「農民」記事データベース20130107-1052-06

TPP参加阻止
地域共同さらに強く広く
(1/2)

関連/TPP参加阻止 地域共同さらに強く広く(1/2)
  /TPP参加阻止 地域共同さらに強く広く(2/2)

 富山市で2012年12月1日、富山食健連や県JA、生協などの代表者6人が呼びかけ人になって、「ストップTPP県民集会」が開催されました。呼びかけ人となった6人に、TPP参加反対への思いや今後の取り組みについて、縦横に語ってもらいました。

画像
大雨のなか行われたシンポジウム開催後のデモ行進=12月1日、富山市


国は情報を何も開示しない

富山県農業協同組合中央会会長 穴田甚朗さん

画像 TPP参加に「賛成」とか「反対」とか言う前に、私たちが問題にしたいのは、TPPについての情報が政府から何も開示されていないということです。大多数の国民が「TPPとは何か」ということが分かっていないのに、視野の狭い、わずかな情報で判断しなければならない――こんな状態では、総選挙の争点になる以前の段階の問題だという思いがあります。

 しかし結果として総選挙ではTPPが争点になり、自民党の圧勝という結果になりました。これは自民党が掲げた公約が全面的に支持されたというよりも、「国民ための政治をしてほしい」という国民の期待によって生まれたはずの民主党政権が、約束と違う政治をしようとしたり、首相が代わるたびに政策や国の方向が変わってしまう――こうした民主党政治への国民の怒りと失望が現れた結果なのだと思います。ですから自民党には、おごり高ぶってもらっては困ります。国民が何を期待して投票したかを忘れずに政権運営してもらいたい。

 私たちも組織として、TPP参加を懸念・反対しようという方々を草の根から結集して、国民的議論ができる場をつくっていかねばなりません。以前は他団体に申し入れに行っても、「TPPでたいへんになるのは農業だけで、とにかく農業を助けてくれというお願いだ」と受け止められることもありました。

 しかし、TPPにはISD条項のような国の根幹にかかわる項目もありますし、食の安全や医療など国民全体にかかわる問題です。政府調達の外資への開放などでは建設業界も大打撃を受けるでしょうし、もっと広い分野の団体に「これはあなたの問題だ」とTPPの影響を具体的に説明して、共同していく必要性を感じています。やはりこうした議論を深めるうえでも、政府からの情報公開が重要だと考えています。


危機的な農業イジメさらに

富山県食健連会長 大橋国昭さん

画像 TPPをテーマに、これだけ幅広い団体の方々に協力いただいてシンポジウムを成功させることができ、たいへんうれしく思っています。しかしもうひと周り、ふた周り、TPP反対の運動を広げたい。TPPはすべての分野の農家をいじめる内容ですから、畜産農家や野菜、果樹生産者の皆さんにも運動に参加してもらえれば、TPP参加反対の大きな力になると思っています。

 選挙期間中、地域の農家と対話しましたが、私が農業委員であることがわかると、多くの人から「田んぼを買ってくれる人はいないか」「米価が安くて、息子に“農家を継いでくれ”とか“休みを返上して農作業してくれ”とは言えない」という声が聞かれました。なかには「家族から“ばあさん、死ぬ時は棺桶(かんおけ)に田んぼも一緒に入れて逝ってくれや”と言われた」という話もありました。

 TPPへの参加は、こんなに危機的になっている地域農業を、さらにイジメ抜くもので、どうしても許せません。

 今回、これだけの幅広い団体の共同ができた背景には、食健連で毎年取り組んでいるグリーンウエーブでいろいろな団体に訪問していることが大きな力になっていると思います。最初は冷たくあしらわれても、あきらめずに機会を見つけては何度も足を運んで、議論を深める努力を続けてきました。こうした無数の小さな積み重ねが、TPP参加阻止の共闘につながったと思います。


農業が持続的発展できない

富山大学教授 酒井富夫さん

画像 これまで農政が追求してきた「持続可能な農業・農村」が、果たしてTPPに参加して本当に達成できるのか、というのが一つの焦点だと思います。そこが非常に不透明なのに、「やってみなくちゃわからない」「崖から飛び降りながら、体質改善しろ」というのではあまりにリスクが高く、反対せざるをえません。きわめて慎重にやるべきことだと思います。食の安全、安定供給という食料政策の面でも問題がありますし、農業・農村が持続的に発展できないと地域経済も危なくなるということにもつながってくる問題です。

 結局、TPPは関税を撤廃することが前提になります。関税撤廃となれば、生産調整もなくしていくことになりますし、国際価格並みに国内の農産物価格を下げるとなると、農家の所得補償も必要になってきますが、そのための財政の見通しもはっきりしていません。

 大規模経営の農家にだけ支援すればよいという意見もありますが、輸入自由化したら大規模経営であってもどれほどの農家が残れるのか。所得補償といっても、ある意味では米が「売れる」こと、「作っている」ことが前提ですから、農家をやめてしまったら補償されなくなってしまいます。また一部の経営体が生き残ったとしても、日本の米供給が安定的にできることにはならないと思います。

 グローバリゼーションのなかで、日本の農業・食料をどう対応させていくのか。ISD条項もあるようにTPPは選択の余地なしですが、国家の根幹にかかわる問題については、自ら選択できる余地を残しておくことが重要だと思います。

 貿易論は私の専門分野ではありませんが、ことTPPに関してはすべてがわかっていなければ発言してはいけない、という問題ではないと思っています。わかった部分だけでも情報発信をして、地域の方々に判断をしてもらうことが必要だと思いますし、話をしていきたいと思っています。

(新聞「農民」2013.1.7付)
ライン

2013年1月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2013, 農民運動全国連合会