「農民」記事データベース20170731-1273-11

都市農業が
守られるかどうかの岐路

生産緑地2022年問題を前に

関連/都市農業が守られるかどうかの岐路
  /生産緑地をめぐる現状と課題を考える

 1992年に市街化区域内農地では、30年間の営農の継続を約束すれば、生産緑地の指定が受けられれ、農地並み課税となる制度が創設されました。2022年は、その30年目にあたり、都市農業が守られるかどうかの岐路になります。生産緑地の22年の更新申請を前に、「相続税対策」などと不動産投資の呼びかけが強まっています。


強まる不動産投資・ローンの呼びかけ

 相続税対策と不動産投資煽る

 今年2月10日付日経新聞は、「不動産融資最高12兆円」「16年15%増、節税アパートなど活況」との見出しで、2015年の相続税「改正」に伴い課税対象が広がったことから、「相続税対策」としての金融機関が不動産投資を煽(あお)っています。

 こうした動きに対して千葉県農民連の顧問税理士の吉元伸さんは、4月19日付「しんぶん赤旗」で、不動産投資の節税対策について「首都圏では、新築2年目以降のアパート空室率が3割を超え過去最高水準に達しています」「不動産投資を節税目的にすることは、あまりにもリスクが高いのです。庶民の不安を煽りながら商売につなげようとするのは、倫理観を失った、まさに資本主義経営の劣化した姿に見えます」と指摘します。

 4月28日の衆院財務金融委員会でも、過熱する「戸建て住宅・賃貸アパート建設」の勧誘についての議論が行われました。

 共産党の宮本徹衆院議員の「アパートローンが増え、リスクや供給が過剰になる」という質問に、宮野谷篤日銀理事は「地方銀行の不動産向け貸し出し残高が異次元緩和前の26・7兆円から34・6兆円に増加している」と現状を追認。国交省の藤井比早之政務官は「地域によっては空室率の上昇や賃貸料の低下がみられる」ことを明らかにしました。

 金融機関は金利はしっかり稼ぎ、地主側には、賃料の低下で元金が返済できなくなれば「担保の土地と建物が回収」されるというリスクは説明しません。

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地下鉄の駅にほど近い、マンションに隣接する区民農園(東京都練馬区)

 農地の転用続き26万ヘクタールも減少

 空き地・空き家問題は、農水省の「都市農業の振興に関する検討会」でも議論され、その「中間とりまとめ」では、「三大都市圏の生産緑地面積1・4万ヘクタールを上回る2・4万ヘクタールの空き地が存在し…都市の空き家率が上昇しているにも関わらず…市街化区域内農地の転用が続いている」とし、その面積は、「1968年から2009年までの41年間で26万ヘクタールの農地が減少している」と指摘します。

 優良農地が宅地に転用され、アパートや住宅が過剰に供給される一方、空き家が問題になっています。

 国交省が、2015年に発表した「空き家の推移」によると、1993年の448万戸から、2013年には820万戸(13・5%)に拡大し、その50%以上が「賃貸用又は売却用」との数字を明らかにしました。

 さらに野村総研は、同年6月、人口減少が進む2033年には「空き家率が30・2%まで上昇する」との予測を発表し、「空き家数が、2013年の2倍以上になり、住環境の悪化や行政コストの増大など、さまざまな問題が生じる可能性」を指摘しています。

地域の協同で都市農業の振興を

 都市と緑の共生と位置づけて

 国交・農水両省は、都市農業基本法の制定にあわせ生産緑地の位置付けを大きく変え「都市と緑の共生」を提唱し、さまざまな施策を打ち出しています。

 相続税の納税猶予制度や生産緑地指定の面積要件の緩和、10年ごとの再延長、さらには生産緑地指定促進のため「都市計画運用指針」の見直しも行われ、この間のたたかいで「農業を続ける決意を固めれば、農地は農地として残せる制度」はほぼ確立しました。

 「都市計画運用指針」の見直しも、三大都市圏の特定市以外の生産緑地の指定につなげる制度見直しです。

 営農が成り立つ条件整備こそ

 しかし、多くの都市近郊農民にとって、相続税猶予制度は終生営農が義務づけられ、中途解除には高い利子税が付きまとい、何よりも農業で成り立つ経営に確信が持てないもとで、「農業を続ける決断」に悩んでいるのが現状です。

 金融機関がこの悩みにつけこみ、不動産投資をあおっています。

 こうした動きをはね返していくには、安心して農業を続けられる相続税猶予制度や固定資産税の見直しを前提として、都市農業を守るために、各地でこれまで積み上げてきた優れた実践を交流し、自治体や地域住民と協同し、「都市農業振興基本計画」を作り上げていくことが求められます。

(農民連常任委員 齋藤敏之)

(新聞「農民」2017.7.31付)
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2017年7月

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