「農民」記事データベース20170529-1264-05

収入保険は役に立つのか?
〈下〉

今こそ本物の価格保障を

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収入保険のここが問題(続)

 (4)重い掛け金負担

 農水省の試算では、基準収入1000万円の農家が補償限度額9割、支払率9割を選択した場合、農家負担は約30万円です(表2)。1000万円に対する30万円は一見軽く見えますが、農家は所得(586万円)から支払うため、5・1%の高負担です。

 保険料率を2%とし、国が50%補助すると、恩きせがましく言っていますが、「ナラシ対策」の場合、補てん割合は9割、国の補助は75%です。補てん割合を9割から8割に引き下げ、農家の保険料負担は25%から50%に引き上げる――こんなことを許すわけにはいきません。

 さらに、保険料は危険段階別に設定するとしていますから、保険金の受け取りが多い農家の保険料率は段階的に引き上げられるおそれがあります。

 (5)「青色申告者」に限定

 農水省は「所得等が漏れなく申告され」「帳簿の信頼度が高い」青色申告者だけを収入保険の加入対象にするとしています。

 現在、青色申告を行っている農家は42万人、2割弱にすぎません。どう考えても魅力がない収入保険に、新たな差別をわざわざ持ち込むのは正気の沙汰(さた)ではありません。

 関係者のあいだでは“ナラシ対策が続く間は、米農家がわざわざ青色申告に変更して収入保険に入る必要はない。肉牛・養豚農家は最初から対象外。収入保険に入るのは、野菜・果樹農家だけではないか”と言われているほどです。

 (6)災害補償(農業共済)の行方は?

 農業保険法のもとでは、収入保険が農業共済を乗っ取り、災害補償の行方は危うくなる危険があります。たとえば、農作物共済(米・麦)は当然加入、畑作物・果樹・家畜共済は任意加入ですが、統合後の収入保険は任意加入です。

 北海道農民連の代表は3月14日、農水省に「農作物共済は当然加入だからこそ、国の支えもあり成り立っている。任意加入になれば、共済組合が持たなくなる」と訴えましたが、農水省は“共済組合はどうなってもいい、収入保険業務をすればかまわない”という態度がむき出しでした。

アメリカは生産費を償う価格保障を強化している

 日本はWTO(世界貿易機関)加盟以来、食管制度による米麦の価格保障や、民主党政権が始めた戸別所得補償をきれいさっぱり投げ捨てて、生産費基準ではなく市場価格を基準にした貧弱な経営安定対策にほぼ一本化してきました。

 しかしアメリカは、2014年農業法で、不足払い+価格支持融資+ナラシ対策+収入保険の四層構造を充実させています。

不足払い(価格損失補償)

 不足払いは、市場価格が生産費をもとに決められる基準価格を下回った場合に、その差額を国費で支払う制度です。市場価格と生産費の差、つまり不足分を支払うので「不足払い」と呼ばれます。価格下落が続いても安定的に補償が得られます。農民負担なし。

ナラシ対策(収入補償)

 ナラシ対策は、収入が基準収入を下回った際に、基準収入の86%まで補償する制度で、日本のナラシ対策に似ています。農民負担なし。

価格支持融資

 市場価格が大暴落した時に、農家が国営の「質屋」(商品金融公社)に農産物を「質入れ」して代金を受け取り、価格が回復すれば代金を払って「質草」を回収して市場に売り、価格が回復しなければ「質流れ」にするアメリカ独特の制度です。農民負担なし。

収入保険

 日本が作ろうとしている制度とは違い、作物別収入保険で、ナラシ対策を補完するものです。ナラシ対策の保障は86%までなので、それ以下は収入保険がカバーします。農民の保険料負担あり。

不足払いとナラシ対策のいずれかを選択

 農家は、不足払いとナラシ対策のいずれかを選択して加入します。

 生産費を基準にした不足払い

 不足払いは価格保障の代表的な制度です。

 アメリカでは図3のように、生産費を基準にして基準価格が決められ、市場価格が基準価格を下回った場合に、基準価格と市場価格の差額を国費で不足払いします。

 また、市場価格が暴落し、価格支持融資単価を下回った場合、不足払いが行われるのは融資単価水準までで、それ以下については、商品金融公社の融資によって補てんされます。

 つまり、暴落時であっても、農家は不足払いと価格支持融資の二本立てで安定的に補償が得られます。

 こういう仕組みが日本にあれば、この26年間で、米価が生産費を下回ったのが実に18年に及ぶという状況はありえなかったといってよいでしょう。

 基準価格を30〜40%引き上げ

 基準価格はほぼ5年ごとに改定される農業法で決められます。2014年農業法で決められた基準価格は、30〜40%引き上げられ、小麦を除いて生産費を上回っています。

 不足払い・ナラシに農家負担はない

 日本の制度で、不足払いに近いのは肉用牛・豚の経営安定事業ですが、過重な農家負担があります(肉用牛は33%、豚は50%)。また、日本のナラシ対策の農家負担は25%です。しかし、アメリカでは、不足払い・ナラシ対策・価格支持融資ともに、農家負担はありません。

 全生産者が対象

 日本のナラシ対策は認定農業者などに対象が限定され、収入保険では新たに青色申告者限定という選別が加わります。しかし、アメリカの制度は副業や兼業を含めて全生産者が対象です。

「戸別所得補償制度」の復活を足がかりに、今こそ日本でも価格保障の復活を

 価格保障とは縁もゆかりもない収入保険ではなく、今こそ日本でもアメリカなみの価格保障の復活を――これは、農業と安全・安心な食を守る大義にもとづく要求です。

 いま、私たちは、安倍政権が廃止した「農業者戸別所得補償制度」の復活を求める運動と署名を全国で進めています。

 戸別所得補償制度の復活は、農民・国民と野党4党の共通の要求であり、今こそ日本でも価格保障の復活をという願いを実現する大きな足がかりになります。すでに野党4党は、共同で畜産経営安定対策(マルキン)の充実を求める法律案を国会に提出しています。

 総選挙で、農民・国民と野党4党の共同を大きく前進させ、アベノミクス農政改革の転換、今こそ日本でも価格保障の復活をという願いを実現しようではありませんか。

(おわり)

(新聞「農民」2017.5.29付)
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2017年5月

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