「農民」記事データベース20080630-834-08

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環境と自然、くらしを守って(1/2)

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間伐作業、一手に引き受け 地域の振興にも一役買う

森林所有者に利益還元
群馬・多野東部森林組合

画像 地域の森林を適正に管理し、林業の再生に大きな役割を果 たしている森林組合。群馬県の多野東部森林組合(新井和子組合長)は、森林所有者に森林整備を積極的に働きかけ、作業を受託し集約化する取り組みで注目を浴びています。

 多野東部森林組合は、県西南部の藤岡市と吉井町を管轄。県都・前橋市に近く、市街地から車で三十分も走れば、周りを森林に囲まれ、集落が河川に沿って点在する山間地です。組合員数は約千六百人で、組合員一人あたりの平均森林所有面積は八・三ヘクタール。森林組合としては小さいほうです。

 現場作業員(十八人)の平均年齢は四十歳。ここ数年は地元よりも都会からの転職組が増えています。「環境問題への関心など、若い人にとっても魅力のある仕事のようです」。組合参事の南三夫さんは言います。

 現場で働く小野塚正さん(57)は他業種からの転職組。「CO2吸収など環境に影響が大きい林業。元気な緑を作っているという実感が持てます。木が立派に育ってくれることに喜びを感じます」と笑顔で語ります。

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多野東部森林組合の南参事(左)と小野塚さん

 車、チェーンソーまでそろえ

 一方で木材価格の低下、林業従事者の高齢化に後継者不足など林業を取り巻く環境は厳しくなっています。こうした状況のもとで、二〇〇六年に就任した新井組合長は、全国で三番目の女性組合長。就任あいさつで「新規事業を模索し、補助金等に頼らなくても組合員や地域社会のために貢献できる、強く自立した森林組合に成長するよう役職員一丸となって努力していきたい」と意気込みを述べていました。

 その努力の一環として、組合は「提案型集約化施業」に取り組んでいます。これは、組合が森林所有者から利用間伐等の森林管理を受託し、その収入の一部を所有者に還元するというもの。

 〇六年度は、組合が施業する地域を団地として七十ヘクタール設定し、施業内容や収支を示した「プラン」を作成。森林所有者に提案して説明会などを通じてプランを承諾してもらい、作業の効率化・機械化を図りました。〇七年度は、そのうちの三十ヘクタールで作業路網と高性能林業機械を用いた集約化施業を実施し、所有者に収益を還元しています。

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整備された森林(多野東部森林組合提供

 高齢化、後継者難に対応して

画像 こうして木材の生産コストの削減、小規模所有者の間伐材の販売、継続的な森林整備が可能に。

 「作業機器・機材は作業員が自分もちの組合が多いなかで、多野東部森林組合は、巡視車両、輸送車などの軽トラック、軽ワゴンのほか、チェーンソー(電動のこぎり)、草や小径木を刈る刈払機などを一式そろえている」(南参事)からこそできる取り組みです。

 三十ヘクタールのスギ、ヒノキ林を所有し、組合に森林管理を委託している飯塚家茂さん(80)=藤岡市=は「高齢で森の管理が大変ですが、組合の若い人たちに、作業道の整備をしてもらい、障害木や細ものなどの伐(き)り捨て間伐をやってもらって助かっています」と信頼を寄せます。

 組合は、同施業に取り組む「モデル組合」に指定され、ここ数年、テレビ、雑誌に取り上げられる回数が増えるなど、注目を浴びています。

 南参事は今後の抱負を語ります。「施業の実施規模をさらに広げ、間伐材の有効な利用方法についても検討していきたい」


温暖化防止に大きな役割

日本の森と自然を守る全国連絡会代表
宇都宮大学名誉教授・農学博士
笠原 義人さん

画像 人工林を健全に成長させるためには、間引きをする除伐や間伐などの手入れが必要です。森林が管理されず、間伐が行われないと、木が過密状態で日光が当たらなくなり、下草など植物が育ちにくくなって、土壌もやせてきます。土砂が流出しやすくなり、保水機能も低下し、土砂災害や洪水など自然災害の原因になるのです。

 そういう点からも、森林組合が森林管理に果たす役割は大きなものがあります。ある地域では、林業の振興のために森林認証を取得し、森林管理から伐採、製材、加工、販売を通じて住宅建設まで結びつける、森林組合が中心となった地域ぐるみの取り組みを展開しています。環境保護の観点からも、間伐材や林地残材を使った木質バイオマスの利用も全国的に広がっています。

 一時期に比べ、外材が高騰し、輸入量も減少。全体の需要量は減っているものの、国産材への需要が高まっています。CO2の吸収源として、温暖化防止にたいする森林の役割が注目されています。今後、林業を採算がとれる産業として再生させることが最大の課題です。

(新聞「農民」2008.6.30付)
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2008年6月

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