「農民」記事データベース20060306-722-01

合併拒み地域農業守る長野栄村

“脱落者出さない”が農村維持のコツ(1/2)

高橋彦芳村長にきく

関連/“脱落者出さない”が農村維持のコツ(1/2)
  /“脱落者出さない”が農村維持のコツ(2/2)

 日本一の積雪記録(七メートル八十五センチ)がある長野県栄村はいま豪雪の中。同村はまた、合併をしないで住民自治を土台にした自立の道を歩み、独自の農業振興策を推し進めていることでも知られています。二月十八日、農民連の真嶋良孝副会長、笹渡義夫事務局長、長野県連の宮沢国夫事務局長が、高橋彦芳村長を訪ね、雪害を見舞うとともに、「品目横断的対策」などへの対応を聞きました。


「田直し」事業で田面をそろえて
農家の協働を助ける

雪下ろしの助け合い制で村民の暮らしを守る

―今年はたいへんな大雪になりました。

 そうですね。栄村でも除雪作業中の事故で二人亡くなりました。ただ、記録をたどれば、今年以上に降った年は何回もあります。問題は高齢化で耐える力が弱まっていることです。

 若者がいないところで大雪が降れば、災害が大きくなるのは決まっています。昔は家族が七人も八人もいて、若い人や子どももいたからいくらでも雪を克服できました。ところが、家にじいさん、ばあさんが二人きりで、屋根に雪が積もればミシッという音も聞こえるし、戸の開きも悪くなる。そうすると、不安でたまらなくなります。村に赤ちゃんの泣き声が聞こえ、子どもたちがスキーに乗ってキャーキャー言っているようなら、だれも雪害なんて言いませんよ。

 栄村は三十年も前に、雪下ろしの助け合い制度を作りました。当時の対象は約四十世帯でした。今は百七十世帯、全世帯の一八%が対象です。屋根の雪下ろしから玄関先の雪踏みまでやります。そうしなければ、プロパンガスの配達や宅配便など現代社会の暮らしが機能しません。住民の暮らしに社会的規模で障害を及ぼすことで、私は豪雪を災害と見なすことにこだわってきました。

 雪をかいてくれた人の日当が全体で二千万円くらい。それに道路の除雪費用を加えると一億四千万円くらいかかります。これだけ投資しても、見返りになる価値を生み出すわけではありません。民間にこんなことやれるわけがない。行政がやるしかありません。“小さな政府”では、栄村はみんな生きていけないですよ。

村の明日が光り輝くように村民とともに努力

 ところが政府は、一方的に合併を押し付けてきます。合併は、国はもう面倒を見ないから、小さい村は中心になる市に見てもらいなさいということです。しかし中心になる市にしても、周辺を見る財政力なんてありません。

 政府は、合併市町村には合併特例債の大盤振る舞いをする一方で、小規模町村には、地方交付税の段階補正を削るなど、財政誘導措置で圧力をかけています。山村の人口の少ない広い村は、住民一人当たりの行政費は市の三〜四倍かかり、自主財源がないので交付税も三〜四倍になり、他人の税金で生きているように見られます。しかし、反論はいくらでもあります。診療所や交通、自然公園の保全もみんな、村がやるしかないのですから。

 栄村では、中学生以上を対象に、「合併することについて、他の市町村と協議したほうがよい」か、それとも「合併について協議するより、みんなで今後の村づくりについて研究したほうがよい」か、アンケートをとりました。結果は、「合併することについて協議」が二一・八%、「今後の村づくりについて研究」が六一・六%でした。私は、この結果を土台にして、栄村の明日が光り輝くように村民とともに努力したいと思っています。

農民の知恵・技を応援、育てながら

政府農政の後追いせず10年前から集落営農を

―農業構造改革、「品目横断的対策」に対する考えを聞かせてください。

 私はこれまで全国一律の農政の後追いをせず、農民の持っている知恵と技を応援し、育てていくことを、村の農政の根幹にしてきました。集落営農を十年前から進め、「田直し」事業はその要(かなめ)になりました。

 ここらでは田んぼの条件のことを田面(たづら)といいますが、「田直し」で田面がそろった集落から共同化を進めてきました。「田直し」は、やりたい人がというだけでなく、できるだけ集落内の悪い田んぼを全部直すようにしてもらい、いま九つの集落で水稲の共同作業集団が生まれています。

 「品目横断的対策」で猫も杓子(しゃくし)も集落営農だそうですが、栄村の集落営農は、効率化だけをねらったものではありません。言ってみれば、集落が崩壊しないことをねらっているわけです。

 法人化も、しようと思えばできないことはないと思いますが、する気はありません。法人にするとなれば、「おれはそこまでやれないすけ、やめさせてくれ」という声が出てくるからです。脱落者を出さないことが、山村農業を持続させるコツで、自由参加型が一番いいと思っています。

 栄村の水利は、三、四軒の農家では守れません。遠くから水を引いてくる長い水路の底を、一年に二回も三回もさらう必要があります。この協働が壊れると水がきません。

 集落営農のやり方はところによって違います。ただ、行政的、実践的には、水利権や利水施設、農地の所有権、農業基盤の状況を的確にとらえることが大事だと思います。耕うん機がさっと入れる田んぼと、母ちゃんが引っ張って、父ちゃんが下から押してやっと耕うん機が入れる田んぼを一緒に扱うことはとてもできません。だから「田直し」が要だったのです。

         □ >>〔次ページ〕

(新聞「農民」2006.3.6付)
ライン

2006年3月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-22249

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2006, 農民運動全国連合会