「農民」記事データベース20080107-810-09

農業や生態系に重大影響

国立環境研究所 西岡秀三さんに聞く

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  /農業や生態系に重大影響

 国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が十一月、地球温暖化について最新の科学的知見をとりまとめた第四次統合評価報告書を発表しました。その第二作業部会の報告書作成に携わった国立環境研究所参与の西岡秀三さんに聞きました。


 IPCCの第四次報告書が明らかにしたことで、重要なことが四点、挙げられます。第一は、温暖化が加速しているということ。第二が、その温暖化に人間が出している温室効果ガスが影響していること。第三が、すでに生態系や農産物にその影響が現れ始めていること。第四に、適切な政策があれば、今ある技術を駆使することで防ぐことが出来る、ということです。しかもここ数年の研究の進展で、これらのことが九〇%確実だと言えるようになり、温暖化が人間のせいなのかわからないから手を打たないという言い逃れが出来なくなったことが重要です。

 地球温暖化の農業への影響としては、一番最初に影響を受けるのが品種転換やかんがいなどの適応策がとりにくい小規模の農家だということが挙げられます。とくに途上国の農業が危ない。一方、先進国ではカナダ北部のような今まで耕作できなかった所で耕作できる気候になるなど、高緯度地域で増産になると予測されています。経済重視の人は、貿易がうまくいけば世界的にはバランスが取れると言いますが、これは非常に不確実で予測がつきません。

 五〇年には50%削減が必要

 IPCCでは、今から二度から三度以上、地球平均気温が上昇すると危険だと予測しています。そこに抑えるには二〇五〇年には世界の温室効果ガスの排出量を五〇%削減する必要があります。

 では日本で何をするべきか。政策としてまず必要なのが、削減目標をしっかり定めて、低炭素社会への方向性を明示することです。短期的なサイクルで利潤を得ようとする日本の産業界は、まだ省エネ対策が遅れています。しかし、政策が明確なヨーロッパでは産業界の投資もいっせいに低炭素の方向へすすんでいるのです。

 肝心なのは、エネルギー需要を減らすということです。そもそも省エネは、企業にとっては経費削減できて得になり、日本にはその技術はあるのですから、産業界はもっと努力するべきですね。

 持続可能な農業の役割の大切さ

 持続可能な社会での新しい農林業の役目というものを、もう一度みんなで確かめ直す必要があると思います。農業は食料を生産して供給するだけでなく、国土を保全したり、文化的・教育的な豊かさを提供するなど、これまではお金で換算されなかった大切な役割を果たしています。農業分野に携わる人自身も、農業のこういう機能をもっと大きくアピールするべきだと思うのです。

 現在でもオーストラリアの干ばつで小麦の価格が上がるなどの影響が出ているように、温暖化は進んでおり、気候が安定化するまでの今後五十年以上、農産物価格は変動が続く時代になります。安定的に国民の食料を確保するのに最もいいのは、自分たちで作ること。自給率を上げることが重要です。

(新聞「農民」2008.1.7付)
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2008年1月

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