「農民」記事データベース20100823-937-05

いま地域農業と農民連の出番!
その展望(要旨)

研究交流集会での
渡辺信夫さん(立命館大学講師)の記念講演

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農民連は担い手づくりの主役

 「農の危機」の中身

画像 いま、農業だけでなく暮らしも地域も危機的な状況にあります。しかし、危機の時代というのは変革のチャンスです。農業と農村の危機を切りひらく担い手をどうつくりあげるのか、それが今日の最大の課題だ、というのが私の考えです。

 「農の危機」の中身は次のようなものです。

 (1)農業ではメシが食えない、つまり農村では担い手の定住条件が根底から壊れている、(2)農地や水や農道など、さまざまな農業資源が維持困難になっている、(3)農民が蓄積してきた環境にやさしい農法や技術が効率一辺倒の農法によって危機的な状況に追い込まれ、それが食の安全や環境の危機に連動している、(4)農業が工業化、グローバル化することによって、ヒト、モノ、カネ、情報の地域的・持続的な循環が崩れている。

 これらの根源にあるのは、アメリカの食糧戦略による貿易自由化と財界主導の新自由主義的な安上がり農政、そしてアグリビジネスの支配です。

 農業再建は集落から

 地域農業の再建に当たって、私がなぜ集落と旧村にこだわるのか。

 集落は、農村の暮らしがいまもなお依拠している共同体で、その基礎は結い、手間替えから始まった協働です。

 旧村は、土地改良区を中心とする施設の整備・管理の主体ですし、農協の共販体制の基礎組織です。また、村づくり運動の基礎地域になります。

 集落を基礎にした農業再生の事例を、滋賀県内から2つ紹介します。

 一つは、甲賀市水口町の酒人(さこうど)地区です。69戸の農家は全部第2種兼業で、53・8ヘクタールの農地を、全部集団的に利用する形態に編成替えし、20代の若い人たちから高齢者まで組織して仕事をつくり、労賃と地代を保障して、所得を上げています。

 もう一つは、高嶋市安曇川(あどがわ)町北舟木地区です。元農協職員が興した有限会社が集落の農地のすべてを経営管理し、この会社と高齢者ばかりの集落営農で75ヘクタールの農業を再生しようという試みです。耕作放棄地をなくし、加工品の販売にも事業を拡大しています。

 山村の村づくりでも

 次に、もっとも困難な山村の村づくりについて、京都府・旧美山町の事例を紹介します。

 薪炭林と結びついた零細な農業しかなかった地域に、ダム開発を契機にお茶と酪農、養豚、養鶏を導入し、農業の近代化と水没農家の新しい農業経営を実現しました。また、その後の村づくりによって「近畿で住んでみたい山村」の第1位にも選ばれ、300人を超える移住者を迎えています。

 美山町がつくりあげた旧村単位の農協の組織と自治会組織、町独自の「地域振興会」は、村づくり運動のひとつの典型だろうと思います。この経験からの教訓は、(1)中学校区を単位に、集落、旧村の住民が地域課題を明確にし、一つひとつ合意を積み上げ、「お互い様の社会づくり」をやりあげていく、(2)どんな限界集落でも「歴史と宝」を持っており、それを発見し磨きあげて、個性ある村をつくりあげる、(3)都市住民との交流・提携を村づくり運動の大きな課題にする、ということの大切さです。

 しかし、いまやこの美山町でさえ、農協と自治体の広域大合併によって厳しい事態に直面しています。ここを乗り越えることが今の課題です。

 担い手・組織づくり

 地域に根ざして、農の再生と担い手づくりをどう進めるか。実践例から学んだ手がかりは、エリート型でない「全員野球」方式によるエネルギーの結集と、集落・旧村をベースに村づくり運動を推進する担い手・組織づくりなどです。

 こうした課題に民主的に取り組むことができる組織は、農民組合・農民連をおいて他にありません。その意味で、「21世紀は地域農業と農民連の出番だ」と私は確信しています。

(詳細は雑誌「農民」62号に掲載予定です)

(新聞「農民」2010.8.23付)
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2010年8月

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