WTO・FTAから食糧主権へ(2/2)FTA・EPAをめぐる問題を中心に真嶋副会長の補足報告/ (2/2)
生産不安定なオーストラリアに食料依存とはいま問題になっている日豪FTAについて報告します。オーストラリアの平均経営規模は三千三百八十五ヘクタールと、途方もなく大規模です。そして、自国の農産物の三分の二を輸出に回し、WTO交渉の場では、アメリカよりも極端な自由貿易を主張してきました。農水省や北海道、鹿児島、熊本、青森、沖縄、そして自民党からも試算が発表されていますが、日豪FTAは日本農業にたいへんな被害をもたらします。自民党は総額三兆円の被害を受け、自給率は三〇%近くまで下がると試算しています。だったら交渉に入らなければいいのであって、それを安倍内閣がやるというから大問題なのです。 同時に、別の角度からオーストラリア農業を見ると、もう一つの実態が見えてきます。図はこの約二十年間の米と小麦の生産量です。この間に三回、干ばつによる大減収がありました。小麦の場合、九四年は前年と比べて四六%の減収、二〇〇二年は五八%減、〇六年は六〇%の減収でした。 米の場合は、ピークは二〇〇〇年の百二十六万トンですが、二年後には三十一万トンに落ち、今年の予想収穫量は一万三千トンだそうです。実に九九%の減収。こういう生産の不安定な国に食料を依存することを思うと、ぞっとします。農民連はきっぱりと交渉の中止を要求します。 農協系統も日豪FTAの反対運動を一生懸命やっています。私たちも大いに共同を追求したいと思います。同時に、東南アジアとのFTAで問題になるのは熱帯果実ですが、熱帯果実の輸入によって果物の自給率はカロリー自給率より低くなっています。日豪はダメだけれど、アジアの国々とならいいという議論は成り立たないということを指摘したいと思います。
資本が外国人を低賃金で使う“隠れミノ”に…次に、労働者の“輸入”とゴミの“輸出”の問題です。労働者の“輸入”というのは、日本・フィリピンEPAの看護師・介護士を“輸入”するというもの。これに続いて日本・インドネシアEPAではホテル従業員まで“輸入”するという大枠合意がされました。もちろん、日本の労働者にどういう影響を及ぼすかということが大問題ですが、同時に国際連帯という立場から言えば、フィリピンの医療にとってどうなのか心配せざるを得ません。人口十万人当たりの日本の看護師の数は八百五十九人ですが、これでも不足です。フィリピンはどうかというと四百十八人、日本の半分以下です。フィリピン人の看護師を一番必要としているのはフィリピンで、それを日本が奪うということは絶対にやめるべきです。 もう一つのインドネシアからホテル従業員を“輸入”するということですが、これは「外国人研修・技能制度」の指定職種にホテル従業員を加えるということです。この制度の名目は外国の青年に日本で働いてもらい、技能を身に付けてその国の働き手になってもらうということですが、実態は資本が外国人を安く使う隠れ蓑(みの)になっています。 一年目は文字通り「研修」で賃金や労働条件は雇い主の任意で、平均は月額七万円ほど。その後の二年間は日本の最低賃金や労働法令が適用されるタテマエですが、厚労省の調査によると八割を超える事業所が違反しています。 今年一月、牛丼チェーン「すき家」のたった六人の労働組合が、六千人のアルバイトすべての未払い残業代を払わせて話題になりましたが、いま日本の青年たちは、外国の低賃金労働者と競争させられ、劣悪な労働を強いられています。EPAによる労働者の“輸入”は、こういう問題に拍車をかけるということを胸に刻む必要があります。
アジアを日本の産廃のゴミ捨て場にするな最後は、フィリピンを日本の産廃のゴミ捨て場にするという問題です。実は国会に提出された日本・フィリピンEPAの協定書にはフィリピン側の条項が省略されていました。その中に、日本のヒ素、水銀などを含む灰や医療廃棄物などを、フィリピンが関税ゼロで受け入れるという条項が含まれていたのです。タイとの大枠合意にも同じ条項が盛り込まれる見通しです。昨年十一月にフィリピンで行われたビア・カンペシーナの女性会議では、「ここがそのゴミ捨て場だ」と案内されたそうです。またフィリピン政府の高官は「これに合意しなければ、協定はなかったことにする」と日本側に脅されたことを告白しています。この問題は、東南アジアに対して日本がいかに横暴にふるまっているかを典型的に示しています。 今年は、WTOとFTA・EPAに対するたたかいを広げ、食糧主権の確立に至る実践を積み上げていくことが最大の課題です。そのうえで、二月にアフリカのマリで開かれる食糧主権国際フォーラムは大きな弾みになるでしょう。
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(新聞「農民」2007.2.5付)
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[2007年2月]
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