「農民」記事データベース20110725-982-02

うごめき出した菅政権・財界

TPP参加(2/2)

許さない国民的運動 強めるとき

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  /TPP参加(2/2)


 日本を引きずりこむアメリカのねらいは

 財界とならぶ圧力源はアメリカです。アメリカの今年7月の失業率は9・2%で、オバマ政権になって以来、9%を超えたままです。(図2)

 アメリカ大統領選挙では失業率が重大争点になるのが常で、失業率8%以上で再選された大統領は皆無です。昨年11月の中間選挙で敗北したオバマ大統領にとって、来年11月の大統領選挙対策上、雇用拡大と、そのための「輸出2倍化」戦略の実現は最重要課題。

 オバマ政権のTPP交渉のねらいは明白です。(1)アメリカは輸入を増やさず、アジアにアメリカ産農産物や工業製品を売りまくる、(2)そのために、TPP協定をテコにアメリカ以外の国の市場を開放させ、アメリカの「輸出倍増」戦略に協力させる、(3)今後アメリカが結ぶFTAは輸出を倍増させ、雇用拡大につながるものだけに限定する。

 「TPPに入ってアジアの成長を取り込む」というのが菅政権のうたい文句ですが、日本がTPPに参加したと仮定してGDP(国内総生産)のシェアを見てみると、アメリカが67%、日本24%、オーストラリア5%で残りの7カ国は4%。

 TPPでの日本の輸出先はアメリカしかなく、アメリカの輸出先は日本しかありません。しかし、アメリカは輸出は2倍に増やすが、輸入はしたくないというのです。“カモがネギを背負って環太平洋をうろついている”日本をTPPに引きずりこむ――ここにアメリカのねらいがあります。

 アメリカの身勝手なダブルスタンダード

 アメリカの狡猾(こうかつ)なねらいが典型的にあらわれているのが、農産物の自由化交渉に際してのダブルスタンダード(二重基準)の押しつけです。

 アメリカは北米自由貿易協定では、メキシコ・カナダに対して「農産物輸出大国」としてふるまって、情け容赦のない農産物貿易の自由化を強要する一方、米豪FTAでは「農業弱者」としてふるまいました。

 実際、アメリカの経営規模の15倍前後のオーストラリアとの交渉では、砂糖を完全な例外扱いにさせ、牛肉については18年間の関税割当を設定したほか、オーストラリアからの牛肉・乳製品の輸入増加量はアメリカの生産量のわずか0・17%にとどめました。

 オーストラリアにとっては恨み骨髄に徹する押し付けであり、TPP交渉は再交渉の場のはずでした。しかし、アメリカがTPP交渉でとっている立場は、既存のFTAについてはいっさい再交渉を拒否し、FTAを結んでいない国とだけ新たに交渉し、旧・新のFTAを積み上げてTPP合意とするという「二国間交渉方式」です。

 一方、オーストラリアやシンガポールは、9カ国全体が統一して協議し、新たなルールを既存のFTAにも適用するという「統一交渉方式」を主張し、アメリカと対立しています。

 こういうアメリカのダブルスタンダードは“アメリカが実際にやっていることには目をふさぎ、アメリカの高邁(こうまい)な自由貿易のお説教だけを聞け”という態度だと皮肉られており、アメリカの主張がどこまで通るかは不透明です。

 現に、ニュージーランドのグローサー貿易相は「例外なき関税撤廃を含む包括合意で一致しているとはいえない」「交渉結果がどうなるか分からない」(「日経」7月13日付)と述べています。

 民主党政権があおりたてるように、交渉は順風満帆(じゅんぷうまんぱん)に進んでいるわけではなく、アメリカの身勝手さが交渉の進展をはばむ可能性があるという歴史の皮肉を見ておく必要があります。

 「日本の米は例外扱いにされる」か?

 アメリカのふるまいを見て、「日本の米も例外扱いにされる可能性がある」という議論が、政府や一部の自治体首長からふりまかれています。しかし、これは幻想にすぎません。アメリカがFTA非締結国、とくに日本に対して厳しい自由化を求めることは必至だからです。

 ニュージーランド・オークランド大学のジェーン・ケルシー教授の次の指摘は傾聴に値します。

 「アメリカ以外の交渉参加国は、農業を含むすべての関税を2015年までに撤廃するという『高い水準』の約束を余儀なくされるだろう……マレーシアとアメリカとの二国間交渉が07年に頓挫(とんざ)した主たる理由の一つに、マレーシアのセンシティブ品目である米をめぐる問題があった。アメリカはこれらの品目の関税も、TPP交渉を通じて撤廃したい考えである……市場アクセス交渉は、すでにマレーシアで、そしておそらく日本でも、農業自由化をめぐってすでに難しくなっている政治状況をさらに悪化させることになると思われるが、アメリカは同じ政治的困難から免れているのである」(『農業と経済』今年5月臨時増刊号)

 要するに、アメリカは砂糖や牛肉、乳製品の自由化は行わないですまそうとしているが、日本やマレーシアには遠慮会釈なく米の自由化を迫るというのです。

 避難所の食糧難とTPP参加の無謀性

 日本の飼料穀物や小麦、大豆の輸入はすでに飽和状態にあり、輸入拡大の余地はほとんどありません。とすれば、アメリカがねらうのは米です。TPPに参加し、完全に輸入を自由化した場合に米生産は1割しか残らず、カロリー自給率は13%に激減するという農水省の試算はこれに符合します。

 大震災1カ月後の宮城県の調査によると、避難所の食事は1日2食が45%。カロリーは、成人が寝たきりでかろうじて生命を維持するのに必要な水準をはるかに下回るという劣悪なものでした。

 避難所の食糧難だけでなく、東京でもスーパーの店頭から米もパンも牛乳も姿を消しましたが、TPPに参加し、自給率13%、米生産は9割減という“無農・亡食国家”になったら、いったいどうなるのか。TPP参加の無謀さは明らかです。

 世界の飢餓と地球温暖化に拍車をかける

 日本の米需要は800万トンですから、9割を輸入するとなれば700万トン強になります。

 これが日本の農業と食糧に与える打撃の巨大さはいうまでもありませんが、世界の米需給や環境に及ぼす影響も計り知れません。

 農業経済・気象・人口などの専門家グループ(人口・開発研究委員会)は、日本がTPPに参加すれば、アジアのコメ需要をひっ迫させて米価を2倍に押し上げ、アジアの米食人口の1割、2・7億人が飢餓に陥る可能性があると予測しています。また同委員会は、フードマイレージは43%増加し、排出二酸化炭素量も1290万トン以上増加すると予測しています。

 TPP反対の新たな国民的共同の発展を
  東京で8月27日に国民集会

 まさしく破滅の道です。

 TPPに反対する立場からの単行本や特集雑誌は20冊を超えていますが、TPP推進本は1冊もありません。破滅の道であることをとりつくろう理論も理屈もなく、「平成の開国」だとか「世界の孤児になる」という類(たぐい)のワンフレーズ宣伝と、“自由貿易推進教”とでもいうべきドグマにもとづくキャンペーンばかりが目立ちますが、ここにTPP推進派の致命的な弱点があります。

 痛めつけられた東日本の復興に逆行するTPP参加の動きは、震災前につくられていたTPP反対の国民的共同に新たな火をつけることになるでしょう。いま大事なのはTPPの正体を知ること、知らせることです。

 農民連・食健連は、医療や労働、食の安全など、広範な人々と共同し、8月27日に東京・日比谷公会堂でTPP参加阻止・震災復興を求める国民集会を開きます。これを跳躍台にして、新たな国民的共同を発展させることが求められています。

(真嶋良孝)

(新聞「農民」2011.7.25付)
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2011年7月

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