TPPシンポでの発言――
日本医師会 中川俊男副会長
保険適用範囲が狭くなり
患者の負担さらに増える
日本医師会副会長の中川俊男さんの発言(大要)は以下の通りです。
すでに業務提携
日本の医療保険制度は世界で最高だと評価されています。日本の医療制度を守るためには次の3つの条件が最低限必要です。(1)公的な医療給付の範囲を将来にわたって維持すること―保険適用範囲をこれ以上狭めないこと(2)混合診療を全面解禁しないこと(3)営利企業を医療機関経営に参入させないこと――日本医師会は医療の営利産業化を防ぐためにたたかってきました。
驚くべきことが起こりました。今年の7月26日に日本郵政とアメリカの民間保険会社アフラックが業務提携をしたのです。全国の郵便局でアフラックのがん保険が発売されることになりました。7月15日〜25日の第18回TPP交渉に日本が初めて参加した、まさにその直後の26日にアフラックとの提携が発表され、TPPと無関係ではありえないと思います。国が100%出資している日本郵政は、TPP締結後にがん保険に参入しようとしたとき、アメリカから公平な競争が担保されていないと訴えられるのは目に見えています。日本郵政は自社の利益のために、TPPを先取りしたのではないかと思います。
対象外というが
また、日本政府はTPPで日本の公的医療制度は対象外だから問題ないと言い続けています。しかしアメリカは1985年の1月から医療市場を開放しなさいと要求し続けてきました。そしてそれが延々と続き、民主党政権時代にはさらに強まってきているなかで、TPPの影響がないというのは、全く説得力がありません。医療の営利産業化の動きが、TPPで強まっても弱まることはないとの確信が日に日に強まってきています。
いま、国内改革として新自由主義的政策が持ち込まれています。中でも公的医療給付の縮小、つまり、保険適用範囲が狭まるのが一番心配です。保険外の部分を増やしアメリカの民間保険会社が参入しやすい基盤整備をしようとしているのではないでしょうか。
保険外は高額に
混合診療とは、保険がきく診療ときかない診療が同時に患者に提供されるもので、現在は全額自己負担、つまり原則禁止されています。この混合診療が全面解禁されるとどうなるか。新しい薬、新しい診療、新しい検査が保険外診療のままにされてしまいかねません。特に財務省が財政再建のために推進するのは間違いないと思います。
混合診療では、保険外の金額は高額になりがちです。しかも、5年、10年と経過すると、新しい医療が保険の対象にならず、患者の負担はどんどん増えてきます。ここに民間医療保険が参入する余地が出てきます。今でも公的医療保険の負担が重くて大変なのに、民間医療保険の負担でさらに大変になってしまいます。
TPPが発効するためには交渉妥結後にも国会批准など大きなハードルがまだあります。TPPに関して「医療が危ない」という声を、いろいろな場面で上げほしいと思います。
(新聞「農民」2013.9.30付)
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