「農民」記事データベース20150302-1155-05

ICA(国際協同組合同盟)連携セミナー

農協「改革」は
協同組合原則を踏みにじる

関連/農協「改革」は協同組合原則を踏みにじる
  /協同組合全体に関わる重大事項であり、容認できない

 JAグループや日本生協連などでつくる日本協同組合連絡協議会が2月12日、農協改革をテーマにセミナーを開催しました。国際協同組合同盟(ICA)のポーリン・グリーン会長、ジャン=ルイ・バンセル理事、日本協同組合学会の柳沢敏勝会長の発言要旨を紹介します。


世界で評価高まる協同組合
農協の監査は企業とは違う

ICA会長 ポーリン・グリーンさん

画像  ICAは、世界の約100カ国に加盟協同組合を持ち、組合員は10億人を超えています。これは世界の株式市場の個人株主の3倍にあたります。また、規模の大きい300の協同組合の総売り上げは2兆2000億ドルに達し、世界第7位の経済大国のGDPに相当します。さらにこれらの協同組合のここ3年間の売り上げの伸び率は、世界のGDPの伸び率を12%も上回っています。協同組合はいま、世界で市場を拡大しているのです。

 G20でも協同組合の役割が確認され、国連は2012年を国際協同組合年に制定しました。国連食糧農業機関(FAO)もアフリカでの食糧供給の支援に向けて、ICAと覚書を取り交わしました。これらすべてが、協同組合の重要性と信頼が増している証明です。

 ところがそんなときに、信じられないことを聞きました。日本政府が農業協同組合の解体を検討しているというのです。国際機関が協同組合の特別の貢献を認めているときに、また世界が公正で公平な経済制度を求めているときに、なぜ協同組合の一部を株式会社化するのでしょうか。

 私たちは各国政府の政治に介入したいのではありません。しかし国の法律が協同組合事業に影響を与え、組合員の民主的な権利に反する方向に動いているとみられるとき、ICAは慎重に検討していくことがきわめて重要だと考えます。

 JA全中からの監査機能の剥奪の提案についても注意を呼びかけます。

 世界での私の経験からみて、この種の提案は協同組合の本質についての誤解と、協同組合を企業と全く同じく扱うことができるとの考えに起因しています。

 協同組合は独自の法的・財政的構造を持ちます。協同組合内部で監査機能を持つのは世界でもごく普通のことです。協同組合のしくみとその長所、短所を理解し、企業による商業的監査のように数字だけを相手にするのではなく、協同組合的性格を持つ健全な事業を確立し、協同組合のガバナンス(意思決定や合意形成のシステム)、選出制度、協同組合的な目的の順守など多くのことについて監査を行ううえで、極めて重要な役割を果たすものです。

 私たちは地域農協の職員や組合員とも話す機会を持つことができました。彼らは政府の改革案への懸念や透明性の欠如を訴えており、こうした点も問題です。

 私たちは、民衆を経済の意思決定の中心に置きます。バランスがとれ、多様性に富んだ経済の国は、一つのビジネスモデルに依存する国よりも、近年の金融危機と景気後退をより少ない苦痛で切り抜けることができました。ICAは今後も、日本の仲間に必要だと思われる全ての専門知識、技術、支援を行っていきます。


もっと経済的側面議論すべき
共有財産の行き先にも注視を

ICA理事 ジャン=ルイ・バンセルさん

画像  ICAは昨年9月、日本の農協改革に関して声明を発表するにあたり、日本の協同組合や農業の現状についてより深く理解するために、調査団を派遣しました。私もその一員として来日し、地域農協がまさしく“ゆりかごから墓場まで”、地域生活の深いところまで担っている現状を見聞きしました。そして、まとめられたのが、「ICAは日本の農協と家族農業を脅かす提案に懸念を表明」というプレスリリースです。

 ICAの懸念は、農協改革が協同組合原則を尊重しているかどうかです。ICAの協同組合原則の柱は7つあります。

 このうちの第2原則は「民主制」です。企業と協同組合を区別するのは、協同組合と運動内部の民主的な運営です。協同組合運営には、民主的なプロセス、つまり組合員の民主的な意思によることが大切です。

 第4原則の「自治」も非常に重要です。政府はJA全中の力が大きすぎることを懸念しているようですが、JA全中があるからこそJAグループの自治が守られ、民主的な管理が守られるのです。

 ですから、私とグリーン会長は監査の問題に取り組みました。それはまだ途上ですが、少なくとも協同組合が監査権を手放せばどうなるのかについては明白です。会計基準にもいろいろな種類があり、監査の基準にどんな会計基準を用いるのかも重要な問題です。

 第7原則には「地域社会への関与」があります。地方には公的資金の投下が乏しく、政府は公的サービス予算を削減しがちです。JAは地方では医療や葬儀など地域社会での役割を担っています。たとえ農民所得が倍増したとしても、医療や葬儀などに3倍も費用がかかるとしたら、どうなるでしょうか。

 そしてこれらの問題は法律だけではなく、お金の問題でもあります。こうした財産は共有財産、協同組合の財産なのです。富はどこにあり、誰が狙っているのか。もっとこうした経済的な側面にも取り組んだ方がいいと考えます。

         □ >>〔次ページ〕

(新聞「農民」2015.3.2付)
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2015年3月

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