農民の種子を企業のもうけにするな
|
関連/農民の種子を企業のもうけにするな(1/3) /農民の種子を企業のもうけにするな(2/3) /農民の種子を企業のもうけにするな(3/3) |
しかし2018年に廃止された「主要農作物種子法」(種子法)の廃止と同時に成立した「農業競争力強化支援法」では、国や都道府県などが開発した種子や種子の生産に関する知見を、民間事業者に提供することを明記しており、政府は「民間事業者とは、国内の企業だけではない」と国会で答弁しています。
つまり、海外の企業が入手した「知見」をもとに新たな品種開発を行い、その品種を海外で登録することが、すでに可能になっているのです。
しかも、日本の農家に自家増殖を禁止し、種子の密輸を厳罰化したとしても、すり抜けて持ち出されたものが海外で栽培されるのを、日本の国内法で取り締まることは不可能です。
むしろ今回の種苗法改定は、農民に自家増殖を禁止し、登録品種はすべて購入させることで、種子を企業のビジネスの対象にすることこそが、本当の狙いだといえます。
つまり種苗法改定は、「企業が世界で一番活動しやすい国をつくる」というアベノミクスの一環であり、種子の公共性を企業に売り渡そうとするものなのです。
特に、見栄えや形状をそろえることを重視して開発されたF1品種(一代交雑種。2つ以上の品種を組み合わせた雑種の第一代目のみを品種として利用したもの)が主流の野菜の多くは、次にまく種取りができず、通常は毎年種苗を購入するため、品種登録していないものがほとんどです。
それにもかかわらず野菜類の自家増殖禁止の品目を増やしてきたのは、野菜などF1品種ではない固定種の品種登録を促進するためでもあります。
そして、その新しい登録品種と似たような性質で、未登録の在来種を栽培している農民が、「登録品種を無断で栽培した」と訴えられる可能性があります。裁判で負ければ、最高で懲役10年、罰金1000万円の重罪です。今度の改定案に「育成者権の保護」を目的に、「特許法や知的財産権制度を参考にした、権利侵害の立証手続の改善」を盛り込もうとしているからです。
実際、カナダでは1998年に、50年にわたって有機でナタネを栽培している農民を、モンサント社が「無断でモンサントの種を使用した」と訴える事件が起きました。隣の畑で栽培するモンサント社の遺伝子組み換え(GM)ナタネから花粉が飛び、この有機農家は交雑したことを知らずに、翌年、種として使用して栽培。収穫したナタネをモンサント社が勝手に検査し、GMナタネの遺伝子を確認したことから、モンサント社が裁判に勝ってしまったのです。
これとよく似たことが、今後、在来種や在来種に良く似た品種が品種登録されることで引き起こされる可能性があり、在来種の栽培や、自家増殖(種取り)をやめてしまう萎縮効果につながるおそれがあります。
国際農民組織ビア・カンペシーナは2013年6月に発表した「われわれの種子はわれわれの未来」という声明文で、「種子は1回で誕生したのではなく、誕生後もずっと同じではない。種子は“もの”ではなく、恒常的な再創造の過程にある」と指摘しています。
つまり種子の進化は、農民によって自家増殖が繰り返されることによって、その地域の自然と栽培管理に合うように変化し、それぞれ多様な味や風味が作り上げられてきたのです。
ところが自家増殖を禁止し、種子を購入するようになれば、進化のサイクルは遮断され、種子は企業に握られ、品種の多様性は失われてしまいます。
在来種を保存する神奈川県農業技術センター(平塚市) |
ビア・カンペシーナは、工業型農業は「農民から、貿易の自由化で農産物の生産を奪い、生産にとって欠かせない土地と水を奪い、最後に農民の種子を禁止し、特許を持つ種子産業に置き換えることを狙っている」と指摘し、世界的なたたかいを通じて「農民の権利宣言」を勝ち取りました。
種苗法改定案は、この世界の流れにまったく逆行しており、人類共有の財産である種子を多国籍アグリビジネスに売り渡すものです。
家族農業を守り発展させる世界の運動と合流し、種苗法改定案の廃案を目指して、運動を強めましょう。全国各地に広がる「種子条例制定運動」とも合流し、種子の多様性を守り、生物・遺伝資源を特許化して金もうけの道具にする動きに対し、今こそ力強い「ノー」の声を上げましょう!
[2020年3月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224
Copyright(c)1998-2020, 農民運動全国連合会