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東電は早く賠償せよ!
畜産農家を救え!(2/2)

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出荷制限で収入が途絶

畜産農家は経営危機に直面
福島・高野さん

 「資産だった牛が、今では負債になってしまった」――福島県二本松市で、交雑牛300頭を肥育する高野仁(じん)さんは、ツヤツヤとした毛艶(つや)が美しい、それは立派な牛たちを前にして、こう肩を落としました。福島第一原発事故による稲ワラと牛肉のセシウム汚染が、何の落ち度もない畜産農家を経営危機の淵(ふち)に追い込んでいます。

 出荷遅延牛生むお粗末検査体制

 「この事態は、『これからも牛飼いを続けるのか』と、問いかけられている状態だ。まったく先が見えない」と、福島の肥育農家の現状を話す高野さん。福島県の牛肉は現在、政府の原子力災害対策本部(本部長は菅直人首相)が出した指示により、全県で出荷制限となっています(宮城、栃木、岩手の各県も同様に出荷制限中)。

 出荷制限の解除には、福島県の場合、(1)計画的避難区域と緊急時避難準備区域内の牛は全頭検査し、(出荷制限が解除された後は)暫定規制値を下回ったもののみ出荷できる、(2)それ以外の地域は農家ごとに1頭以上検査し、(解除後は)規制値を十分下回った農家のみ出荷を認める、という検査体制を県が整えていると認められなければなりません。

 では、肝心の「検査体制」はどうなっているのか。――福島県の場合、出荷制限の解除条件として認められるゲルマニウム半導体検出器は、現在のところ、県内にはなんと4台しかありません。8月中に10台に増設される予定ですが、それでも1カ月720頭分の検査体制しかありません。福島県で1カ月に出荷される牛はおよそ1500頭。出荷制限が解除されても、毎月800頭近くの出荷が遅れ、肥育農家の牛舎につながれたままになる計算です。

 「肥育農家は、出荷された牛が売れなければ、収入は途絶えたままだ。いつになったら出荷解除になるのか」と、高野さんの苦悩は深まっています。

 「貸しつけ」では展望は開けない

 出荷制限で収入の断たれた農家に対し、農水省はようやく8月5日になって「畜産団体を通じて1頭あたり5万円の支援をする」「(出荷制限解除後の)出荷時の価格下落分を支援する」などの対策を発表しました。

 しかしこの対策は「支援」という名の「貸し付け」にとどまっています。なぜなら「1頭あたり5万円」は牛の出荷時に、「出荷時の価格下落分」は東京電力から賠償金が出た時に、「返還」しなければならないことになっているからです。

 高野さんは「この対策では、東電への賠償請求はあくまで農家自身がしなければならない。いつになったら東電は賠償金を払うのか。払われたとしても損害全額が支払われないのではないかと、不安でならない。本当に畜産を守るには、弱い立場の農家に賠償交渉をさせるのではなく、国が牛を正当な価格で買い上げ、その費用を東電に対して賠償請求すべきではないか」と言います。

 「1頭あたり5万円」の実質的「貸し付け」も、見通しを明るくするには至りません。少なくとも交雑種(F1)は平均で54〜55万円、和牛なら80万円ほどで売れなければ、畜産農家は経営が維持できないからです。

 国は、出荷適期を過ぎて価格の下がってしまった「出荷遅延牛」についてだけは「買い上げ」を言い出しました。今後、こうした対策がどのように実現されていくのか、しっかりと見守る必要があります。

 農家自ら汚染の実態を知る必要

 福島県農民連の根本敬事務局長は、「今回の稲ワラ・牛肉のセシウム汚染は、何が、どれだけ、放射能に汚染されているのか知らされないなかで起こった問題だ。『ほ場や農産物の汚染の実態を、行政や東電がきちんと計測して、情報提供すべきだ』と声を大にして叫ぶ必要があると同時に、生産者自身も行政まかせにせず、自分たちで生産現場の放射能の汚染実態を知る、計測することが大切ではないだろうか」と指摘しています。

(新聞「農民」2011.8.15付)
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2011年8月

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