9月に開催予定
国連食料システムサミット
巨大デジタル企業とアグリビジネスが
世界の食料システム支配を強化
関連/米を守れ!
農家は消え、デジタル農業で
投資家が利益をむさぼる…
国連食料システムサミットが9月に開かれます。日本でも足並みをそろえるように「みどりの食料システム戦略」が動き出していますが、国連サミットが描く未来は何でしょうか。
サミットの目的は、農業生産から加工、流通、消費にいたる食料システムを「より健康的で、公正で、持続可能なものに変革する」ことだというふれこみです。
美辞麗句の陰に
この美辞麗句の陰にあるものを、鈴木宣弘東大教授は次のように指摘しています。
「農家は追い出され、ドローンやセンサーで管理・制御されたデジタル農業で、種子から消費までの儲(もう)けを最大化するビジネスモデルが構築され、それに巨大投資家が投資する姿は絵空事ではなく、現実味を帯びてきている」「国連食料システムサミットは、ビル・ゲイツ氏らが主導して、こうした農業を推進する一環としようとしている」(農業協同組合新聞、21年7月22日)。
この背景にあるのは何か――。
第一は、農薬・化学肥料・種子、食品流通・加工など既存のアグリビジネスに加えて、巨大デジタル企業が農業・食料に乗り出し、巨大企業による農業・食料支配が新しい段階に進んでいることです。
第二は、国連が「家族農業の10年」「農民の権利宣言」を決議し、各国政府が食料主権、アグロエコロジーを支持するなど、世界の食料・農業政策の流れが大きく転換していることです。国連食料システムサミットは、この流れに対する巨大な多国籍企業陣営からの巻き返しです。
世界的な農民組織・ビア・カンペシーナや世界のNGO、科学者は、食と農をめぐる危機をさらに悪化させる国連食料システムサミットの開催に強く反対し、対抗行動を強化しています。(2面)
人間も動物も自然も不在の「未来の農場」
いま、世界のNGOが国連食料システムサミットの「黒幕」として批判しているのが、マイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏などのデジタル富豪です。ゲイツ氏は1995年以降18年間世界一の富豪として君臨し、資産額は13兆円という億万(兆億)長者であり、全米一の農地所有者、モンサントなどアグリビジネスの大株主です。
彼はこんなことを公言しています。
“農業は古臭く、汚く、危険で非効率だ。過去からの農業が気候変動とコロナ・パンデミックのリスクを高めている。人工知能(AI)で農業を変革して農民を追い出し、「未来の農場」を創造したい”“良い食べ物は、単一栽培、農薬と肥料、遺伝子組み換え作物と特許を取得した種子のみからできる”
アメリカの農業研究者は「彼は人々を農場から追い出し、動物を追い出し、私たち全員に彼が100種類の特許を持つ人造肉と虫のタンパク質、遺伝子組み換えラボ(工場)から生み出される合成食品を食べさせたいと思っているのだ」と批判しています。
現にゲイツ財団は、培養されたウジから食用タンパク質を製造する南アフリカの会社に投資し、タイソン・フーズの養鶏場やユニリーバの養魚場に販売しているといいます。また、母乳を分析した「人造母乳」づくりも行っています。
人間も自然も不在の「未来の農場」に対するアメリカの農家の批判は痛烈です。
「再生式農業と牧場は、人間の生活を計り知れないほど豊かにする。良い農業は自然のモデルを理解し、地球との親密な接触に基づいたやりがいのある仕事だ。ゲイツには、農業に参加する喜びも自然の知恵に対する関心もないようだ」(カリフォルニアの牧場主)
グレートリセット
国連食料システムサミットの主な提唱者は、毎年世界の億万長者を集めて人類の政治的・経済的未来の構想を練る世界経済フォーラム(WEF)であり、「慈善資本主義」の権化であるゲイツ財団の資金がたっぷり渡っています。
WEFの昨年からのテーマは「グレートリセット」(新規巻き直し)。コロナ・パンデミックの後に、新しい管理経済を体系的に再構築することがねらいですが、世界的な食料・農業政策を「リセット」するために開かれるのが食料システムサミットです。
その方向は、巨大デジタル企業+アグリビジネスの食料システム支配を強化するために(1)農家から種子、生産技術のデータを略奪し、独占する、(2)食料生産をハイテク化して農民を追い出し、土地を収奪する、(3)遺伝子組み換え・編集と「合成食品」を推進する、(4)政府に圧力をかけ、大企業に有利な政策を導入させるなどです。(図)
――これらは“重労働を緩和し、誰でも農業ができる技術を普及することで、農業のすそ野を広げ、農村に人を呼び込めるようにしたい”という素朴な願いとは全く異なる方向です。
「リセット」すべきは、飢餓を増大させ、気候危機と生態系破壊を進めてきた旧来の食料・農業政策です。地球の未来を絶滅と生態系崩壊に向かわせる国連食料システムサミットを私たちは断固として拒否します。
軽トラパレード
埼玉農民連
「さー、行くぞー!」――埼玉農民連は8月24日、届いたばかりの米価ノボリを軽トラにセットし、春日部市から熊谷市まで、埼玉県内を横断する軽トラパレードを行いました。
(新聞「農民」2021.9.6付)
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