「農民」記事データベース20091123-902-08

地場産野菜が学校給食に
地域が元気になった(1/2)

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画像 和歌山県すさみ町は、紀伊半島のほぼ南端にあります。深い山が太平洋岸まで迫り、平地はほとんどありません。人口5000人余り。農漁業と観光が主な産業ですが、専業農家はほとんどいません。そんな町で、農家のお母さんたちがつくった野菜が学校給食で利用され、「地域が元気になる」取り組みと注目を集めています。
(町田常高)


和歌山・すさみ

小さな町の大きな取り組み

主役は農村のお母さんたち

 “さつまいも 見つけたぁ”

 すさみ町内には3つの小学校と2つの中学校があり、生徒・教職員の約400食の給食を町の学校給食センターが供給しています。

 10月15日のメニューは、鶏肉とさつまいものカレー、フルーツヨーグルト、牛乳。センターの栄養士、岡本富美子さんは周参見(すさみ)小学校の教室を訪れ、子どもたちの反応を確かめます。「おいもが2種類入っています。わかるかな?」「さつまいも、見つけた!」「おいしーい!」

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みんなカレーは大好き。「おかわり!」

 カレーライスは子どもたちも大好き。おかわりする子が続々です。そして、このカレーライスの材料のうち、さつまいも、じゃがいも、たまねぎ、しょうが、にんにくは町内産。米は町内を含む県内産なのです。「地産地消」を推し進める同町では、学校給食の食材の50%以上(重量ベース、米を除く)を町内産でまかなっています。

10月15日の献立て
とりにくとさつまいものカレー
フルーツヨーグルト
ふくじんづけ
ぎゅうにゅう
とりにく・さつまいもじゃがいも・にんじん・たまねぎしょうがにんにく・カレールウ・みかん・パイン・バナナ・ヨーグルト・さとう・ふくじんづけ・こめ・ぎゅうにゅう
712Kcal 21.8g
 は町内産

 

 

 “心配”よりも喜びがまさる

 食材を供給しているのは、JA紀南すさみ地区(旧・JAすさみ)管内の組合員でつくる「ひまわり会」(古田信子会長)です。約60人の会員はいずれも大きな農家ではなく、「家庭菜園の延長」といった規模。お母さんたちが主役です。2005年から農協の敷地内で朝市を開き、順調に売り上げを伸ばしてきました。

 これに目を付けたのが、給食センターの岡本さんでした。「子どもたちに安心で新鮮な地元の野菜を食べさせたい」と、学校給食への供給を打診したのです。しかし、朝市は多品目・少量の出荷ですが、給食となれば毎日、まとまった量を出さなければなりません。古田会長は「確実に調達できるのか、心配でした」と振り返りますが、「子や孫が食べる給食に自分たちの野菜を使ってもらえる」という会員のみなさんの喜びが勝りました。

 2007年9月に供給を開始すると、「近所の子に『今日のトウモロコシはおいしかったよ』と言われた」など、さっそくうれしい手ごたえがありました。生産者もさらに張り切って、「新しくゴボウを作ってみた」「あれこれつくって寝る間もない」と、扱い品目や数量を増やしてきました。とくに、古田会長ら5人の生産者は新たに「コスモス会」を結成し、休耕田を給食専用の畑に転換。ジャガイモやタマネギなどを栽培して大量の注文に応えています。

 さらに、生産の拡大とノウハウの蓄積を生かして、「ひまわり会」の野菜は、保育所や町立病院、お年寄りの給食サービスなどにも供給されるようになりました。

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「ひまわり会」のお母さんたち。後列中央が古田会長

 安心や新鮮に代えられない

 この「地産地消」の取り組みの提案者である給食センターの岡本さんは、町役場や農協、生産者のもとを自ら奔走し、実現のために奮闘してきました。「なんといっても、地元の野菜は新鮮でおいしいんです。それを子どもたちに味わってほしい」と願います。

 小規模な生産者の野菜を集めるため、形や大きさが不揃いで下処理に手間がかかったり、ほとんど農薬を使わないため、とくに葉物は虫に注意が必要、といった問題はありますが、「安心」や「新鮮」には代えられません。食材費が節約できたり、包装資材が不要という利点もあります。

 「小さい町だからできる、という面もある」と岡本さん。400食程度なら、天候不順で予定の野菜が間に合わなくても、すぐに別の手だてを考えられます。畑を見に行って、その場で新しい献立を思いつくことも。

 「『大根の葉っぱ、あるんやけど』とか言われてね、その場で変えちゃうんです」

 いろいろなアイデアもすぐに実行に移せます。野菜のほかにも、目の前の海でとれるイカや、町特産のイノブタも給食に取り入れてきました。また、生産者には食材を供給してもらうだけでなく、子どもが畑へ出かけて、サツマイモの栽培を体験したりもしています。

 月1回発行する給食センターのニュース『いただきます』には毎回、生産者が写真入りで登場し、生徒や保護者に親しまれています。

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明日使うサトイモを確かめに。手前が岡本さん

 “学校は何ができるのか”

 岡本さんらのとりくみを、町も全面的に応援しています。

 同町教育長の原口増夫さんは、「地元の農産物なら安心、安全ですし、フードマイレージが少なく環境にもやさしい。生産者も元気になって、いいことばかり」と言います。原口さん自身も、毎日、子どもたちと同じ給食を食べています。

 しかし、35年前に給食センターを開設したときに1200だった配食数が、人口減少と少子高齢化で、今日では3分の1になってしまいました。なんとか地域を元気にしたいという思いは、町民に共通しています。「学校は何ができるのか。給食を通じて、子どもたちにふるさとをもっと知ってもらうことが、とても大切」と原口教育長。こうした思いは、給食職員や教員はもちろん、町長にも共有されています。

 給食用の米も町内で自給へ

 すさみ町は来年、町内の農家と契約して、給食用の米も100%自給する計画です。

 一方、岡本さんたちはこの秋、大麦の種をまきました。来年の夏、この麦が実ったら、子どもたちといっしょにみそづくりをしようと考えています。大豆は「ひまわり会」の会員が今年つくったもの。子どもたちが田植えや稲刈りに汗を流したもち米もあります。給食で使うみそも町内で自給しようという試みです。

 小さな町の「地産地消」の夢は、いよいよ大きく育っていきます。

(新聞「農民」2009.11.23付)
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2009年11月

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