福島原発事故 生業(なりわい)訴訟
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入廷前に仙台市内をデモ行進する原告団 |
「完全に勝利しました」。仙台高裁前に集まった原告や支持者を前に、原告団長の中島孝さんが「国の責任をはっきりと断罪しました。被害者がどんなに苦しんでいても一切関係ないと言い逃れてきた国を、厳しく追い込んだ判決です」と報告すると、大きな拍手と歓声が上がりました。
全国で約30件にのぼる原発集団訴訟のなかでも、初の高裁判決。仙台高裁は、「国の責任は東電の半分」とした福島地裁判決よりもさらに厳しく、「国も東電と同等の責任がある」とし、対象区域も一審判決よりも広げて会津地方や宮城県丸森町、栃木県那須町なども認め、賠償金額も倍増する判決を下しました。
旗を掲げる農民連会員の樽川和也さん(右)他原告ら |
判決文は、本文だけでも500ページを超えました。それは国の責任をきわめて詳細に検証し、認定したからです。判決文はこう言います。
「保安院(※旧原子力安全・保安院)の対応は、…東電による不誠実ともいえる報告を唯々諾々と受け入れることとなったものであり、規制当局に期待される役割を果たさなかったものといわざるを得ない」
「一般に営利企業たる原子力事業においては、利益を重視するあまり、ややもすれば費用を要する安全対策を怠る方向に向かいがちな傾向が生じることは否定できないから、規制当局としては原子力事業者にそうした傾向が生じていないかを不断に注視しつつ、安全寄りの指導・規制をしていくことが期待されていたというべきであって、上記対応は規制当局の姿勢としては不十分なものであったとの批判を免れない」
判決文では、さらに国の賠償責任の重さについても、「原発の設置・運営は…国家のエネルギー政策に深く関わる問題であり、国が推進政策を採用し、…東電に設置を許可し、許可を維持してきた…このような原発特有の諸事情を含めて総合考慮するならば、国の責任範囲を損害の一部に限定することは、相当でない」と述べています。まさに原発推進政策への警鐘となる判決です。
また、生業訴訟の特徴として、被害の「全体救済」があります。これは「原告だけ救済して」と求めているのでなく、「すべての被害者の救済」と、そのための制度化を求める主張です。国の責任を認めさせることによって、国には被害を救済する義務があることが明確になるもので、この点でも賠償基準を大幅に引き上げた高裁判決は大きな意味を持つ内容でした。
[2020年10月]
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