「農民」記事データベース20080630-834-09

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環境と自然、くらしを守って(2/2)

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乱獲防ぎ生態系保存 その名も「エコ・フィッシュ」

少量多品種・新鮮が“売り”
静岡・網代漁業(株)

 持続可能な漁業を求めて

画像 わが国は輸入量 ・輸入額とも世界第一の水産物輸入国です。過剰な漁獲や養殖漁業が及ぼす環境への負荷は、資源の枯渇と海の汚染ばかりか、貧困な国の人々に脅威を与えています。漁業資源と海洋環境に配慮した持続可能な漁業が求められています。

 そんななか、静岡県熱海市にある網代漁業(株)の泉澤宏さんは後継者の育成とともに、エコ・フィッシュにも取り組んでいます。エコ・フィッシュとは、過剰な漁業は行わず資源を枯渇させず、漁場となる海の生態系やその生産力を持続できる漁業を行うこと。とくに定置網は、少量多品種生産で消費者に新鮮で豊かな食生活を提供する漁法で、まさにエコ・フィッシュそのもの。「環境にやさしい農業は地球を救う」ことと、なにか通じるものがあるようです。

 乗組員の半数は若者、高校新卒も

 早朝四時、まだ真っ暗な漁港に灯りがひとつ。それが、網代漁業の事務所です。これから、沖合の定置網を引き揚げに二艘(そう)の漁船が出港しようとしています。

 暗闇のなかから、ひとりふたりと、茶髪の若者や海風に深く刻まれたしわ顔の男たちが集まってきました。総勢十五人の乗組員がヘルメットにカッパを着込み、社長の泉澤さんが乗り込むと、それが合図のようにエンジンが朝もやの相模湾に響きわたり、さあ出港です。静岡県定置漁業協会の専務で、「21世紀の水産を考える会」代表の山本浩一さんも乗り込みました。

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海で働く元気な若者たち

 定置網は百余年の歴史を有する伝統的漁法ですが、いまでは機械化・省力化がすすみ、クレーンなどを装備した揚網船です。乗組員の機敏な動きは、見ていて気持ちがいい。十五人のうち約半数は若者。なかには焼津市にある県立漁業高等学園をこの春卒業したばかりの十代もいます。「朝、早くてたいへんだね」と声をかければ、「いえ、もう慣れましたから」とエンジン音に負けまいと元気な返事がかえってきました。その脇で「半月も働きゃあ、慣れたもんさ」と頼もしそうにみつめる泉澤さん。

 定置網の漁場に着くと、向かい合った二艘の漁船がロープを巻きつけて網を手繰り寄せ、みるみる網がせばまって魚がピチピチと跳ねだしました。山本さんによれば「今日は水温が少し高くて、普段より漁獲は少ない」そうですが、サバやアジ、カタクチイワシにトビウオ。それにクロダイも。若者たちは一本のロープをつたって向こう側の漁船に飛び乗り、さっそく水揚げです。「なるべく生きたまま活魚で出荷すれば値段はぜんぜん違う」と日東製網の松尾浩司さん。すべての操業が終ったのは、六時近く。海の風が乗組員の汗を吹き払ってくれたようなすがすがしさを感じました。

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左から山本さん、松尾さん、泉澤さん

 水産物奪い合う時代の恐れ

画像 わが国は四面 を良質な漁場に恵まれた漁業生産国ですが、食用魚介類の自給率は、表のように年々落ち込んでいます。また、BSEや鳥インフルエンザによる食肉不安や、欧米では健康志向の高まり、中国など発展途上国の経済発展などから、世界的に水産物に対する需要が高まり、かつてのようにカネを出せばどこからでも買える時代ではなくなりました。水産物の奪い合いの時代が到来する恐れがあります。

 水産庁では、国民一人が春にカツオのタタキを一皿増やせば自給率が一%あがるなどと呼びかけ、二〇一七年には六五%に引き上げようと計画していますが、「魚離れ」が進んでいます。

 また、沿岸漁家の漁業所得は約二百八十万円で、年金や他の労賃で家計の不足分を補っているのが現状です。さらに、燃油価格の高騰が経営を直撃。イカ釣り漁業者が、燃油代への直接支援を求めて、いっせい休漁に踏み切りました。

 海の食糧主権確立めざして

 山本浩一さんが代表をつとめる「21世紀の水産を考える会」とは、簡単に言えば、お魚が好きだったり興味のあるいろいろな人が集う会で、漁民をはじめ水産加工・流通関係者、研究者など会員数は約三百人です。

 山本さんは「私たちは八年前に『21世紀への提言』をまとめましたが、それはまさに食糧主権の確立そのものでした。食糧主権の確立を求めて運動している食健連の一員になれたことは、私たちの大きな喜びです。農業と同じように、水産業にも『構造改革』の波が押し寄せようとしていますが、みなさんといっしょにその実現に向け奮闘したい」と抱負を語っています。

(新聞「農民」2008.6.30付)
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2008年6月

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