び合いながら社会を変える運動を進めていきます。

 (1)アグロエコロジーとは

 ●アグロエコロジーは自然の生態系を活用した農業を軸に、地域を豊かにし、環境も社会も持続可能にするための食と農の現状を変革する方針であり、実践です。循環型地域づくり、多様性ある公正な社会づくりと民主的な意思決定をめざす運動です。

 ●アグロエコロジーは、化学肥料や農薬に対する考え方で農民に「分断」や「対立」を持ち込むものではありません。生態系の能力を引き出す科学であり、土も作物も強くなり、慣行農法に取り入れ、コストや品質を改善することは可能です。大手農薬・肥料メーカー、種苗会社、国際的な穀物メジャーとの決別はあっても、農民同士の対立はありません。

 ●アグロエコロジーは、原則であって、特定の農法を指すものでも、特定の農法を押し付けるものでもありません。100の地域があれば100の異なるアグロエコロジーの実践方法があります。地域資源の循環的な活用や地域ごとの複雑な生態系を生かす方法はその土地によって異なります。技術論にわい小化することなく、原則を学び、自分の頭で自分の地域に合ったアグロエコロジーを探求します。

 ●アグロエコロジーは、慣行農法から化学肥料や農薬を使わないというだけのものではありません。慣行農法の単純な否定ではなく、現在よりさらに農民の利益を増やし、未来世代に豊かな生態系を残していける持続可能な農業を、仲間で探求し「農民から農民へ」の水平的な拡大をめざす社会運動です。

 ●アグロエコロジーは、日本の農政や食料システム・環境政策を変えていく運動です。農民の生活や営農への支援、政策決定への参加を後押しすることで社会的公正を実現し、環境にも社会にもやさしい食と農のあり方を進めていきます。

 (2)日本農業の伝統知を引き継ぐ

 日本の伝統的な農業は本来「土づくり」を基本に据え、その上に各地の条件や工夫によって多様な農業・農法が発展してきました。

 土づくりとは、健全な微生物、細菌を含む生態系が生きている腐食の多い土壌を作ることです。稲・麦ワラ、野草と家畜糞(ふん)などの有機物を腐熟させ、植物堆肥と動物由来の厩(きゅう)肥を組み合わせた堆厩肥を毎年耕地に還元し、微生物の力を使って作物を育て、同時に地力を維持してきました。

 水田の二毛作が可能なところでは麦やナタネを輪作し、畑では麦・大豆・雑穀が生産されてきました。しかし、安い外国産の麦や大豆が大量に輸入される中で、伝統的な「農民の知恵」は失われようとしています。

 さらに、米をはじめ農産物価格が低迷し、再生産が不可能な価格が続く中で、水田への堆肥の投入量はこの36年で約4分の1に激減するなど、地力の低下が進んでいます(図5)。畑や果樹園は、窒素・リン酸・カリ中心の画一的な施肥により土壌の栄養バランスが乱れ、微量要素欠乏など連作障害・病気が発生しています。

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 農薬や化学肥料の多投、化石エネルギーなど外部資材投入、高収量品種(商業的種子)の導入、単一栽培(モノカルチャー)を見直す時期に来ています。

 (3)アグロエコロジーを進めるうえでの大事な原則

 どの農民の生産も尊重されるべきです。現在の日本で農畜産業を続けていること自体、高く評価されなければなりません。

 みんなで歩むために農民を「技術」で分断させないことが大原則です。

 同時に、「ゆるさ」も大切にして、過渡期の様々な形態や農家の努力・工夫も評価しながら、全体として日本農業がアグロエコロジーに変身していくことをめざします。

 アグロエコロジーの実践では、「輪作」「混作」「里山」「被覆植物」「有畜複合」などの考え方が欠かせません。

 「輪作」は、水田の田畑輪換では雑草を減らす役割があり、畑地の輪作は肥料分の有効活用や地力回復、連作障害回避に役立ちます。「混作」はおとり作物(バンカープランツ)や共栄作物(コンパニオンプランツ)など植物の組み合わせで害虫被害を軽減防除します。「里山」(森林を活用した農業、アグロフォレストリー)は、耕作地だけでなく、まわりの里山の資源を有効活用します。「被覆植物」(カバークロップ)や緑肥・ワラなどによる覆いは土壌流失を防ぎ、微生物の多様性にもつながります。「有畜複合」(耕畜連携)による動物性の堆厩肥の土壌への還元や「アニマルウェルフェア」(家畜に痛みやストレスを与えない飼養方法)への漸進的移行を進めます。

 大事なことは農民が経営的にも技術的にも取り組めるところから、小規模でも取り組んでみることです。すでに取り組まれている地域の共同草刈りや春先の土手焼き、特定外来種の駆除、水路や農道の保全管理などは、持続可能な地域農業と生態系を守るための大事な活動です。同時に、善意であっても排他的に「○○農法でなければ」と特定農法を押し付けるのは、農民の前向きの生産行動にブレーキをかけることになります。

 アグロエコロジーへの過渡期の形態も多様な段階や展開があります。

 農薬や化学肥料などを段階的に「減らす」 害虫の発生をよく観察し、損害の許容レベルを超えたとき、農薬や害虫忌避剤を使用します。農民の減農薬の努力に共通するのは、ほ場や作物の観察が実によくされていることです。播種や作付け時期の変更・作物の組み合わせや作型の変更など、できるだけ農薬を使わない方法を探求します。

 投入資材を「代替」する 化学肥料の使用を中止し、市販の有機堆肥、生物由来のものや地域資源を有効活用します。ただし、市販の有機肥料は大規模な工業的畜産(メガファーム)の存在や遺伝子組み換えナタネなどの輸入原料が前提になっています。畜産農家とアニマルウェルフェアに共同して取り組みを進めることが大切です。

 「新しい体系」の確立をはかる 収量が安定し害虫の異常発生や病気が減り生態系が安定に至るまでには一定の期間を要します。その期間は作る作物、土壌条件やほ場まわりの地域環境により大きく異なります。さらに、近年の高温や長雨、遅霜など異常気象が作物の栽培や地域の生態系を不安定にしています。

 このように、農業はもともとかなり複雑な様々な条件で成り立っています。だからこそ、地域の仲間とともに「田まわり」などの取り組みで組織的に学び合い、探求することがどうしても必要です。

 (4)日本農業を立て直す合意の形成――参加型認証の可能性

 日本の「有機JAS」は第三者認証です。認証の公正性を担保するため、認証機関は個別農家への指導・助言は禁止されています。また「有機JAS」認証によって農産物の「差別化」をはかり販路拡大をねらうことから、農民同士の技術交流はなく「個人主義的」にならざるをえません。このことも有機農業の普及の障害の一つです。

 アグロエコロジーは、世界で広がる「参加型認証」(PGS)を推進しています。

 小規模・家族農業、消費者が参加できる認証制度であり、消費者と生産者を分断しない参加型認証は、輸入依存から国内産消費へ転換し、日本農業を立て直す道への国民合意を作り上げるうえでも大きな意義を持っています。

4 日本の農と食の再生の輪を広げるアグロエコロジー

 アグロエコロジーは、人も地域の生態系の中の一つの生き物として暮らし、生態系の力を借りて農畜産業をすることで、命の連鎖として「いただく」食べ物の意義を認識し、環境を破壊せず、人としての持続性・永続性を確保することが本来の目的です。

 外国産の農産物輸入は日本の生態系や環境を保全しないばかりか、私たちに大量のフードロス(十分食べられる食品が廃棄されること)を作り出す浪費型食生活を押しつけています。

 学校給食の現場でも、小麦は国産40・2%(地場産14・2%)、大豆は国産69・5%(地場産29%)となっています。公共調達は外国から輸入したものを使わず、まず国産を、さらに地元での生産を増やし供給することが大事です。

 新自由主義政策は貧困と格差を拡大し、日本でも「食べたくても食べられない」人々を大量に生み出しました。貧困に苦しむ人々こそ、安全で安心な食材が必要です。誰一人取り残さずジェンダー平等にもとづいて、すべての人が心も身体も健康に生きていくために必要な食料を自らの手で得られる「食への権利」の実現と、国民の食のあり方は外国に支配されない「食料主権」を実現していく道がアグロエコロジーです。

 アグロエコロジーへの転換は農民だけではできません。国民の食料を外国に依存し続ける農政を大もとから変える運動と、アグロエコロジーの運動を共に進める国民運動を大きく広げましょう。

 すでにヨーロッパや南米では政府と国民を巻き込んでアグロエコロジーの実践が進んでおり、日本でも福島大学などがアグロエコロジー講座を開設しています。

 日本の農と食の再生の輪を広げるアグロエコロジーの運動で、未来のために、新しい一歩を直ちに踏み出しましょう。

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(新聞「農民」2023.2.13付)
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2023年2月

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