「農民」記事データベース20110103-955-02

新春ビッグ座談会(上)

4氏大いに語る

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 農民連は、TPP阻止を2011年の最大の闘争課題として位置づけ、1月19日から始まる第19回定期大会の議案にも「TPP阻止の国民共同を構築し、農山村を再生する“核”となる組織作りに挑戦しよう」というスローガンを掲げ、奮闘中です。
 TPPへの参加は、もっとも打撃を受ける農林漁業をはじめ、国民生活全体に影響を及ぼします。TPP阻止のためには、農民の力だけではなく、幅広い国民的なたたかいが求められます。
 各界の4人が、TPPのねらいを明らかにし、国民的な合意と共同のたたかいをどうつくっていくのか、その展望をおおいに語り合いました。

出席者

日本共産党書記局長・参議院議員
全国労働組合総連合議長
新日本婦人の会会長
農民運動全国連合会会長

市田忠義さん
大黒作治さん
高田公子さん
白石淳一さん


TPP阻止に向け国民共同の大運動を

 産業空洞化進み失業350万人増 大黒

 白石 市田さんは臨時国会の参院予算委員会(昨年11月19日)で、TPPの問題で質問され、テレビでも生中継されました。私も見ていましたが、噛(か)んで含めるようにたいへんわかりやすく解明してくれました。どういうわけか、私のところにも農家から「よくわかった」という電話がありました。日本の国土と社会がどうなるのかという視点で系統的に追及されたのは、日本共産党だけだったのではないでしょうか。

 市田 国民のみなさんはPTAやDDTという言葉は知っていても、TPPってなんのことか、まだよくご存知じゃありません。質問の一番のねらいは、菅内閣とやりとりするというよりも、お茶の間でテレビを見ている広範な国民のみなさんに、“TPPってなんだろう”ということをいかにわかってもらうかということでした。それから、農家の応援団というだけではなく、TPPが日本の国土と社会のあり方をこわしていくものであり、雇用も医療も市場原理にゆだねてしまったらどうなるのか、ということをわかりやすく論じる工夫をしました。

 そして、「バスに乗り遅れるな」というが、世界のバスはどっちの方向に向かっているのか。自分の国の食料は自分の国でまかなうという「食糧主権」が、国連の人権委員会でも採択されましたが、反対しているのはアメリカだけ、棄権したのはオーストラリアだけということを政府に言わせて、「食糧主権」が世界の流れだということを浮き彫りにしました。

画像
福島県食健連のトラクターデモ=2010年12月7日(2面に関連記事)

 だれが一番利益を受けるのかといえば、自動車とか電気とか一部の輸出大企業です。ぼろもうけさせるために、日本の国土と社会をこわしていいのか、ということです。

 大義と道理はこちらにあるので、やっていて楽しかった。はじめの1、2問で農水大臣が自信なさそうに答弁するんです。「これはこっちのものだ」と思いましたね。

 白石 テレビを見ていても、楽しそうでしたよ。

 さて、TPPは農産物だけでなく、皮革・履物、金融・保険、郵政、医薬品、労働などの規制緩和、食品の安全基準を国際基準に調和させるなど、経済活動と国民生活全体にわたっています。

 非正規化で雇用破壊が進み、学生が過去最悪の就職難にあえいでいるとき、経団連会長は「TPP参加を機に、外国からの移住者をどんどん奨励すべきだ」などと言い放っています。全労連は、いち早く「TPPへの参加決定に反対」との談話を発表しましたが、財界といっしょになって「TPP支持」を表明している労働組合もあります。どうみたらいいのでしょうか。

画像 大黒 すでにはっきりしたことは、大企業がいくらもうかっても内部留保をいくらため込んでも、日本経済の成長のためにはなにも役立たないということです。外需依存や内部留保のため込みでは、経済はちっともよくなっていかないということを、国民は日々の暮らしの中で実感しています。たまりにたまった内部留保をいかに国内に還流させ、日本の経済を成長させるか、真剣に考えるべきではないのか、春闘の大きなテーマです。

 一方、TPPに参加すれば350万人が失業すると、農水省は試算しています。いまでも失業率が5%を超えているのに、それ以上の失業者を出すことになります。輸出関連大企業の連合系の労働組合は、TPPに賛成していますが、こういう事態を労働組合としてどうみているのでしょうか。春闘の中で私たちは問わなければいけないと思っています。

 TPP紙芝居作って広めたい 高田

 白石 TPPに参加すれば、食の安全も脅かされます。新婦人は、これまでも日本の食と安全を守るという点で大きな役割を果たしてこられましたが、さっそく菅首相あてに消費者・女性の立場からTPP参加に強く反対する要請をしています。また、JA女性部に申し入れを行うなど、幅広い共同を呼びかけていますね。

画像 高田 内閣府の世論調査に、9割の人が「輸入食品ではなく国産の安全なものを食べたい」と答え、この5年間で9%も上がっています。なぜ輸入食品が不安かというと、「いつ海外で不作になるか分からない」という人が6割で、「地球がこんなに深刻なときに食糧は自分の国でつくるべきだ」が5割を超えています。世論はまさに私たちの願いといっしょです。

 すでに北海道や静岡などでJA女性部への申し入れも始まっていますが、広範な女性団体、消費者団体に「いっしょに反対しましょう」と呼びかけ、おおいに共同を広げていきたい。

 白石 新婦人と農民連は、産直でつながって今年でちょうど20年です。今年も各地でいっしょに収穫祭を行いました。

 高田 各地の20年を祝う産直まつりには数百人から1000人以上も集まり、私もびっくりしています。

 日米安保条約のもとで食料自給率が急激に下がり、1980年代、アトピーの子どもたちが増え心配しました。そんなときに農民連が結成されて、「安全な食べものは日本の大地から」と産直が始まり、新婦人は「スーパーにも安全な地産地消の野菜を置いてほしい」と申し入れ、そういうコーナーを作らせてきました。そしてアトピーの子どもたちが減ってきたのです。だから、「TPPに参加したら日本の大地は守れない。安全な食べものはなくなるよ」という訴えは消費者に通じるし、この運動は道理ある運動です。

 ところが、街頭に立って署名を訴えると、消費者の反応は必ずしもよくありません。「安くなったほうがいい」「あれは農民の問題でしょ」と言うんですね。だから、しっかり学習しないとね。

 食についての会員の関心は高く、埼玉県では200の班で、また東京、千葉など各地でも「ご飯でダイエット、学んで美しく」という紙芝居を使って班会をやっています。なかなかおもしろいんです。TPPの紙芝居も作りたいと話し合っています。

 “鎖国”どころか一番開国的だ 市田

画像 市田 僕もこれを勉強してダイエットせなあかんなぁ。(笑い)

 TPPは安全の面からも大問題で、いまでも検査官が少ないのにこれ以上輸入が増えれば水際の検査体制はどうなるのか。これからはフリーパスでなんの検査もやらずに危険なものが入ってくる。重大な事態がおこるんじゃないでしょうか。

 高田 私たちは、以前から「検査員を増員してほしい」という運動を、港湾で働く人たちといっしょにしてきましたが、いまでも検査率はわずか12%です。しかも、アメリカやEU(欧州連合)は執ように「日本で使える食品添加物が少なすぎる」と攻撃しています。TPPに参加すれば、食品添加物や残留農薬の規制がさらに大幅に緩和され、健康と命が脅かされることははっきりしています。

 市田 この運動を本当に国民的な運動にしていくうえで大事なことは、マスコミや政府・財界が振りまいている誤った考え方を一つひとつ事実にもとづいて打ち砕いていくことです。たとえば「第3の開国だ」というが、いま日本は鎖国状態なのか。日本の農産物の平均関税率は12%ですよ。韓国が62%、メキシコが42%。日本は鎖国なんかじゃない。もっとも開かれているんです。事実が証明しています。

 それから、農業が持っている多面的な機能について、日本学術会議が評価額を出しています。洪水防止など農業で8兆円、森林で70兆円、漁業で11兆円というものすごい数字です。こういうことを明らかにしていくことは、単に食糧の問題だけでなく、豊かな環境や国土を守るという点からも、国民の支持を得るうえでも大事なことです。

 自給率13%まで下げていいか 白石

画像 白石 オーストラリアでは、干ばつから一転大洪水に襲われ、麦がほとんど収穫できない事態になり、日本の商社が買い付け先を求めて、カナダなど世界中を飛び回っているそうです。異常気象で農産物の収穫が不安定になっているとき、食糧を外国に依存し、食料自給率を13%にまで下げるようなことをしていいのか。このこともおおいに訴えれば、わかってもらえることです。

 市田 まだ国民的な大運動にはなっていないけれど、徐々に広がっているし展望はあります。食料自給率の向上を願っている人や安全なものを食べたいという国民は圧倒的に多い。大義と道理はわれわれにあります。疑問を持っている人にいかにわかってもらうかが、この運動のカギです。

 大黒 派遣切りが横行し、“派遣村”に見られるように国民的な批判にさらされました。それなのに、財界・大企業には反省がまったくないし、犯罪をおかしているのではないか、と思っている人もたくさんいます。靴の関連業界でも、関税が撤廃されたら靴工職人を含めて大打撃を受けると言っています。それから、地球温暖化の防止に、農業の果たしている役割が見直され、そこに関心を持っている人たちもたくさんいます。こういう人たちも含め、大きな共同をつくっていけるのではないでしょうか。

 高田 新婦人には若い女性たちが増えています。その人たちに「TPPってなに?」と、クイズを使った学習会を開いていますが、食料自給率が13%にまで下がるなんて、誰も思っていないですよ。「お米の自給率がどうなる?」って聞くと、「50%くらいかな」と。まさか90%もなくなってしまうなんて誰も信じられない。本当のことを知らせるとびっくりして、「じゃあ、どうすればいいの。なにやればいいの」ということになります。やっぱり事実を正確に伝えていけば、どの女性とも手をつなげることを実感しますね。

 市田 私たちの立場を「守旧派」と攻撃する人もいますが、グローバル化の時代に貿易それ自体に反対なのではありません。足らざるものをほかの国から輸入することはあってしかるべきです。しかし、市場にゆだね貿易に依存してはいけない分野があります。それは食糧であり、環境、雇用・労働などです。このことは、多数の国民に理解してもらえるのではないでしょうか。貿易一般に反対ではなく、こんなものまで市場にゆだねて売り買いしていいのか。ゆずってはならない大事なものがあるんだ、という訴えが必要です。

 TPPを推進する政府と財界は、農業だけでなく日本の国土と社会を滅ぼし、亡国の道を歩む売国奴であって、農民連こそ愛国者だ。TPPに反対する人たちこそ愛国者だということをおおいに宣伝していく必要があると思います。

(次号に続く)

(新聞「農民」2011.1.3付)
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2011年1月

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