「農民」記事データベース20110725-982-01

うごめき出した菅政権・財界

TPP参加(1/2)

許さない国民的運動 強めるとき

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 菅政権は7月12日に「食と農林漁業の再生実現会議」を開き、TPP(環太平洋連携協定)参加のための農業構造改革提言(中間提言)を7月中にまとめることを決定しました。

 野党ばかりか民主党執行部からも「辞めろ」コールが相次ぐなか、菅政権の行方は混沌(こんとん)としていますが、9月または10月の日米首脳会談、11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議を通じてTPP参加を強行する危険性は決して無視できません。その背景にあるのは「空洞化」を脅迫材料にした財界の異様な圧力と、「他国の雇用を奪って米国人の雇用を増やす」オバマ政権の思惑。

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TPP交渉参加反対・農業危機突破決起集会(2010年11月20日、福島市)でのデモ行進

 復興とTPP参加は両立しない

 「中間提言」の最大の特徴は、これが復興に役立つかのように装いながら、TPP参加の本音をのぞかせていることです。提言のベースになっているのは、5月17日に閣議決定した「政策推進指針」。

 「指針」はTPPを「国と国の絆(きずな)の強化に向けた戦略」と欺まん的に表現し、「被害を受けている農業者・漁業者の心情、国際交渉の進捗(しんちょく)、産業空洞化の懸念などに配慮して、TPP協定交渉参加の判断時期について総合的に検討する」と述べています。しかし、農民の心情への配慮とTPP参加は絶対に両立しません。

 解けない方程式の答えは「農業改革とあわせて(TPP参加を)決断しなければならない」「判断をしっかりしないとチャンスを逃す」(経済産業省幹部)という本音にあります。

 菅政権は提言骨子の公表を拒否し、7月末まで闇の中の検討を行うことにしています。

 NGOとともにTPP批判キャンペーンと運動を進めているニュージーランド・オークランド大学のジェーン・ケルシー教授は「次期政権でくつがえせないような国内産業の再編を進めるねらいがあるのではないか」と指摘していますが、崩壊状態にある菅政権に、国民には秘密に重大な政策決定を行う資格などないといわざるをえません。

 自公政権時代を上回る選別政策

 「中間提言」の中心は、国際競争力強化のための「攻めの担い手実現」。平地で20〜30ヘクタール、中山間地域で10〜20ヘクタールに規模拡大を加速するとしています。これは「選別政策」として悪名が高かった自・公政権時代の「経営所得安定対策」(北海道で10ヘクタール、都府県4ヘクタール)をはるかに上回るものです。

 民主党政権が昨年3月につくった「新基本計画」では、自・公政権時代の政策を「一部の農業者に施策を集中し、規模拡大を図ろうとするだけでは……地域農業の担い手を育成するという目的も十分に達成することができなかった」と批判しました。自・公政権を上回る中小農家切り捨て政策の強行は、担い手をけちらし、やがて大企業の農地支配を招くことにならざるを得ません。

 異様な財界の圧力

 民主党が09年総選挙に圧勝した要因は、差別・選別なしに戸別所得補償を実施するという公約でした。菅政権がこれをくつがえして変節の限りを尽くす背景にあるのは、異様なほどの財界の圧力です。たとえば、トヨタや新日鉄、三菱商事などの代表が顔をそろえている産業構造審議会・産業競争力部会では、次のような恫喝(どうかつ)発言が相次ぎ、TPP参加圧力が加えられました。

 「韓国と比較してもEPA(経済連携協定)、FTA(自由貿易協定)締結への取り組みが遅れているが、誰が責任を取ってくれるのか? 自動車、電機など、関税に強い影響を受ける業界は海外に生産拠点を移さざるを得ない」「地震は関係ない。経済産業省はイニシアティブを握ってやるべき。FTAやTPPもどんどんやらないと、現状から悪くなる一方だ。百の議論より一つの行動を」(同部会議事要旨、6月1日)

 ヤクザも顔負けするほどの恐喝(きょうかつ)に屈したのか、海江田経済産業大臣は「TPPに対する委員のみなさまの問題意識を受けがんばりたい」と応じましたが、こういう態度も自・公政権時代をはるかに凌駕(りょうが)しているというべきでしょう。

 民主党にとって票と選挙動員の最大スポンサーである「連合」の圧力も重大です。古賀伸明連合会長は「新成長戦略実現会議」(6月24日)に財界とそっくり同じ意見書を提出しました。

 「アジア太平洋自由貿易圏に繋(つな)がる可能性のあるTPPについても、ルール作りに参画する上でわが国に残された時間は少なくなっている」「震災によって(農業構造改革の)重要性はむしろ高まったと言える。震災を口実にした目標の先送りはすべきではない」

 空洞化を進めているのは輸出大企業

 圧力の共通項は「空洞化」です。米倉弘昌・経団連会長は、原発を再稼働しないなら大企業は日本から出て行くと、机をたたいて脅しました。

 しかし、大震災と原発事故が起きるはるか前から空洞化を進めてきたのは、輸出大企業です。米倉氏が会長を務める住友化学は、2000年当時はシンガポールにしかなかった海外工場を、2010年にはアメリカ、中国、韓国、台湾などに増やし、海外従業員数を348人から7712人に、22倍にしました。一方、国内では大日本製薬や住化武田農薬などを吸収合併したにもかかわらず、本社従業員は11%増の6012人。海外売上げ比率も2倍の53・3%に達しています(図1)。

 自分たちが空洞化を進めてきたことを棚にあげ、なおかつ空洞化をネタにTPP参加や原発再稼働を迫るのは、“カタギ”の人間のやることではありません。

(新聞「農民」2011.7.25付)
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2011年7月

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