政府買い入れ行い、人道支援に回せ国民の命と農業生産の両方が守れる
東京大学大学院 教授
発想の転換が必要だ。米は余っているのでなく、実は足りていない側面がある。コロナ禍で米需要が年間22万トンも減って、米余りがひどいから、米を大幅に減産しなくてはいけないというのは間違いである。米は余っているのではなく、コロナ禍による収入減で、「1日1食」に切り詰めるような、米や食料を食べたくても十分に食べられない人たちが増えているということだ。そもそも、日本には、年間所得127万円未満の世帯の割合、相対的貧困率が15・4%で、米国に次いで先進国最悪水準である。 |
米価危機打開3・19緊急中央行動でリモート発言する鈴木教授 |
潜在需要はあるのに、顕在化できない。そして、米在庫が膨れ上がり、生産者米価の下落が加速している。主食用の大幅な減産要請の中で、次に少しでも価格的に有利な備蓄用米の枠を確保するため、JA組織も安値でも入札せざるをえない苦渋の選択を迫られた。こうした状況下で、米農家に支払われるJAの概算金は1俵(60キロ)1万円を切る水準が見えてきている。1万円を下回りかねない低米価が目前にみえてきているのに、政策は手詰まり状態で、事態は放置されている。どんなにがんばっても米の生産コストは1万円以上かかる。このままでは、中小の家族経営どころか、専業的な大規模稲作経営も潰れかねない。
米国では、トランプ大統領(当時)が2020年4月17日、コロナ禍で打撃を受ける国内農家を支援するため、「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)」などに基づき、190億ドル規模の緊急支援策を発表した。このうち160億ドルを農家への直接給付に、30億ドルを食肉・乳製品・野菜などの買い上げに充てた。補助額は原則1農家当たり最大25万ドルとした。農務省は毎月、生鮮食品、乳製品、肉製品をそれぞれ約1億ドルずつ購入し、これらの調達、包装、配給では食品流通大手シスコなどと提携し、買い上げた大量の農畜産物をフードバンクや教会、支援団体に提供した。
そもそも、米国の農業予算の柱の一つは消費者支援、低所得層への食料支援策なのである。米国の農業予算は年間1000億ドル近いが、驚くことに予算の8割近くは「栄養(Nutrition)」、その8割は「Supplemental Nutrition Assistance Program」(SNAP)と呼ばれる低所得者層への補助的栄養支援プログラムに使われている。なぜ、消費者の食料購入支援の政策が、農業政策の中に分類され、しかも64%も占める位置づけになっているのか。この政策の重要なポイントはそこにある。
いや、備蓄米のフードバンクなどへの供給はしているという。しかし、その量は1つのフードバンクにつき年間60キログラム、規模の大きいフードバンクでは1団体が提供する米の1日分にも満たないという。
およそ140団体が受け取っており、全体で100万トン規模の備蓄米のうち、提供量は最大でも10トンに満たないとみられる(ロイター通信、2月9日)。
法律・制度は国民を救うためにあるはずなのに、この国は制度に縛られて国民を苦しめてしまう。東日本大震災のときの復興予算さえ、要件が厳しすぎて現場に届かなかった。財政当局はわざと要件を厳しくして予算が未消化で戻ってくるように仕組んでいるとさえ聞いたが、それでは人間失格であろう。
しかも、日本では家畜の飼料も9割近くが海外依存でまったく足りていない。コロナ禍で不安が高まったが、海外からの物流が止まったら、肉も卵も生産できない。飼料米の増産も不可欠なのである。さらに、海外では米や食料を十分に食べられない人たちが10億人近くもいて、さらに増えている。
某国から言いなりに何兆円もの武器を買い増しするだけが安全保障ではない。食料がなくてオスプレイをかじることはできない。農は国の本なり。食料こそが命を守る、真の安全保障の要である。国民みんなから集めたお金、税金は、国民みんなの命を守るために還元されなくてはならない。
[2021年3月]
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