「国際フォーラム」の報告から
関連/地球温暖化・食糧危機
地球温暖化の実態と、解決に向けた課題
国立環境研究所特別客員研究員
西岡 秀三氏
やればできるし日本に技術ある
IPCCの昨年の報告書では、温暖化はすでに始まっており、その原因は人為的であり、今すぐ手を打てば二〜三度上昇くらいに抑えられる、そのためには二〇五〇年までにCO2排出を半分にと言っています。
温暖化を止めるには、人間が出すCO2を、土壌や海など自然が吸収できる水準まで減らさないといけません。まさにエネルギーをたくさん消費する社会を変えるという歴史の分かれ道に私たちは立っているわけです。やればできるし、日本にはその技術もあるのですから、政治も産業も全力で取り組むべき時です。
温暖化の影響はすでに現れています。日本の農業への影響では、果樹は全都道府県で、野菜は九割、水稲は七割の県で影響が出ています。水稲では九州で未熟粒が増加したとか、ミカンの日焼けなどとくに果樹は影響が深刻です。このほかにも大雨が多くなった、暑い日が増え、寒い日が減った、などなど。
どの国でも春が早くなっている
余談ですが、科学者は“ここがこうなる”という分析はできても、それが良いのか悪いのかという価値評価はできません。たとえば、温暖化するとカナダでは穀物がたくさん出来るようになるが、インドでは壊滅的被害を受けてしまう。貿易すればいいじゃないか、という議論もあるんですね。ではカナダから小麦を安く出してくれるのか。食糧供給の予測では、人口増加や投機など、予期せぬ影響の可能性も私たちは考えなければならないと思います。
IPCCは世界中の二万九千データを調べて、どの国でも春が早くなっている、生物種の生息域が移動する、台風の勢力も強力になると予測していますが、予測どおりのことが増えています。また雪は水をためる大切な役割がありますが、すでにいま世界中で雪が減って河川の流量が減るという問題が起きています。
今後十〜二十年はどうやっても気温上昇は進んでしまいますので、日本の農家の皆さんには、田植えを遅くするとか、牛舎を風通しよくするなどさまざまな適応策を、そろそろ取り始めてもらいたいと思います。
利益追うあまり資源使い尽くす
皆さん、農村の風景を見て、自然の恵みが見えるでしょうか。農村には食糧、水、バイオマス、ダム効果のある雪などたくさんの恵みがありますが、グローバリゼーションというのは、食糧とお金だけのやり取りです。このままでは目先の利益を追うあまり、自然資源を使い尽くすのではないでしょうか。自然資源を生み育てる土地を守る農山村の役割は、今後もっと大きくなるでしょう。
日本が世界にできる一番の貢献は、援助よりも日本がCO2を出さない社会をまず作ってみせることだと思います。歴史に対する貢献といえるかもしれません。私たち科学者は「ロサンゼルスを輸出するな」と言っていますが、今の援助を見ると、従来のエネルギーを消費する文化やライフスタイルを輸出しようとしています。それぞれの国独自の文化、風土に合った生き方を見直すいい機会だと思います。
国立環境研究所で、「低炭素社会に向けた12の方策」を発表しました。とくに強調したいのは、「安全でおいしい旬産旬消型農業」という項目です。地産地消はもちろんですが、国内でも石油をどんどん投入する農業が、はたして低炭素かということもあります。低炭素社会にむけて、生産者と消費者が一体になった取り組みが、非常に重要です。
地球を温暖化から救う、持続可能な
農業をめざす食糧主権運動
ビア・カンペシーナ国際代表
ヘンリー・サラギ氏
温暖化により農業衰退、砂漠化
現在のグローバル規模の生産・消費パターンは、地球温暖化を引き起こし、地球全体の生態系を危機にさらしています。温暖化は、化石燃料の大量
消費や過剰生産、貿易自由化に基づく開発モデルの失敗の結果です。
小規模農民は、気候変動の影響を最初に受けます。大きな干ばつや洪水、嵐がもたらされ、農地や家畜、農民の家々が破壊されています。収穫が妨げられ、世界で飢餓人口が十億人を突破しています。温暖化により、セネガルで五〇%、インドで四〇%もの農業が衰退し、農地の砂漠化も加速しています。
食料輸送で大量の化石燃料消費
大陸間で輸送される食料や集約的な単一栽培、モノカルチャーは、土地と森林破壊、そして化学物質の使用など農業分野での燃料消費を増大させ、気候変動の一因となっています。
グローバル化した農業と企業による農業生産が、温暖化をどのように引き起こしているのか。
第一に、きれいにパッケージされた食料が世界を飛び回り、アフリカ産果物や野菜がヨーロッパで売られ、アジア産の米が南北アメリカやアフリカで売られています。食料輸送に大量の化石燃料が使われ、大気中に多くの二酸化炭素(CO2)を排出しています。
二番目に、工業的生産手段を強要され、モノカルチャーのプランテーション、資本主義的な農業生産が、食料・非食料を問わず、世界中に広がっています。工業的生産は、巨大トラクターを使って土地を耕し、食料を加工することに多くのエネルギーを消費します。
温暖化促進するアグロ燃料生産
三番目に、生物多様性が破壊される点です。CO2は、原生林に吸収され、泥炭地でも土壌の有機物によって吸収されることで、気候のバランスを保ってきました。しかしプランテーションのために森林を伐採し、森林を焼き払ったりしています。森林や牧草地、耕作地がショッピングモールや観光リゾート、ゴルフ場などに変えられています。CO2吸収容量が縮小しているのです。
次に、植物由来のアグロ燃料のように温暖化の解決法として提示されているものが、実際には問題を引き起こしています。車を走らせるために、食料を作るというのは狂気のさたですが、工業的なアグロ燃料は温暖化を促進しています。わずかばかりの温室効果ガスの削減と引き換えに、アグロ燃料生産のために、パーム油、トウモロコシ、サトウキビなどのモノカルチャー・プランテーションを増加させています。利益を得ているのは、多国籍企業、種子企業、肥料を作る化学企業、そして貿易業者です。
民衆の健康と地球の存続のため
最後に現代の食料危機についてお話しします。国際市場で低価格の農産物を流通させる政策が始まってから、すべての国が輸入に依存しなければならなくなり、食品価格の高騰が起こりました。農業・農村の破壊は気候変動のせいだと言われますが、百パーセントそうだとは思いません。
私たちは、小規模で持続可能な家族農業を守り、食糧主権の確立を要求します。農民と都市の貧しい住民が手を結び、持続可能な農業とローカルな食料の消費を支援するための地域・国家レベルの貿易政策を実施する必要があります。世界数十億人の小規模農民のために、民衆の健康と地球の存続のために、私たちは食糧主権を求め、実現のために結束してたたかいます。
(新聞「農民」2008.6.16付)
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