米戸別所得補償モデル事業 水田利活用自給力向上事業
事業にのる人も、のらない人も
米価下落は大問題
不安と悩み のなかスタート
関連/米価安定なしに生産も「モデル事業」も もたない
4月から、米戸別所得補償モデル事業と水田利活用自給力向上事業の受け付けがスタートしました。「減反をして米モデル事業にのったほうがいいのか」「転作に何を作ったら良いのか」「よくわからないので、農民連で学習会をやってくれ」―いま多くの農家が悩み、集まればこの話で持ちきりです。
政府が超安値で備蓄米を買い入れて米価引き下げを助長し、需給が混乱している中で、事業に加入するしないにかかわらず、共通する大問題は“米価の下落”です。
加入申請の締め切りは6月30日です。各地の取り組みを追ってみました。
事業にどう対処するか
組合員の意見はまっ二つ
秋田県農民連
秋田県農民連は3月30日、「米戸別所得補償モデル対策にどう対処するか」を主テーマに、「ものづくり研究交流集会」を秋田市で開催しました。毎年この時期に開いているものですが、今年は新制度がスタートするのに情報がなかなか農家まで伝わらず、内容がよく理解できていないことから、しっかり学習して早めに営農方針を決めようと開かれました。21人が参加しました。
最初に佐藤長右衛門県連委員長が発言し、制度の内容と問題点、民主党政権が米価下落対策を何一つとろうとしていない実態を指摘。その後、各地の現状を報告しあいました。
能代市の集落営農組合代表の池端重光さんは受託を含め30ヘクタールを耕作する地域の担い手です。「集落組合を立ち上げたころは補助金でなんとか経営を維持できたが、今はそれも期待できない。今年は新規需要米で行くしかない。いちばん心配なのは米価が下落すること」と話しました。
北秋田市の認定農業者の会会員で、大豆転作を含め18ヘクタールを経営する佐藤茂延さんは、「今年は加工用米でいく方針。所得補償というが、助成金が米価引き下げに作用することが予想され、経営はたいへん困難になる」と顔を曇らせました。
業者が収入を試算
これらの報告の後、「フル作付コース」「戸別所得補償コース」「水田利活用コース」の3つのパターンについて、想定される米価をもとにした試算を、地元の米穀業者が報告。これをもとに議論しましたが、参加者は、主食米を全面作付けする人と加工用米を計画する人と、意見がまっ二つに分かれました。
(秋田県農民連・佐藤長右衛門)
秋の米価が不安
とりあえず今年だけでも
岩手・軽米町 関向さん
岩手県の最北端、青森県と接する軽米町で稲作を営む関向良雄さん(56)。これまで、減反しないで3・8ヘクタールの田んぼを耕作するほか、稲作作業を受託しながら専業でやってきました。
関向さんは、「戸別所得補償で農家に補償される分だけ、米価が下げられるおそれがある」という話を聞き、日ごろから作業や出荷を協力し合っている周りの5人の農家と相談しました。そして「このままでは秋の米価に展望がもてない。まずは今年だけでも減反をして戸別所得補償に乗ってみよう」と判断しました。
転作に選んだのは、飼料用米。これまで主食用には「いわてっこ」を作付けしてきましたが、農協から配布される飼料用の苗を使い、約3割の田んぼに作付けし、農協に出荷することにしました。試験場のデータでは反収1トンという多収品種です。
しかし、「キロあたり数十円だから、実際には米代金そのものはあまりあてにならない。水田利活用自給力向上事業で新規需要米に交付される8万円に期待するしかない」と、関向さんは語っています。
(岩手県農民連 岡田現三)
加工用もち米で対応
仲間と話し合いながら
千葉・匝瑳市 伊藤さん
千葉県農民連の執行委員で、匝瑳(そうさ)市で水田5・6ヘクタールを耕作する伊藤秀雄さんは、これまでは減反してきませんでした。匝瑳市は、超湿田地域でもあり、減反の参加者が少ない地域です。しかし伊藤さんは今年は2・2ヘクタールの加工用のもち米を作って減反に参加し、戸別所得補償制度を活用しようと考えています。
「一番の心配は、戸別所得補償で助成される分、出来秋の米価が下落しそうなこと。“さて今年はどうするか”と悩んでいたら、米トレーサビリティ法の施行に向けて加工用米のもち米が大量に欲しいという業者の引き合いがあった。大規模にもち米を作れば、米モデル事業と水田利活用事業の交付金を両方活用でき、経営全体で反収1万4000円※超を確保できそうだ」と伊藤さんは言います。もち米の話が決まったのは3月4日で、伊藤さんが1回目の種まきをしたのが3月16日。種まき直前の方針転換でした。
伊藤さんは、農作業受託や販売などを農事組合法人栄(さかえ)営農組合の仲間と共同でやっており、市役所の農政課からも2回説明に来てもらうなど、どう対応するかを話し合っています。栄営農組合では、米粉をパンやケーキに加工して直売もしており、新規需要米の米粉への助成も活用することにしています。
「歴代の自民党農政にも、新政権で始まった戸別所得補償制度にも文句はいろいろあるが、農家にとって重要なのは、経営全体で収入がどう確保できるかということ。使える助成は活用して、したたかに営農を続けるしかない」と語っています。
「白毛(しらけ)もち米は加工用米」
度重なる交渉の末 やっと認めさせる
長野・上伊那農民組合
長野県の上伊那農民組合は伊那谷に古くから伝わる白毛もち米を栽培しています。白毛もち米は草丈が長く倒伏しやすいなど栽培がむずかしく、収量も反収7俵程度しかありません。しかし、「地産地消でがんばろう」と20人の組合員が10ヘクタールまで増やし、切りもちに加工して地域特産品として地元のスーパーや生協、直売所などで販売してきました。
今回の「水田利活用自給力向上事業」の加工用米として「交付の対象になるはず」と市当局や農政事務所と交渉、また市議会でも取り上げられました。
しかし、農政事務所は「生産調整方針認定要領」をタテに「従来、主食用の枠内で生産されていたものは、加工用扱いはできない」と拒否しました。
そこで農民連本部に相談し、農水省の担当者に対して「現実に水田で加工用米を生産している」「水田を利活用して自給率を向上させるという政策目的からも加工用米として認めるべきだ」と主張しました。
その後、農民連本部と農水省との間で何度かのやり取りがありましたが、農水省は「農事組合法人上伊那農民組合産直センターが実需者として各農家と契約を結べば、加工用米として認定する」と回答。地元の農政事務所も上伊那農民組合に対し同じ趣旨を伝えてきました。
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白毛もち米を手に話す上伊那農民組合の竹上さん |
要求が実現する見通しで、白毛もち米の栽培農家には大いに励みになっています。
(長野県農民連・上伊那農民組合 竹上一彦)
※【訂正】 5月17日号にて、以下の訂正がありました。
4月26日付1面「加工用もち米で対応 千葉・匝瑳市 伊藤さん」の記事で、「1万8000円」は「1万4000円」の誤りでした。おわびして、訂正します。
2010年5月24日、訂正しました。
(新聞「農民」2010.4.26付)
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