転作のハシゴ外す
水田活用交付金の見直し
JAや農家の経営に大打撃
農水省は来年度からの「水田活用の直接支払交付金」見直しを発表しました。この見直しで多くの農家が受給対象から外れる恐れがあります。
畔や水路がなく水張りができない水田や2022〜26年の5年間で1度も米を作らなかった水田を、交付金の対象から外す内容で、現場の農家や農協で混乱が広がっています。
大規模な生産調整を転作で進めてきた北海道では、道北のJA北ひびきが38億円の影響が出ると試算(12月9日付北海道新聞)しています。
農協職員からは「耕作面積が30ヘクタール、50ヘクタールの農家にとって、5年以内と言われても対応できません。見直しが進めば、交付金がなくなり収入減で、農業の継続がむずかしくなります」と懸念の声が上がっています。
国策に沿い営農 農地集積に協力
当別町の堀等さん(62)は、約32ヘクタールの水田の全面積で小麦を作っています。「このままでは交付対象から外され、3割の大減収になる。米を作れと言われても、水路や畔の整備が必要で、机上の議論のように簡単にできるものではない」
「米が余っているからと、国の言う転作で生産調整に協力し、農地集積せよと言われて、畔がない農地も借りて耕作をしてきた。国は転作政策をすすめておいて、いまさら何を言い出すのか」と憤慨します。
気候に合わせて8割がソバ転作
道北の幌加内町は、雪の降り始めが早く、根雪の期間が長いため、大豆や小麦ではなく、気候に合ったそばの転作が定着しています。同町で13ヘクタールのソバを転作で生産している中川秀雄さん(71)は「町の約8割がソバに転作している。畔や用水路など整備はしてあり、一部は可能だが、長年の転作で、田んぼに戻すことは簡単にはいかない。給付対象から外れると3割ほどの減収になる」と町全体への大きな影響を心配。「米価安定のためと、農家の努力で転作を進めてきたが、助成がなくなれば、生産調整自体が大変なことになるのではないか」と懸念しています。
土地改良区も維持が困難に
北海道一のトマト産地の平取町は、中山間地域です。「山に囲まれた川沿いの農地で米づくりの歴史は古く、近年シカの食害被害で大豆は不向きで、麦も収穫時期に雨が多くて向かない」と語るのは鈴木修二さん(74)です。平取町では畜産農家に牧草をつくってもらい水田の維持管理をお願いしている農家が多く、鈴木さんもトマトづくりが忙しいため4ヘクタールの水田を管理してもらっています。
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牧草地に転作した田んぼ(平取町) |
「地域の農家は、土地改良区の負担金を、水田交付金を使って負担している。今回の見直しで牧草の交付金が減額され、ましてや交付対象から外れてしまえば、その負担も難しくなる。地域の土地改良区では7キロメートルの水路の改修事業を計画しているが、これも不可能だ。維持経費で年間250万円かかっているが、この維持も難しくなってしまう」と地域の農業施設の維持への影響を懸念しています。
「毎年のように冷害にさらされ、借金を重ねながらも苦労して米を作ってきた。国が転作しろと言うから泣く泣く転作してきたのにこの仕打ちとは」と国の姿勢に憤りを隠せません。
訂正 12月13日付4面「ゲノム編集とは?」の記事で「ゲノム編集技術は、2021年にクリスパー・キャスナイン法が開発されて」とあるのを「ゲノム編集技術は、2012年にクリスパー・キャスナイン法が発表されて」に訂正します。
(新聞「農民」2021.12.20付)
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