農民連のアグロエコロジー宣言(案)
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農民連は1月17、18の両日、第25回定期大会を開き、「アグロエコロジー宣言」(案)を提案しました。宣言(案)の全文を紹介します。
農民連第25回定期大会で宣言案を報告する長谷川敏郎会長=1月17日
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現在、人類は気候危機のもと、生態系は大きな打撃を受け、多くの種の絶滅を招き、例外なく私たち人類も「生存か、破滅か」の重大な岐路に立っています。これに戦後最悪の食料危機が追い打ちをかけています。
いまこそ、未来世代の生存のために、工業的農業で失ったもの、破壊したものを再生し、世界で大きく広がるアグロエコロジー(生態系をいかした持続可能な農業)を道標(みちしるべ)に日本農業の在り方を見直そうではありませんか(図1)。
しかし1961年の農業基本法以来、化学肥料と農薬に頼る大規模化一辺倒の大きくゆがんだ政策と農産物輸入自由化の嵐の中で、食料自給率38%にまで落ち込み、生産基盤もぜい弱なものにされました。日本農業の自立的発展の道が閉ざされてきました。
また、有機農業は栽培方法だけの問題ではなく、日本農業の在り方、農業再建の道にも深くかかわると指摘しました。これは、日本の条件に合った科学的な本来の農業をめざす提案であり、アグロエコロジーにつながる先駆的な解明でした。
しかし、政府は国民的議論を経ることなしに、「農林物資の規格化等に関する法律(JAS法)」に基づいて、2000年に「有機農産物・有機加工食品」、2005年に「有機畜産物」の基準を定めました。有機農業は「JAS認証」により、厳格な産業的規格で生産され、正式な認証機関により認証された生産物であることを意味する「表示用語」として展開されてきました。
有機JAS規格の生産原則は、「農業の自然循環機能の維持増進をはかるため、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産されること」とされます。播(は)種・植え付け前2年以上及び栽培中に、原則として化学肥料と農薬は使用しないこと、遺伝子組み換え種苗は使用しないことが主な基準です。これは、安全性や健康への効果の保証や品質基準ではなく、あくまで生産されたほ場が「有機JAS基準」の認証を受けたことを示す表示にすぎません。にもかかわらず、「有機JAS」なら「無農薬・無化学肥料で安全」な農産物という消費者の誤解も生みました。
こうしたことから、「有機農業推進法」(2006年)が別に定められました。同法は、有機農業を「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行う農業」と規定しています。
有機JAS認証は、認証手続きの経済的負担も大きく、栽培面積の拡大は遅々として進んでいません。有機農産物を求める消費者が増えているにもかかわらず、国内の有機農産物の生産技術の普及や支援、流通体制は不十分です。
その一方で、外国「有機農産物」の輸入は増え続け、有機大豆では、国産有機大豆の12・5倍もの大量輸入に道を開いてきました。有機大豆に限らず、そもそも、国産大豆を使った豆腐や納豆などの大豆製品が消費者の手に入りにくいことこそが大問題です。
世界の人口80億人のうち、30億人は健康的な食事がとれず、飢餓人口は約8億人を超えています。世界の食料システムは温室効果ガスの3分の1を排出し、農林漁業は陸と海の生物多様性喪失の7〜8割の原因となっています。エネルギーを浪費する工業型農業、その生産物を世界に流通させるための自由貿易制度、巨大なアグリビジネス(農業・食品関連企業)が支配する権力構造を換えなければなりません。世界の小規模・家族農業は、世界全体の土地・水・化石燃料の25%を用いて食料の70%を生産しています。逆に、大規模の工業型農業は75%を使い食料の30%しか生産していません。
国連は事態を打開するため、2019年から28年を国連「家族農業の10年」に定め、さらに「農民の権利宣言」を採択しました。
しかし、巨大アグリビジネスは21年9月の「国連食料システムサミット」で、巨大デジタル企業と結び、(1)農家から種子、生産技術データを略奪する、(2)食料生産をハイテク化して農民を追い出し、土地を収奪する、(3)遺伝子組み換えとゲノム編集の「合成食品」、「培養肉」を推進して、食と農の支配をさらに強化しようと企てています。
これは持続可能な農業と逆行し、地球の生態系をさらに混乱させるものです。
多国籍企業の食と農の支配に対抗して、国際農民組織ビア・カンペシーナと農民連は、自由貿易体制の転換、食料主権や農民の土地・種子・生産資材への権利などを保障する「農民の権利宣言」の実施、アグロエコロジーに向けた転換への支援、生産費を支える公正な価格を保障する公共政策、平等と尊敬に基づく新たなジェンダー関係の構築を求めています。
日本の輸入依存政策、これまでの「お金を出せばいくらでも買える」時代は終わりを告げ、国内農業の増産が緊急の課題になっています。
食料の輸入だけでなく、種子、飼料、肥料、資材を海外に依存し、異常な円安も加わり、農業経営の存続の危機と食料生産のぜい弱性が浮き彫りになっています(図2)。
農業生産に必要なものもないとなれば、38%の自給率さえ「砂上の楼閣」のように簡単に崩れる=食料危機が現実になろうとしています。農民の減少は、この20年で基幹的農業従事者が100万人消え、65歳以下は41・4万人だけです。また、生産基盤である農地の減少は最高時(1961年)に比べ200万ヘクタール減少し3分の2になっています。
ぜい弱な食料生産基盤は、経営と技術に様々なゆがみをもたらしました。1961年に定められた「農業基本法」はアメリカからの膨大な輸入農産物を前提にした選択的拡大を農民に強要し、規模拡大と効率主義を柱に、小品目大量生産(モノカルチャー)、連作障害、化学肥料・農薬の多用、輸入飼料に依存する畜産など農業生産のあらゆる分野にゆがみを広げました。さらに1999年に制定された「食料・農業・農村基本法」は、新自由主義政策で農村と農業の破壊を加速させました。
ねらいは「水田における『転作』ではなく、水田を畑地化し、水田活用交付金の交付対象から卒業」させ、目先の財政負担を減らすためだけの近視眼的・場当たり的なものです(財政審議会、令和5年度予算建議)。水田の喪失にとどまらず、耕作放棄地の増大につながります。
国土の7割を山地が占め、国民一人当たりの農地面積は3・7アールしかない日本で、太陽エネルギーの変換率が高い水田はアジアモンスーン地帯の持続可能な農業の要として重要です。40万キロの用水路が毛細血管のように張り巡らされ、国土の7割を占める中山間地の棚田は洪水防止・調節、水源かん養などの役割を果たしています。畦畔面積は14万3000ヘクタール(2009年)におよび、単純に幅2メートルとして、72万キロ、地球18周分にもなります。
水田と里山は、農民の共同の労苦により作られた多様で豊かな生態系として将来に引き継ぐべき貴重な財産です。水田を水田として存続し穀物自給率を向上させることを提案します。
転作の飼料用米を家畜飼料として利用し、いつでも主食用に転換できる態勢をとり、日本型畜産(日本の風土条件にあった飼料基盤に基づく畜産)を振興します。米・麦・大豆の輪作体系を確立すれば、連作障害を回避できるなど大きな効果が期待できます。事実、農水省の試算(22年11月「飼料用米をめぐる情勢について」)では、飼料用米の利用可能量は450万トンから1128万トンにも達し、輸入飼料用トウモロコシの4割〜9割を代替できるとしています(図3)。
[2023年2月]
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