「農民」記事データベース20040209-622-08

肌で感じた世界の農民運動パワー(1/2)

座談会 世界社会フォーラムに参加して

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 一月十六日から二十日にかけて、インドのムンバイで、第四回世界社会フォーラム(WSF)が開かれました。同フォーラムは、多国籍企業の利益を最優先する経済のグローバル化とアメリカの一国支配に対抗する草の根の集会です。

 世界各国から十二万人が集まり、農民連からは副会長(国際部長)の真嶋良孝さん、女性部長の高橋マス子さん、青年部長の菅井巌さん、愛知県連の野田輝己さんが参加。世界の大きな流れを作り出している民衆のたたかいを肌で感じた四氏に語り合ってもらいました。


出席者/真嶋 良孝さん 農民連副会長(国際部長)
   /高橋マス子さん 農民連女性部長
   /菅井  巌さん 農民連青年部長
   /野田 輝己さん 愛知県農民連


世界社会フォーラム(WSF)とは
 大企業関係者や経済閣僚などが参加して世界の経済問題を討議する世界経済フォーラム年次総会(開催地の名から「ダボス会議」)に対抗する集会として始まりました。
 多国籍企業の利益を優先する政治が失業、貧困を増大させていることを告発し、公正で民主的な世界秩序をめざすのが目的です。共通スローガンは、「もう一つの世界は可能だ」。
 二〇〇一年一月の第一回から〇三年まで毎年、ブラジルのポルトアレグレで開催。これまでのフォーラムを通じて、討論の内容は、単にグローバル化や自由貿易の押し付けを告発、批判するものから、よりよい社会を実現するために、どのような目標や行動が可能なのかを具体的に論議するものに発展してきています。


飢え、貧困、農業破壊…根源にあるWTO、多国籍企業を告発

“もう一つの世界は可能だ!”


大小千二百の分科会

各地から集まった“草の根”集会

 真嶋 世界社会フォーラム(WSF)は、四日間で大小あわせて千二百の分科会が開かれるビックイベント。民衆のパワーを実感するとともに、世界の農民運動をリードする農民組織ビア・カンペシーナ(スペイン語で「農民の道」)の代表や、キューバ、ブラジル、フィリピン、韓国などの農民と交流を深めることができた。

 “WTOは生死不明の状態”

 ビア・カンペシーナの国際部門の責任者、ラファエル・アレグリアさん(ホンジュラス)は、メキシコ・カンクンのWTO閣僚会議決裂を受けて、「WTOは今、生きているのか死んでいるのかわからない状態だ」と言っていたよ。

 菅井 僕がこのフォーラムに参加した目的は、農民連がこれまでの国際活動でつかんできた世界の流れを体験すること、それが十分達成された。

 交流したフィリピンの青年は、土地を持たない農民の運動をバックアップする弁護士で、「土地の主権を」という運動に立ちはだかるWTOや多国籍企業の支配を語っていた。世界の青年と交流し、僕らも地域でがんばろうと、ますますやる気がわいてきた。

 真嶋 一日に三百も開かれるイベントの中から“厳選”して、「食糧主権と農産物貿易」「土地・水・食糧主権」というテーマの分科会や、ビア・カンペシーナが主催した「農民の権利」「食糧主権とWTO」、AALA主催の「NGOと非同盟運動」、日本原水協主催の「グローバル被爆者の証言」などに参加した。

 米国主導のグローバル化が

 野田 その中では、僕たちがWTOについて考えていることをさらにえぐり出すような発言が多かった。インドの人は、先進国と後進国の生活水準の格差を「エサをたっぷり食べているEUの牛には主権があって、私たち後進国の人間には生存権がない」と表現していた。それからセネガルの人は「IMFや世界銀行が指導する補助金カットによって、農村を逃げ出す人が増え、都市に流入している」と。世界中のいたるところで、アメリカ主導のグローバル化が、ブルドーザーで人間をなぎ倒していると感じた。

 高橋 こういうやり方がそれぞれの国々で、貧困や女性差別、労働者の首切りなどの問題を引き起こしている。社会福祉を後退させ、電力や教育、福祉などの分野を民営化し、貧しい人々に行き渡らなくさせている。日本の小泉政権と同じ構造改革が、一握りの大企業が世界的な競争に勝つことを目的に進められ、それが国民にどんなひどい結果をもたらすのか、途上国からも、先進国からも告発が相次いだ。

日本の運動に注目が

熱烈なラブコールうけた

 真嶋 ビア・カンペシーナの最初の集会では、インドと日本の代表が指名され、発言を求められた。私は「日本はかつて農地改革を短期間で終わらせ、価格保障制度もあった。しかしWTOのもとで、日本政府は、こういう制度の破壊に乗り出している。WTOは私たちにとっても、皆さんにとっても敵だ」と強調したんだ。

 国際シンポ招待に「ありがとう」

 いま、最も注目を集めているブラジルのMST(土地なし農民の運動)や、昨年ビア・カンペシーナに加入した韓国の女性組織をさしおいて、なぜインドと日本が?――と思っていたら、集会のまとめ役を務めたラファエルさんから、「インドと日本が加盟してくれることが、ビア・カンペシーナの発展にとって重要だ」と熱烈なラブコールを受けたよ。今年六月にブラジルで開くビア・カンペシーナの総会にも正式に招待された。

 ビア・カンペシーナからは他に、ヨーロッパ代表のポール・ニコルソンさん(スペイン・バスク)、アジア代表のヘンリー・サラジーさん(インドネシア)も参加していて、四月に農民連・食健連が開く国際シンポジウムに出席するヘンリーさんは、「呼んでくれてありがとう」と言っていた。

 野田 フランスの人も「ヨーロッパ全体で三分間に一つのスピードで農場が姿を消している」と発言していたね。

 食糧主権を強調する途上国

 高橋 それから「フランスで補助金を受け取るためには作りたいものを作らず、政府が言うものを作らなければならない。しかも大部分は企業的な農家が受け取っている」とも言っていたわ。

 菅井 その一方で、大量の小麦が、アフリカの中で関税が比較的低いセネガルを通じて他の国々に輸出され、アフリカの農業を押しつぶしている。

 真嶋 アメリカやヨーロッパの農民組織は、先進国が環境破壊を引き起こしながら生産を拡大し、余剰農産物を途上国にダンピング輸出する政策が世界の農業危機の根源だと強調している。

 高橋 途上国では、安い穀物がアメリカやEUから入ってくるせいで作れず、多国籍企業に牛耳られた輸出向けの産品を作らされている。しかし、本当は自分たちが食べるものを作りたい、作らせろ、というのが途上国の食糧主権の主張なのね。

 真嶋 そうだね。食糧主権に関しては、この四〜五年のビア・カンペシーナの努力を高く評価していいと思う。このWSFが始まる前に、国連に食糧主権条約を作らせるという、理論的な要求の整備がされてきている。ラファエルさんが「FAOと国連の重視」という言い方をするのも、そういう脈絡でだ。

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(新聞「農民」2004.2.9付)
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2004年2月

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