「農民」記事データベース20190610-1363-07

国連家族農業の10年・
農民の権利宣言を考える
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国際フォーラムin東京

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世界食料の80%生産する家族農業

 農民連、国際農民組織ビア・カンペシーナ東南・東アジア地域、国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会(全国食健連)は5月25日、東京・明治大学リバティタワーで国際フォーラム「国連家族農業の10年・農民の権利宣言を考える」を開き、350人が集いました。明治大学教職員組合が後援しました。

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各国代表らが勢ぞろいした国際フォーラム

 農民連の笹渡義夫会長が主催者あいさつ。「今日のフォーラムの開催で『国連家族農業の10年』と『農民の権利宣言』が日本の津々浦々、東南・東アジア地域に広がり、民衆の運動でこの地域を変えるスタートの日にしよう」と呼びかけました。

 後援した明大教職員組合の柿崎繁明・執行委員長によるあいさつに続き、FAO(国連食糧農業機関)駐日連絡事務所の三原香恵・リエゾンオフィサーが「世界の飢餓の撲滅、食料安全保障の達成のためにも『10年』と『宣言』で地球上の食料の80%を生産する家族農業がいかに大切かをアピールすることが大事です」と来賓あいさつしました。

 基調報告にヘンリー・トーマス・シマルマタさん(ビア・カンペシーナ・インドネシア農民組合・農民の権利宣言チーム)、関根佳恵・愛知学院大学准教授が立ち、キム・ジョンヨルさん(ビア・カンペシーナ国際調整委員・韓国女性農民会)が特別報告を行いました。

 各国からの発言では、日本の農民連をはじめ、東ティモール、韓国、タイ、インドネシアの代表が報告しました。

 その後、登壇者への質疑応答。最後は、参加者全員による「ビバ! ビア・カンペシーナ」のコールで閉会しました。


宣言が農民と農村社会の
飢餓や貧困とたたかう指針

ヘンリー・トーマス・シマルマタさん
ビア・カンペシーナ「農民の権利宣言チーム」

画像  「農民と農村で働く人々の権利に関する国連宣言」は、各国政府の指導者、各国で実践に当たる人々、そして現場で実践にあたる人々にとっての指針です。

 国連総会は 2018年12月17日、宣言を採択し、正式に国際法の一部となりました。

 まず何よりも、この宣言は、各国政府および農民と農村の運動による飢餓と貧困の問題に取り組む努力が合流したものです。

 「農民の権利宣言」は、次のように国連特別報告者の主張と一致しています。

 (1)国際法に盛り込まれる必要がある、(2)飢餓とのたたかいを強化する、(3)自給的農業が工業的農業に取って代わられないようにするために最良の方法の一つ、(4)農村地域での生産手段へのアクセスを向上させる、(5)宣言の採択は、国際法ですでに認められている権利の認知度を高めるとともに、土地、種子に対する権利、他国において農民に与えられる食料補助金がもたらす損失に対して補償を得る権利など、新たな権利を認めることを後押しする。

 最も重要なのは、「権利宣言」が、農民と農村社会が飢餓や貧困とたたかい、自国の食料・農業政策を決める主役であると認めていることです。

 「宣言」は以下の7つの主要な権利を盛り込んでいます。(1)土地に対する権利(2)種子に対する権利(3)生物多様性に対する権利(4)伝統的知識に対する権利(5)生産手段に対する権利(6)農村女性の権利(7)司法にアクセスする権利。

 これらの権利のすべてが、農民組織、農村社会、政府による飢餓や貧困とたたかうグローバルな取り組みをより意味あるものとする上で決定的に重要です。

 全体として、宣言は、次のことを求めています。

 (1)国による保護と認知、つまり規範の確立、機構、意思決定、国際・各国・地方レベルでの漸進的実現(2)農民組織と農村社会が主役(権利保持者による人権)(3)技術、伝統など地域社会を基盤にした知識の管理(4)国際協力(5)農村危機(飢餓、災害、作物、漁業、農業、林業などを含む生計の破綻)への必要な対応(6)権利宣言の条項を通じた人権規範の確立。


持続可能な食・農の実現へ
中心的存在になる家族農業

関根佳恵さん
愛知学院大学准教授

画像  なぜ今、家族農業なのか。いま私たちは、貧困・格差、飢餓、気候変動、自然資源枯渇など持続可能でない社会のなかにおり、さらに都市化、グローバル化、農業人口の高齢化、食の安全への脅威など持続可能でない食・農の問題を抱えています。

 こうしたもとで、持続可能な社会への移行、その中心にあるのが家族農業なのです。

 家族農業の定義は、国連によれば、家族が経営する農業、林業、漁業・養殖、牧畜であり、男女の家族労働力を主として用いて実施されるものです。また、小規模農業は、家族によって営まれており、家族労働力のみ、または家族労働力を主に用いて、所得の大部分をその労働から稼ぎ出している農業・林業・漁業のことをいいます。

 さらに、規模の大小よりも、家計の維持や農業経営と集落コミュニティーの存続などの経営目標をもつことが求められています。

 家族農業に対置されるものは、営利を第一義的目的とする資本主義的企業農業です。

 世界の農場の9割以上は家族農業で、世界の食料の8割以上を供給しています。家族農業は土地生産性、労働生産性、エネルギーなど効率性を発揮しています。

 農業の価値は、GDP(国内総生産)や貨幣的価値に還元できるものではなく、食料の供給、多面的機能(国土・環境保全、生物多様性、景観、伝統文化・遺産の継承、雇用創出、社会統合・安定化)など命の糧としての役割を担っています。

 従って、社会全体のための「家族農業の10年」と位置づけられ、人類と地球のため、未来世代のための10年ということができます。

 「同10年」の国内での実施体制として、私たちは「家族農林漁業プラットフォームジャパン」(仮)を6月に設立予定です。

 家族農業を日本の農業・食料政策の中心に位置づけ、持続可能な社会の実現を目指しましょう。

 私たちに何ができるか。農業関係者にとっては、国内と世界の運動との連帯・交流が大切です。消費者・市民団体にとっては、食べることを通じて、持続可能な食と農のあり方に影響を及ぼすことが大切です。政府・自治体に対しては、家族農業とアグロエコロジー(環境に配慮した農業)に対する支援と、新自由主義的政策からの脱却を求めましょう。


「権利宣言」と女性農民の
権利拡大の取り組み

キム・ジョンヨルさん
ビア・カンペシーナ国際調整委員・韓国女性農民会(KWPA)

画像  2018年1月に韓国・ソウルで「東南・東アジア地域での女性農民の権利拡大」についての会議が開かれました。9カ国から集い、農民連の代表も参加しました。そこでは各国で女性農民がおかれている困難さが多く出されました。

 世界の食料生産は、女性の労働なしには困難です。それにもかかわらず、女性が置かれている状況は厳しいのが現実です。韓国の統計では、農民の53%が女性です。

 「宣言」の前文は、女性農民の役割を明記しています。それは家族経営や農村とコミュニティーにも貢献していることを示しています。

 「宣言」を各国レベルで普及するためにも、女性団体や人権団体などとの協力と連帯が必要です。また、国の人権機関との協力が必要で、とりわけ女性農民に対する差別の監視が必要です。

 「宣言」を学習するグループを立ち上げ、さまざまな人々に広げていくことが求められています。女性の権利を保障することは、女性だけでなく、若者・移民・子どもたちの権利を保障することにも寄与します。

 農民の権利を確立することは、世界の貧困と飢餓とたたかううえでも大きな役割を果たします。また、安全で健康な食料の確保のためにも必要なことです。

(新聞「農民」2019.6.10付)
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2019年6月

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