「農民」記事データベース20210412-1452-02

RCEP(アジア包括的経済連携協定)で
野菜と果物が危ない!
(2/2)

「5品目守ったから日本農業に影響はない」
大ウソ

関連/RCEP(アジア包括的経済連携協定)で野菜と果物が危ない!(1/2)
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RCEP 果樹編
果物の自給率はわずか39%

しかし 果物の関税は基本的に撤廃・自由化

 バナナやオレンジ、ジュースの輸入激増によって、果物の自給率はわずか39%。カロリー自給率なみの低さです(図2)。

 RCEPでは、果物は基本的に関税が撤廃され、完全に自由化されます。RCEPが果物に大打撃になることは必至です。

 自由化の例外品目は、バナナ、パイン、オレンジ、りんごジュースぐらい。国別には中国・韓国に対して、りんご、いちご、ぶどうの関税を撤廃しません。

 要警戒 キウイ、りんご

 現実の輸入との関係で、警戒すべきなのはニュージーランド産のキウイとりんごです。みかんからの転作作物としてキウイの生産は伸びており、大障害になります。また、オーストラリア産みかん(マンダリン)、ぶどうの輸入も伸びており、17%の関税撤廃の影響は無視できません(表2)。

 バナナ、パイン以外の熱帯果実――マンゴー、パパイアなどの関税も撤廃され、ASEANからの輸入増のおそれがあります。マンゴー、パパイアなどの全国的な生産拡大の動きに全く逆行するものです。

 輸入急増のジュースは…

 果物の輸入の中で大きな比重を占めるのがジュースと加工品です。その輸入量は248万トンで、国産の生鮮果物246万トンを上回っています。

 中国からの輸入が大部分を占めるりんごジュースは「除外」されたものの、ぶどうジュースやオレンジジュースの関税は、韓国以外は撤廃されます(いずれも関税は25・5%)。中国などがオレンジジュースやぶどうジュースに的を絞る可能性も否定できません。

 しかもTPPでは、RCEPでは除外されたパイン、オレンジ、りんごジュースなど果物の関税を全面的に撤廃します。TPP参加国は、RCEPではなくTPPを使って、日本に輸出拡大を迫ることができるのです。

 RCEP圏、とくに中国は果物の大生産国

 中国は、みかん、柿、梨、キウイ、グレープフルーツなどの生産が世界の50〜75%を占め、屈指の果物大生産国であり、りんご104万トン、梨62万トンなどを輸出する大輸出国です(表2)。

 「中国の国務院はRCEP合意前、輸出用に、品質が高い農産物の生産基地の建設を地方政府に指示した」と報じられており、中国がRCEP発効に向け、撤廃関税品目に照準を当てて輸出戦略を立てる可能性は誰も否定できないといわなければなりません。

 果物にさらに打撃 RCEPに強く反対する

 一方、農水省は「柿や梨はほとんど輸入されていないので、関税を撤廃しても影響はない」「中国産の果物や野菜の多くは、植物防疫上の理由で輸入が制限されている」とタカをくくっています。

 しかし、1960年当時、10万トン足らずだった輸入果物が434万トンに膨れ上がっているのが現実です。野菜も“輸入されるはずはない”という理由で早々と自由化されましたが、現在300万トンにのぼっています。

 「植物防疫上の理由」についても、中国は以前から規制の撤廃を要求しており、事実上の日中FTAであるRCEPのもとで、いつまで現在の方針を貫くことができるのか、不安を抱かざるをえません。

 私たちは、果物にさらに打撃を加えるRCEPに強く反対します。

 政府のホラとゴマカシ

 政府はRCEPで「重要5品目(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖)について、関税削減・撤廃からすべて除外」したと胸を張っています。しかし、もともと米・砂糖以外は、オーストラリア・ニュージーランドを除くRCEP諸国には輸出余力も実績もなく“出番”はありません。また、両国に対しては、TPP11で譲歩済みです。「5品目を守った」というのは大ボラにすぎません。

 さらに野菜・果物についても、国産だけでは不足するものや、国産品と棲(す)み分けができているものを撤廃したと説明しています。その例として、冷凍惣菜やカップラーメン用の乾燥野菜をあげて、いかにも大したことがないかのように描いています。

 しかし、関税が撤廃されるのは、見てきたように、重要な野菜・果物です。RCEPの打撃の深刻さを隠すためのゴマカシは許されません。


RCEPにも、TPPの
拡大・改悪にも、反対する

 RCEPの妥結を震源にして、TPP拡大・改悪や、太平洋自由貿易圏(FTAAP=エフタープ=米・ロ・中・日を含む超巨大FTA)というウルトラFTAを許すのかという課題が急浮上しています。

 菅政権は、RCEP妥結でアメリカを焦らせて同国のTPP復帰をねらい、イギリスや韓国のTPP参加を勧誘しています。一方、中国もTPP参加を表明しています。こうしてTPPは、米中の対立、「グレートブリテン」(イギリスの世界戦略)などの覇権争いの具の様相を呈しています。

 大問題! TPP完全復活、“モンスターTPP”

 アメリカがTPPに復帰する場合、2つの大問題が生じます。

 (1)知的財産(とくに医薬品特許)、ISDS(投資家対国家紛争解決)など、TPPからTPP11への移行に際して「凍結」された最悪の問題条項の「解凍」が必要になりますが、「解凍」された場合、最悪のFTAであるTPPが完全復活することを意味します。

 (2)バイデン政権がTPPに復帰する場合、「TPPの大幅修正」を要求することが予想されます。その中身は、医薬品特許の延長、農産物――特に米・牛肉・乳製品のさらなる自由化などです。アメリカの要求が通れば、TPPを改悪した“モンスターTPP”にならざるをえません。

 野党連合政権を実現し、総自由化攻撃にストップを

 コロナ危機のもとで、新自由主義と自由貿易からの脱却が求められていますが、菅政権は、これに全く逆行しています。まともな国家・世界ビジョンを示さず、コロナ対策は後手後手、目先の成果を追求するだけの“近視眼”政権が超巨大FTAを推進するのは、狂人が刃物を振り回すようなものです。

 RCEPやTPP拡大を阻止する野党連合政権を誕生させようではありませんか。

(新聞「農民」2021.4.12付)
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2021年4月

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