「農民」記事データベース20211213-1485-15

水田でのソーラーシェアリングに挑戦して
“半農・半電”で米作り生活6カ月

埼玉農民連副会長
松本慎一さん(埼玉・加須市)
(手記)

関連水田でのソーラーシェアリングに挑戦して
   “半農・半電”で米作り生活6カ月

  /ハイチ大使館へ募金を届ける


 昨年6月に埼玉産直ネットワーク協会で市民出資による太陽光発電所を、今年4月にわが家の水田でソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を建設し、この秋、初めての収穫を迎えました。

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パネル下の稲刈りをする松本さん

 NPOの仲間の訪問がきっかけ

 きっかけは、今から4年前、NPO法人埼玉市民エネルギー協会の仲丸教子さん(元日本共産党白岡町議員)ら3人が、埼玉県加須市の埼玉県農民連東部センターと(農)埼玉産直ネットワーク協会の共同事務所を訪ねてくれたことでした。

 「福島原発事故を見て、危険な原発中心の電力から、太陽光発電など地球にやさしく安全な再生可能エネルギーに変えていきたい。農業生産をしながら発電できるソーラーシェアリングは政府を動かす力になる」と言うのです。

 埼玉農民連でも再エネに注目し、デンマークやドイツなどに視察するなど一定の取り組みはしていましたが、再エネ電力固定価格買取制度(FIT)の価格が毎年引き下げられ、設置意欲を失っていたところでした。

 しかし、仲丸さんたちは「電力の買取価格以上に、設置コストが下がっている」と説明。日ごろから農業資材代の高さに頭を悩ませている私たち農民からすれば、機械代や設備資材が安くなったなどという記憶はついぞなく、太陽光パネルなどの資材価格がわずか7〜8年で半値になったという説明は、「非常識」とすら思うほどの驚きでした。

 そして「これが本当なら、今でも経済メリットがある」と判断し、産直を行っている埼玉産直ネットワーク協会の150坪の遊休地と畑を利用して、太陽光発電を建設することになりました。

 立案に際し、茨城農民連の会員で、2016年から水田でのソーラーシェアリングを実践している渡辺健児さん(筑西市)のほ場を視察。パネル下で飼料稲を栽培する渡辺さんによると、パネル下でも地域の平均収量を上回り、高温障害にも強いとのことで、この視察がソーラーシェアリングに踏み出す大きな一歩となりました。

 市民からの出資も募って、2020年6月に一部を営農型にした太陽光発電が完成し、8月から売電が始まり、この1年間で約100万円の収入となりました。

 水田にパネルを設置、発電開始

 今年2月からは、いよいよわが家の水田でもソーラーシェアリングの建設が始まりました。

 支柱部分は農地転用する必要があり、建設までには書類をそろえるなどの準備に3カ月ほどかかりましたが、加須市の農政課も地元農家の同意の取り方の知恵を貸してくれるなど協力的で、助かりました。

 こうして4月17日に、1500平方メートル、発電設備容量49・5キロワットのパネル設置工事が終了。2日後の19日から発電を開始し、田植えは5月3日という忙しさでしたが、水田では加須市初となる営農型太陽光発電が無事、始まりました。

 工事費は約1600万円でした。自己資金と趣旨に賛同してくれた有志からの出資金が600万円で、残りは銀行融資です。

 売電先は建設当初は東京電力でしたが、埼玉市民エネルギー協会が市民による新電力会社「彩の国でんき」を設立したことから、11月からは売電先をこちらに切り替えました。

 米収量は上出来ほ場温度が低く

 売電が始まってまだ半年余りですが、売電収入はほぼ計画通りで、約9〜10年で出資金や借入金の回収が可能です。当初心配だった発電に関するトラブルも、現在発生していません。

 収益の一部はハイチ大使館に寄付しました(左の記事)

 米の生産については、元農水省技官の井上駿先生の協力のもと、データを収集しています。慣行栽培との収量差は80%(設置前は約7俵半、設置後は6俵半)と、1年目としては上出来とのことでした。特筆すべきは、真夏のほ場温度が2〜7度も低かったことです(詳細は後日、公表予定)。

 未利用資源活用し地域の再生を

 日本は石油などの化石燃料を、毎年約20兆円もかけて、何十年も輸入し続けてきました。しかし水田面積の1%にパネルを設置するだけで原発50基分に相当するとの試算もあります。

 生産者米価が暴落し、国が何ら手を打たない中で、ソーラーシェアリングは地球にやさしいエネルギーを確保でき、農業経営、地域経済の立て直しにも有効な手立てになると確信しています。

(新聞「農民」2021.12.13付)
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2021年12月

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